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予知能力~堂々巡り①~

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 何かに対して後悔することだとは分かったが、何に対しての後悔だか分からなかったが、まさか、その時に感じた有頂天になった気持ちに対しての後悔が、将来において感じることになるのだと思うと、何とも言えない気持ちになった。
 沙織が感じた後悔は、確かに予知能力によって、予見されたものだった。
 しかも、それは予知した時に感じていたことに対しての後悔であり、後悔した時に初めて、
――私の予知が的中したんだわ――
 と感じた。
 沙織はこの思いが、自分の唯一の予知能力だとは思わない。
 それ以外にも予知能力の効果はあるはずで、まだそのことを感じていないだけだと思っていた。
 だが、そのほとんどは、沙織にとって、あまりいいことだとは言えないのだと思っていた。
 そのことを考えていると、今まで自分が出会ってきた人たちを想像してみた。
 その人たちの中に、
――いずれ、出会うことになる――
 と感じた人がいただろうか?
 どう考えても、出会いに対しての予知はなかった。出会い以外でもいろいろ想像してみると、そのほとんどは、予知に値するものではなかった。
 自分で考えることというのは、得てして自分にとって都合のいいことばかりである。悪いことは自然と考えないようになる。もしも考えたとしても、それは最後の方に考えることで、しかも、いいことの発想では、一つも予知の内容ではなかったではないか。
 最初に感じた予知だって、いいことではなかった。ここまで考えてくると、予知能力が発揮できるものというのは、悪いことがほとんどではないかと考えるのが、普通なのだろう。
 社会人になって沙織の前に現れた彼は、沙織にとって予知できたものだと気が付いてから、
――どうして、今なのかしら?
 と考えるようになった。
 社会人になって、予知能力という発想からは、すでに離れていた。
 一番感じていたのは、高校時代までだったが、
――私の能力は、ロクなことには使えないんだわ――
 と感じたからで、予知能力を、まるで他人事のように思うようになっていた。
――特殊能力というのは、私に限らず、持っている人は皆同じようなジレンマを抱えているのかも知れない――
 と感じるようになった。
「天は二物を与えず」
 というが、高校時代の沙織はそのことを感じていた。
 だが、特殊な能力を持ったとしても、
――それは自分が望んだものではないはず。どうして、まるで天罰のように、ロクでもないことにしか能力が使えないのかしら?
 と思ったが、逆の発想もあり得るのではないかと思った。
――無意識にだけど、やっぱり自分で望んでいることなのかも知れない。そうでなければ、天罰なんて当たらないわよね――
 と思うようにもなった。
 だが、これはどちらも正解のようで、どちらも不正解のようにも思える。要は、
――いかに自分がどちらを強く感じるか――
 ということであり、沙織にとっては、最初こそ前者だと思っていたが、途中から後者も考えるようになると、どうしても自分が思っていたことのように思えてならなかった。
 その発想が、
「自分にとって納得できること」
 だということになるからであろう。
 自分で感じたことを自分で納得できないということは許せないと思うようになったのも、実はこの頃からだった。
 本当は、もっと以前からだったように思うが、それは自分を納得させる発想でなければ、何も信じられなくなるからだった。それを、特殊能力と結びつけて考えることになろうとは、思ってもみなかったのだ。
「自分を納得させる」
 これが、特殊能力の力の及ぶ範囲ではないかと思うようになっていた。

                  第二章 ロボット工学

 沙織は、社会人になって出会ったこの男性が、もう一人の予知能力を持った人に引き合わせることになることを言わなかった。
 本当は知っていたのに、言わなかったのか、それとも、本当に知らなかったのか。どちらにしても、出会うことになるその人のことを、沙織は予知していた。
 具体的にどのようにして出会うなどということは分からなかったが、漠然とした出会いを感じた。
――予知していたというよりも、予感があった――
 といった方が正解なのかも知れない。
 人との出会いに対して予感めいたものを持っているのは自分だけだと、沙織はずっと思っていた。しかし、
――自分に予知能力のようなものが備わっているからだ――
 と考えると、どこかに矛盾が存在することに気が付いた。
 人と出会うことは誰にでもあることであり、出会いに予感があるのだとすれば、相手は自分と出会うことに予感があったのだろうか?
 少なくとも沙織は予感は自分にだけ備わっているものだと思っていたということも、出会いを感じていたのは、自分だけだということになる。
 そうなると、優位性は自分にこそあり、
「出会いのための準備もできたであろうに」
 と感じるのだが、予感のあった出会いには、必ず、すぐに別れが訪れるというおまけが付いていた。
――やはり、自分の予知は、悪い方にしか働かないんだわ――
 と、またしても、感じさせられた。
 沙織は 予知能力を持ったこの男性と知り合うことを予知できなかった。
――ひょっとすると、予知能力を持った人との出会いで、初めてと言っていいほどの出会いになるのかも知れない――
 と思った。
 ただ、出会いに関しては、ハッキリ言って、第一印象は最悪だった。
 あれは、仕事で遅くなり、身体に重たさを感じながらの、帰宅途中のことであった。
 前の日に降った雨が、まだところどころに、その痕を残していた。
 舗装されていないところには、水溜りができていて、裏路地からのネオンサインが水面を照らしていた。
 普段は気にならないネオンサインも、足元から見えてくると、余計に身体の重たさを感じさせられる。
 仕事で遅くなった時は、裏路地を通ることにしている。裏路地といっても、明かりは眩しく、駅までの近道ということもあって、女性の一人歩きも珍しくはなかった。
 それでも、あまり遅い時間は危険であったが、まだ時間的にも午後八時にもなっていなかったので、危険はなかった。そろそろスナックなどが店を開け始める頃、人通りは中途半端に多かった。
 ネオンサインに照らされるかのように、一軒のスナックの前に一人の男性がうな垂れるように座り込んでいた。店の前の看板に明かりはなく、扉からは暗さしか感じることはできなかった。
――この店、やっていないのかしら?
 と思ったが、その男性がうな垂れているのを見ると、かなり前からそこにいるように思えてきた。
 店に用があって、誰かが来るのを待っているというよりも、
「どこでもいいから、身体を預けるところを探していた」
 と言った方が正解ではないかと思えてきた。
 それがこの、
「開いているのか閉まっているのか分からない不気味なスナック」
 の前だった。
「大丈夫ですか?」