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予知能力~堂々巡り①~

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 確かに意外ではあったが、別に意識してしまうほどではなかった。したがって、そんな気持ちが顔に出たりするわけではないはずなのに、よく分かったものだと沙織は感じていた。
「僕はタバコを吸うことで、精神を落ち着かせるのだと最近までは思っていたが、どうやら違うっていうことに気が付いたんだ」
「どういうことなんですか?」
「タバコは、僕にとって、どこか懐かしいものがあるんだ。最初は皆と同じように、興味本位で口にした。もちろん、タバコを吸い始めるなどということは思ってもみなかったけどね。でも、口にした瞬間、タバコが、自分の意識の中のどこかに共鳴する気がしたんだ。そして初めてのはずなのに、初めてではないというような確信めいたものを感じたんだ。もちろん、身体に悪いことも分かっているし、吸わなければ我慢できないというわけでもない」
 何となく言いたいことは分かったような気がする。沙織が父親に感じていた思いを彼が口にしたような気がして、少しおかしな雰囲気があった。
「大丈夫ですよ」
 と口では言ったが、何が大丈夫だというのだろう?
 ただ、この話はすぐに終わり、彼が二本目のタバコに火をつけた時、この時初めて、火が付いたタバコが真っ赤に光っているのを感じた。
 光っていると言っても、明るく光っているわけではない、
「暗く冷たく光っている」
 というイメージであった。
 暗く冷たく光るというイメージを、光っている色から想像すると、赤い色というのは、いくつかの種類があるように思えた。真っ暗な中で見る赤い色と、明るいところで見る赤い色とでは明らかな違いを分かっていた。
 それは信号機を見ていれば分かることだった。
 信号機には赤、青、黄色と三食あるが、そのうちの赤と青に関しては、昼と夜とで、色がまったく違って感じる。
 これは、「光」が作り上げる色だからこそ言えることなのかも知れないが、昼よりも夜の方が、より原色に近い感じがする。色というのは、一番原色にインパクトが感じられ、他の色と混じれば混じるほど、白に近づいてくる。
 色を塗った円盤を回転させた時に見ることのできるもので、それは光が織りなすコントラストであっても同じことだった。
 そんな中で、夜がより原色に近いというのは、太陽の光の恩恵を受けることができず、街灯のような人工の光で細々と補っていることへの、細やかな慰めのようなものなのかも知れない。
 さらに昼と夜の間に存在する夕方というのがミソだった。
 夕方には、季節でいう秋を感じさせる。そこには寂しさを伴うものがあり、さらには子供の頃に感じた一日の疲れと空腹感が、身体のいたわりの大切さを教えてくれる。いたわりが夜になってから襲ってくる睡魔とぶつかり、身体の疲れを癒そうとする感覚が、暗い中でもモノをハッキリと見せようとする感覚に繋がっているとすれば、信号の赤い色や青い色が原色として鮮明に映し出されているのも分かる気がする。
 赤い色のコントラストが、時間帯によって種類が分かれるのとは別に、まわりの明るさから変化する色の中で一番鮮明なのも、赤い色ではないだろうか。
 明るい時間帯であれば、鮮明に明るさを表に出そうとする赤であるが、暗い時間帯では、決して鮮明さを表に出そうとはしない。無理をしていないというべきなのか、目立とうとする意志がまったく感じられない。
 それどころか、どす黒さすら感じさせる赤は、イメージとして血の色を思わせることで、却ってインパクトの強い色を演出している。そのことを改めて感じるようになったのも、その時の彼の話からだった。
「僕の友達にも、実は予知能力を持っている人がいて、彼も色を意識すると、自分に予知能力が備わっていることに気付いたと言っていたんだが、そのことに気付いてからしばらくして、その能力を自分で封印してしまったんだ」
 彼の話が、言葉を選んでいるというよりも、間を大切に話しているのが分かった。どこかもったいぶっているように見えるが、話し方に強弱を付けなければ、まるで他人事のようにスル―されてしまうと思っているのか、それとも必要以上のインパクトを与えることで、過剰な恐怖心を相手に煽らせようとする演出を考えているのか、どちらにしても、彼の中では無意識の感情が働いているように思えてならなかった。
「どうして、そんな封印などということをしたんですか?」
「別に封印などしなくても、彼の能力は、本人の意志に忠実なものなので、本人が、意識しないと思ってしまえばそれだけのはずなのに、わざと封印したということは、無理をしてでも封印させなければ、また、同じ思いをするということを感じていたのかも知れない。そして、一度は仕方がなかったとしても、二度と感じたくなかった思いが彼にはあったように思う」
 と、彼は自分に言い聞かせるかのように話した。それはまるで、他人のことのように話しているが、
「実は、僕のことなんだ」
 などというオチが待ち構えているとすれば、少しシラケたような気がしてくる。
 彼は話をしながら、他の人ならしないような演出を考えたりしているが、それはそれで彼の性格なのだから、仕方のないところはある。そう思って彼を見てみると、
――やはり、彼の性格なのかも知れないな――
 と思えることが、沙織にとって自然な感覚だった。
「その人は、その後予知能力に対して、どのように対応していたんですかね?」
「どうやら、予知能力を封印したようなんだ。自分にとって必要な能力ではないと判断したのか、とりあえず、様子を見ようとしたのだけど、そのせいで、客観的にしか自分を見ることができない時期があったって話です」
 あくまでも他人のことのように話しているが、言葉尻を自分のことのように変えながら聞いてみると、実に言葉が自然に感じられるから不思議だった。
――この人は二重人格なのかも知れない――
 本人に意識があるかどうかは分からないが、本人が自分全体を見ることができるとすれば、舞台を紐一本でひっくり返すことのできる「どんでん返し」の館のセットを思わせることができる。
「もう一人、僕の知り合いに、予知能力を色によってもたらされることを知っているやつがいるんだが、彼の場合は、最初にその能力を知った時、有頂天になったんだ。最初に知った時というのは、中学時代だったらしいんだけどね」
 また、別の人の話を始めた。
 この男は、どれだけの予知能力を持った人間を知っているというのだろう?
――まさか、すべてが、自分だというわけではないでしょうけど、でも、自分に関係のある人の中に、そんなにたくさんの予知能力者がいて、怖くないのかしら?
 と、感じた。
 沙織は、自分に予知能力があることに気が付いてから、まわりに同じような能力を持った人を意識したことがあっただろうか? ひょっとすると知っていたかも知れないが、まるで他人事のように思えて、意識することはなかったのかも知れない。
 香澄先生との会話で、色に対して理論的に考えるようになった沙織だったが、理論的に色を考えずに、自然に見ているとしたら、もっと早く自分のまわりに同じような予知能力を持った人たちに会えたかも知れない。