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予知能力~堂々巡り①~

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 義之は、沙織の態度をじっと見ていて、声を掛ける瞬間を探っていたのかも知れない。沙織は声を掛けるには、重たい空気を作っていた。それは、小さな「結界」のようなものだったに違いない。
 沙織が自分のことを考えている時間が長かったと思っていたが、義之にとってどれほどのものだったのだろう? 実際の時間は思っていたよりも短いものだった。
「はい、どうしたんですか?」
 今まで義之の方からの会話に違和感がなかったのは、すべての質問に自信があったからだ。しかし、今から話そうとしていることに対して、自分の中で、何か疑問を持っているように思えてならない。
 その義之が、まるで奥歯にものが挟まったかのような言い方をすることに恐怖すら感じた。
――一体、何を言いたいんだろう?
 本当のことであれ、ハッタリであったにしても、自信を持って話をしてくれるのであれば、それを信じて聞いていればいい。もし違ったとしても、
――その時は信じるしかなかったんだ――
 ということで、諦めのようなものもある。
 もちろん、それでいいというわけではないが、少なくとも、
――最善の選択をした――
 思うことができる。
 言葉では諦めだと言っているが、決してそれだけではない。
 もし、その時傷ついて後悔があったとしても、次回があることであれば、次回への糧になるはずだからである。
――私が、こんなことを感じるなんて――
 普段は、余計なことを考えないようにしようという思いから、考えたとしても、無意識だったはずなので、考えたという意識はない。だが、今回は考えたという意識があるということは、どういうことだろう?
 一つ考えられることとしては、
――相手への意識が強い――
 ということだった。
 初めて出会った相手なのに、
――前にも会ったことがあるような気がする――
 という思いに至った。
 それは、義之の話が自分に密着した話であること、そして、その話に説得力を感じ、惹きつけられる感情を有していると感じるからだった。
 沙織が義之に返事をしてから、なかなか義之は口を開こうとしなかった。ただ、視線は沙織を捉えて離さない。沙織もその視線を浴びているうちに、次の一声を自分から挙げることはできないと思っていた。
「俺はさっきも言ったように、アメリカに留学していたんだけど、その時に心理学の勉強をしていて、ロボット工学の教授と知り合ったって言ったでしょう?」
「ええ」
「その時、僕はある種の実験をするのに、手伝わされたことがあったんです」
「はい」
――一体何が言いたいのだろう?
「元々心理学と、ロボット工学というのは、あまり関係のないものだと俺は思っていたんだけど、そうでもなかったんですよね。ただ、俺は子供の頃からロボットに興味があった。子供向けの特撮番組やアニメをよく見ていたりしていたんだけど、俺には他の連中と少し違った見方があったんだ」
「どういうことですか?」
「実際に、皆ロボットの形態や性能についていろいろ論議をしたり、それがバトルに変じた時の、強弱に繋がるんだけど、それが、ロボットアニメや特撮の醍醐味でもある。それは俺にも分かるし、そういう視点でも見ていたのも事実なんだよ」
「私も多分、男性だったら、同じ見方をすると思います」
 義之は、さらに続ける。
「でも、ロボットものというのは、それだけしか見ていないと、それ以上の見方に発展はないんですよ。あくまでも、『アニメ、特撮ファン』、あるいは『オタク』で終わってしまうんですよ」
「じゃあ、あなたは違う視点で見るようになったんですか?」
「ええ、他の人とは違う視点で見るようになりました。ロボットアニメにしても、特撮にしても、同じロボットでも、人間型ロボットと、戦闘型ロボットの二種類があるでしょう? たぶん最初にロボットものを製作した人が、そういう発想で作ったことが、一般的になったのかも知れませんがね」
「ええ」
「でも、俺はその最初の発想が重要だと思っているんですよ。つまりは、ロボットものは、よくも悪くも、結局は人間中心に考えられているんですよね。つまりは、ロボットものというのは一番『人間臭い』ものではないかと思うんです」
「それは、疑似ドラマのような感覚ですか?」
「そうですね。ロボットというのは、どうしても人間に近い形で創造されている。ドラマとして作るには、作る側からすれば、格好のアイテムなのではないかと思うんです。だから、ドラマやアニメの世界のロボットと、実際に開発する側から見るロボットというのとではまったく違った様相を呈しているのではないかと思うんですよ」
 この男性が一体何を言いたいのか、分かってきたような気がするが、まだどこかはぐらかされているように思えてならない。
「ええ」
 沙織はそう言って、相槌を打つしかない自分に、少しじれったさも感じながら、なるべく表情を変えないように、それでいて、必要以上に真剣なまなざしにならないようにしようと考えていた。
 義之はさらに続ける。
「昔のロボットマンガというのは、根本は悪の秘密結社と戦うという路線には変わりはないけど、人間型のロボットには必ず『心』が存在した。そして、もう一つ言えるのは、最初は、そのロボットが『未完成』であったということです。それは人間で言えば、『未熟』という言葉と類似していると思いますが、回が進むにしたがって、成長していく物語ですね。ただ、それが普通の人間ではなくロボットだということで、人間とは違った葛藤が存在する。さらに、これも人間のエゴなのかどうか分からないんですけど、人間と違ってロボットの方が、『弱い』精神を持っているという設定になっているんですよ。もちろん、物語上、その方がインパクトもあるし、書き手からすれば、書きやすいというのもあるかも知れませんね」
「何となくですが、言いたいことは分かる気がします」
 沙織は義之の話を聞いていて、さっきまで少しモヤモヤしていた感覚が晴れてきたのを感じていた。
「ロボット工学の教授は、そのことを俺が今語ったように話してくれました。人間型のロボットの話、ロボットの話は一番『人間臭い』物語りだということ。そして、ロボットにも人間と同じような感情があって、自分の中で葛藤を繰り返しながら成長していくということ。さらには、成長しながらでも、どうしても人間よりも精神が『弱い』ということ。でも考えてみれば、最後の精神が『弱い』というのは当たり前のことなんですよ。そしてこの考えがまるで禅問答のようで、話が堂々巡りを繰り返し、袋小路に入りこませる要因にもなっているんですよ」
 沙織は、そこで初めて、表情を変えたような気がする。きっと怪訝な表情になっていたに違いない。
「どういうことなんですか?」
「ロボットというのは、人間が作り出したものなんですよ。そのロボットが、人間以上になるということは、許されることではないと思いませんか?」
 その話を聞いて、さっき自分が怪訝な表情をした原因が分かった気がした。
 さっきまで普通に話をしていて、ただ聞いているだけの沙織だったのに、初めて彼の話に気分が変わったのだ。
 それもいい方に変わったわけではない。明らかに悪い方に変わった。しかも、聞いていて、