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三度目に分裂

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「そうだったんだね。何となくそんな気もしていたんだ。でも僕が彼の中に入ったのは、僕の意思ではないんだよ。僕はあれから別の女性とお付き合いをしたんだけど、うまくいかなくてね。何をやってもうまくいかない。君を見限ってしまったことに後悔し、戻ってみるなんて虫の良すぎる行動を取ったこともあってか、またしても。後悔の日々さ。後ろ向きにしか考えられない男の人生なんて、ロクなことはないよね。結局、酒に溺れて、気が付けば、足を滑らせて川に転落。そのまま死んでしまったようなんだ」
「この世に未練があったの?」
「あったとすれば君に対してなのかも知れないね」
「私はあなたを待つことができなかった。もし、お腹の中にあなたの子供がいなければ、ひょっとすると受け入れたかも知れない。その時、私に恋い焦がれてくれている人がいて、その人は、私が妊娠していることを分かってくれて、それでも結婚してくれるって言ったの。私は嬉しかった。そんな時にあなたが現れたのよ。子供のことを考えると、私はその時、あなたが子供の父親にはふさわしくないと思ったの。その時の状況なら、もし今あの時に戻ったとしても、同じことをしたと思うわ」
「それで、君に後悔はなかったのかい?」
「ええ、後悔はなかったは、唯一、息子が父親が違うことに気づいたらどうしようとは思ったけど、旦那がしっかり私を支えてくれた。だから、後悔しないで済んだのよ」
「そうだったんだ」
「でも、あなたのことは忘れられなかった。もちろん、後悔とは別にね。楽しい思い出になんかできない。楽しい思い出にしてしまうと、息子に悪いし、あの人にも申し訳ないと思ったからね」
 信治は少し考えてしまった。
「私はあなたと別れてから、あなたに三度会った気がしているのよ」
「えっ?」
「一度目は、息子が小学生の頃に、川で溺れていた息子を助けてくれた男性がいたのよ。その人は、息子を助けてくれたにも関わらず、何も言わずに立ち去ったというの。私はあなただって確信したわ。助けてくれているところを目撃した人がいて、その人の話を聞いただけなんだけど、やっぱり親子なのかなって思ったわ」
「その時のことは覚えている。子供が川で溺れているのを見て、放ってはおけなかったんだ。でも、その時は、借金取りに追われていたので、のんびりもしていられない。衝動的に子供を助けたはいいんだけど、すぐにその場を立ち去らなければいけなかったんだ。でも、面白いもので、結局僕が死んだのは、ちょうどその川だったんだよね」
「そうだったの。それも運命だったのかしら?」
「そうかも知れないね。それでもう一度は?」
「今のあなたが、息子の後輩として一度家に来てくれたことがあったでしょう? あの時私は後輩の中にあなたを見たの。だから、なるべくあなたに顔を見せないようにしたんだけど、後輩さんはきっと私と会ったという意識はなかったかも知れないわね」
「恥ずかしい話、僕にも君だってすぐには分からなかった。それが二度目だったんだね?」
「ええ、じゃあ、ひょっとすると、今が三回目?」
「ええ、やっと三回目であなたに会うことができた」
「呪縛のようなものがなくなったからということなんだろうか?」
「いいえ、違うわ。私の中にも誰か違う人がいて、その人が、後輩さんに会いたいと思ったから、会うことができたのよ」
「一体、誰なんだろう?」
「その人が言うには、その娘は生まれる時に死んでしまったらしいの。本当は一卵性双生児として生まれてくるはずだったんだけど、生まれてくると、その時は後輩さんだけが生まれてきて、その秘密は両親と本当に一部の人しか知らないということなの」
「えっ、僕には姉か妹がいたということなんですか?」
 今度は信治が出てきた。
「ええ、彼女は、生まれてくるはずだったんだけど、その栄養をあなたにあげたために、生まれることができなかった。きっとあなたが孤独を好きになった理由は、そのことに起因しているんじゃないかって彼女は言うの」
「全然知らなかった」
「そうでしょうね。それでね、生まれてくることができなかった彼女は、その時々で、いろいろな人に入ることができるの。それも無限にね」
「じゃあ、一度生まれてきて、途中まで生きた人は?」
「その人たちは、二度目が限度なの。三度目を考えた時、意識の中で『三回目はダメだ』って気づくので、三度目をしないようにしているらしいのよ」
「もし、三度目をやってしまったら?」
「その瞬間に、思考能力は分裂してしまって、二度と元に戻らない。そのまま中途半端な状態で無限に彷徨い続ける運命が待っているのよ。生きている人は、思考能力が分裂しても、崩壊しない限り、また元に戻る可能性を秘めている。そこが生きている人と違うところなのよ」
「じゃあ、僕は妹か姉さんに会ったことが今までにあったんだ」
「そうね。あなたはごく最近も会っているはずよ」
「えっ? いつなんだろう?」
「あなたは、懐かしく思ったはずだし、相手もあなたに会うのが初めてではないと気付いたはず。彼女はあなたに会いたくてその人に入り込んだんだけど、あなたのことを兄妹以上に思ってしまうことを懸念して、なるべく薄いところであなたと出会ったの。遠くから見ていたとでもいうべきかしら?」
「遠くから見ていた?」
 そういえば、この間、先輩に連れていってもらった風俗で、友香に会った時、今の話を彷彿させる思いをした。そのことを思い出すと、友香のぬくもりが身体が覚えていて、次第に火照ってくるのを感じた。
――あの時だったんだ――
 今から思い出しても、まるで昨日のことのように思い出せるのだが、あの時に、友香の中に誰かがいたなどという意識は、話を聞いても思い出すことはできなかった。
「世の中には自分に似た人が三人はいる」
 と言われる。迷信としては面白いが、自分にはまったく関係のない他人事にしか思えなかった。
 それは、自分が孤独だという思いが強かったからで、孤独というものがすべて他人事として、しかも相手を見下ろしている自分に快感を覚えていたのを思い出していた。
 そんな感覚を、
――ちょっと違うんじゃないか?
 と感じさせたのが友香だった。
 友香との出会いは、初めて孤独に疑問を感じさせるものだったが、一緒にいて話をしている間に、
――やっぱり、孤独は自分のポリシーなんだ――
 と思い返していた。
 思い返したことで、今度は余計に孤独への思いが強固なものになった。
 そういえば、友香との間で何か大切な話を聞いたような気がしていたのに忘れてしまったことがあったのを思い出した。
 どうして思い出せなかったのか分からないが、よく思い出したものだと思う。
「女ってね。いつまでも待てないものなのよ。あなたが気づいてあげなければいけないのよ。相手にとっては切実なものなのよ」
 と言っていた。
 てっきり、
「あなたを好きな人がいてもあなたが気づいてあげなければ可哀そうよ」
 という忠告に思えたが、今から思えば、それは姉が、
――私のことを忘れないで――
 と言いたかったのだろう。
 先輩のお母さんと話を終えたが、結局、姉は出てきてくれなかった。きっと、三度目の呪縛を恐れたからなのかも知れないが、今から思えば、
作品名:三度目に分裂 作家名:森本晃次