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予知能力~堂々巡り①~

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「でも、それはあなたがそう感じているだけで、相手の人は違うのかも知れませんよ?」
「そうなんだよね、だから余計に辛いんだよ。相手を一方通行にさせてしまうことは、この俺の罪じゃないかって思うんだ」
 思ったよりも、この人は繊細な考えを持っているようだ。
「義之さんは繊細な心をお持ちなんですね?」
「そうかも知れない。しかし、俺は孤独を好きな人間だと思っている。そこには矛盾のようなものがあり、だけど、そのおかげで心理学の方では幸いしたと思っているんだよ」
「そうなんですね。でも、考えすぎということはありませんか?」
 沙織の今の質問は、自分に対してもしていた。そして、ここからの会話には、多かれ少なかれ、自分に対しても質問しているように思えるのだった。
「考えすぎということはないと思う。なぜなら、俺は何かを考えている時、いつも堂々巡りを繰り返しているという思いを持っているんだよ」
「どういうことですか?」
「堂々巡りを繰り返していると聞くと、あまりいいイメージを持たないでしょう? でも俺の場合は、そうではない。堂々巡りの中にこそ、真実が含まれていると思うんだ」
「真実ですか?」
「そう、その真実というのは、まわり全体が正当性を感じるような広い意味での真実じゃないんだ。あくまでも俺自身の真実。それだけがあればいいと思っているんだ」
「それが、義之さんにとっての『孤独』という真実なのかも知れないですね」
「そういうこと。でもそのことを悟ると、自分が冷静になれるから不思議だった」
 一拍置いて、義之は話した。
「孤独と寂しさは違うものなんだよ。孤独だからと言って、寂しいわけではない。そして。寂しいからと言って、孤独というわけでもない。孤独だから寂しいという発想は、俺の中にはないんだ」
「それは一種の開き直りのようなものですか?」
 義之のこめかみがピクリと動いた。沙織には、この言葉が義之の頭の中にはない言葉であると思いながら、敢えて口にした。
――ひょっとすると、逆鱗に触れるかも知れない――
 という思いを感じながらであった。
「俺は予知能力を持つということは、何かきっかけが必要なんじゃないかと思うようになりました。自分もそうだったからです」
「義之さんはどういうきっかけだったんですか?」
「俺の場合は、『汚いものを見た時』というのがきっかけだったんです」
 沙織は意外そうな表情をしたが、その表情の奥には、
――疑念を持ってはいけない。その思いを顔に出してしまってはいけない――
 と、思った瞬間、義之はニコニコしながら、
「ね、そういう感情になるでしょう?」
「えっ、どういうことなんですか?」
 沙織は、義之に気持ちを見透かされていることは分かっていた。分かっていながら、それ以上どうすることもできなかった。
――彼は『そういう表情になる』とは言わなかった。あくまでも『そういう感情になる』と言ったんだわ――
 それは、相手の気持ちを見透かした後でも、さらにその深層心理の奥まで見つくしてしまおうとするかのように感じられ、最初は気持ち悪かったが、それ以上に彼の「潔さ」が、沙織の心を打ったのだった。
 人から自分の考えていることを見透かされるということは、自分だけに限らず他の人も嫌に思うだろうと感じていた。
「自分の城は自分で守る」
 という話を最初にしてくれたのは、香澄先生だった。
 先生は、その時、他にたとえ話をするわけではなく、唐突にそのことを言い出したのだ。
――急に唐突なことを言われても――
 と、いきなりだったことに戸惑ってしまい、理解しようとはしなかった。それを見て香澄先生はニコニコと微笑んでいたのを覚えているが、その気持ちの奥には、
――理解なんかしなくてもいいのよ――
 と言いたかったことを今なら感じることができる。
 その理由は、今なら分かる気がする。言葉にするのは難しいことなのだが、
「簡単に理解できることは、すぐに化けの皮が剥がれて、信憑性を感じられなくなるに決まっている」
 と言いたかったのかも知れないと感じた。
 特に比喩がおぼろげならおぼろげなほど、その奥には、
「ゆっくりと理解していかなければいけないのよ。なぜなら自分の身体で覚えたことでないと、自分を納得させられないんだからね」
 と言いたいに違いないと、今になってみれば感じることができるのだ。
 香澄先生のことを思い出していると、目の前にいる義之の考え方が次第に香澄先生に似ていることを思い出してくる。
 そういえば、香澄先生のことを「先生」と感じたことはあまりなかった。どちらかというと友達感覚だったからである。授業中は生徒と先生だったが、授業を離れると、学校内といえども、感覚は友達だった。
 本当は先生なら、
「せめて学校内にいる間くらいは、生徒と先生の間柄でいないといけない」
 と言われると思っていた。
 それが先生としての立場であり、そのことを生徒としても理解しなければいけないはずである。そこには「ケジメ」というものが存在し、一線を隠すことが、教育者としての壁なのだろう。
「だって、結界があるみたいで、何となく嫌でしょう?」
 あからさまに、香澄先生は言いきる。
 さらにビックリさせたのは、香澄先生の口から、「結界」という言葉が出てきたことだった。
「先生は、『結界』という言葉に、何か特殊な感覚を感じませんか?」
 と、沙織が聞いてみると、香澄先生はキョトンとした表情で、
「別に」
 と答えた。
 この短い言葉は、抑揚のない文字だけにすれば、きっと冷え切った言葉に見えるかもしれない。
 だが、香澄先生の声と抑揚で聞くと、冷たさの欠片も感じない。
「この言葉は、あっさりと言ってのける方が、むしろ自然でいいのかも知れない」
 と、沙織は感じた。
 香澄先生は、言動の中でも、「言」というよりも「動」の方に驚かされることの方が大きい。
 どちらかというと、能動的というよりも静かな感じが香澄先生の雰囲気なのでそう感じるのかも知れないが、香澄先生からは、言動の「動」が、自分にとっての存在意義のような雰囲気が感じられるが、仄かに甘い香水の香りが漂っているような気持ちになることで、思わず目を閉じてしまいそうになるのを感じていた。
 沙織は、甘い香水の香りを感じながら香澄先生のことを思い出していたが、それは一瞬のことだった。
 長い時間であれば、目の前にいる義之が声を掛けて現実に引き戻されてしまうように感じるのだが、彼は声を掛けようとはしなかった。それだけ一瞬のことだったのか、それとも、彼が沙織が正気に戻るのを待ってくれているのか、どちらなのだろうか考えた。
 さっきまであれだけ憔悴していた人が、そんなに相手の状態を待てるほど、自分の体調が戻っているとは思えないというところで、正気に戻るまでの時間が、彼にとってあっという間であったと感じた。
 沙織は義之をあまり待たせてはいけないという気持ちになっているのを、自分で感じていることが、自分本位の考えであることを分かっていたが、今の義之が相手であれば、そう思ってあげる方がいいのではないかと思っていた。
 下手に人に気を遣うことを、沙織は嫌っていた。
 子供の頃に、