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予知能力~堂々巡り①~

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「もし同じように予知能力を持った人が近くにいて、その存在を知っていたとしても、レベル的に全然違えば、同じ能力だと感じないかも知れないよね。何事をすぐに他人事のように思う人がいたとしても、それは、自分とはレベルが違うという感覚を持つことで、他人との差別化を行っているような気がするんだ」
「予知能力もそれと同じだというんですか?」
「僕はそう思っているよ」
 確かに、何事も他人事のように考えて、まわりから自分を遮断している人がいる。
 寂しさは感じないが、孤独しか見えてこないその人を、可哀そうだと思うことはない。どちらかというと、
――自分から、敢えて孤独を選んだんだ――
 と感じるようになった。
 沙織は、むしろそんな人を羨ましいと思う。自分たちがまわりの人や友達に頼らなければ生きていけないように思っているのに、その人は、孤独さえ苦痛に思わなければ、自分一人で生きていけるのだと思うのだ。
「人間は一人では生きていけない。 だから、まわりとの協調が大切なんだし、友達や家族を大切にしなければいけない」
 などという考えを、テレビドラマや、映画はもっとものことのようにテーマとして製作されている。
 教育も基本は同じ考えであり、誰もが信じて疑わないだろう。
 もし、違う考えの人がいたとしても、一度は受け入れ、その中で馴染めない人が中には出てくる。そういう人を、「更生」させるのが、ドラマのテーマとなっている。どちらに転んでも、結局最後は同じところに戻ってくるのだ。
 まさしく「プロパガンダ」ではないか。小学生、中学時代に思いこまされてきたことに、何ら疑問を抱くことなく育ってきて、急に高校時代くらいに、そのことに疑問を抱くと、抱いた疑問は、晴れることはなかった。
 まわりには合わせているつもりではいたが、心の中で、
「私は、あなたたちとは違う」
 と自分に言い聞かせてきた。
 もし、それが間違っていたとしても、別に構わない。そのせいで損をするかも知れないが、損をしないかも知れない。
 そもそも、損得というのは、それぞれの人によって違うものだ。
――私の、この予知能力で、損をするかしないか、分かればいいのに――
 と感じた。
 しかし、分かったところで、運命を変えられるのかどうか、それも予知能力で分かってしまうところまでは、望んでいない。そこまで分かってしまうと、面白くないと思うからだった。
「そんな問題なの?」
 自分にとって死活問題に思えることに対して、
――面白くない――
 などという発想は、ありえないような気がした。
 そう考えてくると、予知能力というものは、
――どこまで分かって、どこからが分からないか――
 ということが、重要な点であることを感じていた。
 自分が予知能力を持っていることに有頂天となっていた時期が、相当昔に感じられた高校時代だった。
 考えてみれば、一番暗い時代だった高校時代だが、一番前を向いていたのも高校時代だったかも知れない。中学時代が一番前を向いていたと思っていたが、それは、予知能力を持っているという前提からの気持ちの中で感じた余裕であり、その余裕は、高校生になってから、自分に疑問を持つようになって、前を見ていたつもりで、
――本当は幻を見せられていたのではないか?
 と感じるようになった。
 高校時代に感じたそんな思いは、
――自分のまわりにも、同じような能力を持った人がいるんじゃないかしら?
 と感じさせた。
 それは、自分を孤独にしたくないという思いであり、それが自分の中にある「弱さ」だとは思っていなかった。
 だが、本当の弱さは、
――孤独というものを、「弱さ」だと思いこんでいた――
 ということであるのに気付かないことだった。
 それに気付いたのは、自分のまわりで最初に見つけた予知能力を持った人だった。
 その人も、自分の中に孤独を感じていた。しかし、寂しさを感じさせることはなかった。その見かけ上の矛盾に気が付いた時、
――この人は、私と同じような能力を持った人なのかも知れない――
 と感じた。
「私は、あなたがいずれ私の前に現れることを分かっていたのよ」
 と言ったが、それこそが予知能力である。
 同じ予知能力でも、沙織の場合は、彼女に出会えるという予知はできなかった。沙織の場合、自分と同じ能力を持った人のことを予知することはできないようだ。偶然出会うか、相手から、
「同じ能力を持っている」
 ということで、相手から確信を持って近づいてこられるかしかなかったからだ。
 そういう意味でも、同じ能力でありながら、ランクのようなものがあるのを身に沁みて感じた。ただ、そのランクの上下に関しては極めて曖昧であり、上下関係のないところが、この能力を持った人間の特徴ではないだろうか。
 香澄は最初に知り合った女性。彼女との関係は、「つかず離れず」だと思っていた。彼女もそれを望んでいたし、お互いに特殊能力を持っていることで、下手に近づきすぎると、能力がお互いに反発しあって、二次作用を起こすことになるのを嫌った。
 その考えは半分当たっていた。沙織が感じている以上に彼女の方が、二次作用に関しては恐怖を持っていて、必要以上に沙織に近づこうとはしなかった。
「私たちは、反発しあう磁石のような諸刃の剣」
 そう言っていた。
「パラドックスに副作用があるように、特殊能力は反発しあえば、副作用を生む」
「それはどういうこと?」
「パラドックスというのは次元を超えた発想でしょう? 超常現象などにたとえられるように、自然の摂理に逆らうと、副作用が起こるという話になるでしょう? 特殊能力も同じで、しかも、同じ次元の中で二つの作用が重なり合うと、限界が見えてしまう」
「私たちのいる世界の限界ということ?」
「そうね、誰も見たことはないでしょうけど、でも、特殊能力というものはそれだけ未知の世界のものじゃないかって思うのよ。だから、私はなるべく他の人と接しないようにしているし、あなたとも話をすることがあっても、決して能力をあなたの前では出さないようにしようと思うの」
 彼女と知り合ったとはいえ、友達というわけではない。
 本当なら、同じ能力を持っていて、誰にも言えないで悶々としているところに、自分の気持ちを分かってくれる人が現れたのだから、本当なら有頂天にもなろうものだ。
 自分の能力に気付き、
「私は、この能力を持ったことをまわりに自慢したい」
 と有頂天になった中学時代。
 だが、まともに話して信じる人などいるはずもない。
 しかも、沙織は有頂天になっているのだ。完全に目線は上から目線だったはずだ。
 その時に数人の友達を失った。それは自分でも分かったことだが、
――特殊能力を人に話すこと、それは自分で自分の首を絞めること――
 だと感じた沙織は、そこから自分が殻に閉じこもってしまうのを感じた。
「これは」
 この思いは、以前にも感じたものだった。
「これが予知能力なんだ」
 感じた時は、何の予知能力だか分からなかった。
 ただ、漠然と、
――将来にこんな思いを感じることがある――