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三度目に分裂

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 大学も、もう少し頑張ればワンランク上の大学にも挑戦できたのだろうが、
「入学できたとしても、まわりは自分よりもレベルが上の人が多いだろうからな。俺には、そんなことは耐えられない」
 と嘯いたものだ。
 自分に言い聞かせたと言ってもいいくらいだった。
 独学を重ねている時、家でやるよりも、図書館に出掛けた。家にいると、楽しめるはずの孤独をなぜか感じなかった。
――なぜなんだろう?
 自分に言い聞かせてみたが、環境を変えることで、その理由を知ろうと思ったのだ。
 図書館に出掛けると、まわりに人がたくさんいる。これでは逆効果なはずなのに、少なくとも家にいる時よりも孤独が楽しめた。
 その時、信治は初めて悟ったのだ。
――自分の孤独は、まわりを意識することで成立するものであって、すべてから孤立してしまうと、何が孤独なのか分からなくなってしまう――
 という思いだった。
 要するに、比較対象がないと孤独を感じることができないのだ。
――これって、本当に孤独と言えるのだろうか?
 厳密には、「孤独」とは言えないのかも知れない。
 しかし、信治にとっての孤独であれば、それでいいのではないだろうか。自分が孤独を愛するというよりも前に、自分が他人とは違うという意識が強いということを知ってさえいれば、それでいいのではないだろうか。
 最初、孤独と、他人とは違うという思いが違う土俵上にあると思っていたが、それがそもそもの勘違いだったのだ。
 そのことに気づくと、まわりに人がいなければいけないと感じた。しかし、それは自分がまわりを意識するためでもなく、まわりから意識されるものであってもいけないものではないだろうか。そういう意味で図書館というところは、自習室があり、個人個人で各々の勉強に勤しんでいる。これほどいい環境はないと思えた。
 朝から図書館に出掛け、持ってきた資料とは別に、図書館内の資料も漁りに行く。早朝一番はそれほど自習室に人はいなかったが、一時間近く本棚を物色しても自習室に戻ってくると、すでに人でいっぱいになっていた。
 いや、正確に言えば、皆席を取っているだけという状態だった。席に座って勉強している連中はほとんどおらず、カバンを机の上に置いて、中身を広げることもなく、離席している。
 信治も同じように図書室へと向かったので、皆も資料を探しに行ったのかと思いきや、ほとんど、座席に戻ってくる人はいなかった。たまに戻ってきても、すぐにまたどこかに行ってしまう。そんな連中は一人で来ているわけではなく、団体で来ているのだ。そのほとんどは中学生か高校生、受験勉強をしに来ているようなのだが、勉強しているという様子もない。
――ただの自己満足か?
 図書館に来ることで、勉強したような気になって、一日を無駄に過ごしている。たぶん、この後は、ファーストフードかファミレスに寄って、ドリンクバーとちょっとしたおつまみを頼んで、長時間粘るのだろう。一応テーブルの上に勉強道具を用意して、勉強を始めるのだろうが、すぐに気が散ってしまい、気が付けば、スマホを弄っていた李、マンガを読んでみたり、各々が勝手なことを始めるに違いない。
 中には、雑談に時間を費やす連中もいるだろう。想像するだけで、自分があんな中学、高校時代を過ごさなくてよかったと思わせるのだった。
――これこそ、集団意識の典型的な悪しき例だ――
 と感じていた。
 図書館には、数回しか行かなかった。まわりを見ていると、あまりにも目的の違う人がたくさんいるということが分かった。自分は自分だと思い、一人黙々と勉学に励んでいる人もいる一方で、勉強をしなければいけないのに、それから逃げるかのように、図書館で集団意識を感じることで、勉強をしているような気になってしまっている連中を見ていると、ウンザリしてしまう。
――俺が他の連中とは違うと感じた、その他の連中とは、まさにあいつらのような連中のことだ――
 と改めて思い知らされた。
 それを見ていて、
――一生懸命に勉強している人たちは、よくあんな連中がまわりにいて、気にならないものだな――
 と思った。
 それだけ自分は自分だと思っているのだろうが、信治の意見は違った。
――あれじゃあ、見てみぬふりをしているだけじゃないか――
 と、嫌気が差してしまった。
 苛めだって、傍観者は苛めている連中と同罪だと言われるではないか。それを思うと、信治は勉強もしないで図書館で無駄な時間を使い、さらに人に迷惑を掛けている連中を何とも思わない人たちを許すことができなかった。
――もう、こんなところにはいられない――
 一人で勉強するんだったら、本当に一人になれるところでないといけないと思うようになった。
 実際にはそんな場所を探すのは難しいことなのかも知れない。そういう意味では図書館にいた連中皆、それぞれに可哀そうだと思うようになっていた。そう思えば思うほど、見るに堪えない状態を、なぜ自分が我慢しなければならないのか、バカバカしくもなった。これ以上、やつらに感情を使いたくなかったのだ。
――以前にも似たような思いをしたことがあったな――
 そう思うと高校時代を思い出した。
 しかし、すぐに忘れてしまった。都合の悪いことはすぐに忘れるともいうが、そのたぐいだったのだろうか。
 本屋で、絵に関しての本を買って、本屋の近くにある喫茶店に入って、本を広げて見ていた。
 喫茶店は、図書館に比べれば、明らかに騒々しい。静かにしなければいけない場所ではないし、談話するための場所でもあるのが喫茶店だ。それをわきまえながら本を読んでいると、次第にまわりの喧騒とした雰囲気が気にならなくなってきた。
――シーンと静まり返った図書館よりも、緊張感がない――
 あまりにも静かな場所は却って緊張感を生むもののようだ。
 特に図書館は、
「静粛にしなければいけない」
 という場所であり、勉強が宿命のようになっていて、異様な空気が充満していた。
 密室なのに、風が吹いてきていたような気がした。それは空調によるものではなく、表からの風のように感じられた。その風に安心感を感じられたから、長時間いることができた。まったくの無風だったら、数分ともたなかったに違いない。それを思うと、
――途中、中座が多かった連中には、風を感じることができなかったのかな?
 と思えた。
 かと言って、一生懸命に勉強に勤しんでいた人たちが風を感じていたようにも思えない。明らかに個人個人で別の世界に入り込んでいたように見えた。身体だけがそこにあり、精神は別の場所にあったかのように、微動だにしないその雰囲気に、顔色がどんなだったのかなど、思い出すことはできなかった。
 喫茶店で、本を読んでいると、図書館との違いが明らかで、図書館では感じることのできなかった思いを、今更思い出すことができたような気がした。
 しかし、図書館に戻ろうという気はしなかった。あの場所は自分の居場所ではない。もし、図書館に行くことがあるとすれば、それは試験勉強のために利用するだけだろう。ただ、大学受験のために利用している人の気持ちが分からない。それは、同じ立場でまったく違った行動を取っている連中を同時に見てしまったからだった。
作品名:三度目に分裂 作家名:森本晃次