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三度目に分裂

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 吐息とともに名前を呼ばれると、重ねた身体に、足を絡め、必死に唇に吸い付いている。
――こんなにキスが気持ちいいなんて――
 知らなかったことを、なるべく今日知って帰りたいと思った。
 そこから先は、どんな順番だったのか、ハッキリと記憶にない。気が付けば、友香の上で腰を動かしている自分が、欲望に身を任せながら、目の前で乱れている友香の様子を見て、
――いつ限界に達するのか――
 ということだけを考えていたようだ。
「我慢しなくてもいいのよ」
 快感に身を委ねながら、友香は声を絞り出すように言った。友香が信治の限界が近いことを分かっていた証拠である。
 相手は百戦錬磨だと思えば、それくらい分かって当然だったが、少なくとも二人は初対面。お互いのことはまだ何も知らないという意識があるものだから、友香が分かってくれたことを、素直に喜んでいた。
――我慢しなくていいんだ――
 と思うと、一気に気持ちが高ぶってきた。
「もう、我慢できない」
 と腰を激しく振ると、
「きて」
 と、合図してくれた友香の中に果ててしまった。
――こんなものなんだ――
 これが、最初の感覚だった。
 確かに初めての経験だったので、どんな思いになるのか、過大評価していたのは仕方のないことだと思うが、思春期の時、あれほど憧れていたセックスだということを思うと、まわりから聞く印象に比べれば、大したことはなかった。
 しかし、果ててからの気だるさは悪い気はしない。相手の身体を貪りたくなるのは、むしろ今の方だった。信治は、友香がいとおしくなっていった。
 二人は憔悴の中で、身体を起こすことができない。信治は、友香を抱きしめ、先ほどのように、身体をこれでもかと思うほど密着させ、足を絡めていた。
 先ほどとの違いは、身体が敏感になりすぎていたので、密着感が最初よりもハッキリと感じられた。
――ずっと、このままいたいな――
 と感じた信治だった。
 身体の気だるさが却って快感になるということを自慰行為の後でも分かっていたはずなのに、どうしてあの時は罪悪感に苛まれなければいけなかったのか、自分でも不思議だった。
「はぁはぁ」
 お互いに、一戦交えたという言葉がピッタリで、どちらが先に呼吸を取り戻すことができるのか、そのことばかりを考えていた。
 普段の呼吸を取り戻すことが最初にできたのは、信治の方だった。その時に感じたことは、
――男の方が、快感が薄いのか、それとも復活が早いのか、どちらなんだろう?
 と思った。
 友香は、信治に抱きついたままだった。
「私、今日は頑張っちゃった」
 と友香が言ったが、
「じゃあ、普段は頑張っていないということ?」
 というと、
「いじわる。あなただから頑張ったのよ」
 とニッコリと笑った。
 友香はお世辞を言うような女性ではないと思っていたので、相手と身体を交えたことで、相手の気持ちも分かることができそうに感じているのかも知れない。
「ノブ君は大学生なの?」
「ええ、今日は先輩に連れてこられたんですよ」
「へぇ、そうなんだ。ノブ君だったら、そうかも知れないとは思ったけど、何となく違ってほしかった気もするわ」
「どういうことなんだい?」
「ノブ君が初めてだというのはすぐに分かったわ。でも、ノブ君は他の人の童貞喪失とは少し違う気がしたの」
「それは?」
「何となくだけど、余裕のようなものを感じたというのか、ノブ君は、他の人と違うって感じると、ノブ君もその意識を自分の中で強く持っているような気がしたのね」
「確かにそうだけど、どうして分かったんだろう?」
「実は私もそうなのよ。でね、私は、初めての人が指名してくれたことって今までにあまりないの。ほとんどの人はフリーで私に振り分けられるのね。だから、最初の写真で私を指名してくれる人は珍しいの。最初に、私を指名してくれた人は、何か運命のようなものを感じたって言ってくれたんだけど、ノブ君も同じようなことを感じてくれたのかなって思って、それなら嬉しい」
「そうかも知れない。他の女の子も悪いという感じだったわけでもないので、消去法だったわけでもない。それは間違いないんだよ。だから、そういう意味では、運命のようなものを感じて君を選んだのかも知れない」
「嬉しいわ」
 そう言って、友香はまたキスしてくれた。
「僕は、今まで正直にいうと、自慰行為しかしたことがなかったので、女性を相手に不安があったんだ。実際にそういう話も耳に入ってきたことがあったからね」
「それは精神的な問題だって思うわよ。そういう意味では最初の相手というのは、その人にとって大切なことかも知れないわね。最初にうまくできなければ、それがトラウマになって、なかなか自信が持てなくなる。そのうちに人を好きになって、いざという時、できなかったら、さらにトラウマが大きくなって、結婚に対しても、足踏みするようになるんでしょうね。結婚できない男性の中には、そういうトラウマを抱えている人って、意外と多いのかも知れないわ」
「精神的なことというのは、どうしても付きまとってしまうんだろうね。トラウマというのは、誰もが様々な形で大なり小なり持っていると思っているんだけど、肉体的な問題が精神に影響を及ぼしていた場合、結構厄介なんじゃないかな?」
「そうね、だから、私たちのような風俗の女性を相手にできても、普通にお付き合いしている女性とはできないという男性もいると思うの。考え方一つなんでしょうけど、こればかりは、まわりの問題ではなく、その人だけの問題ですからね」
 と言って、友香は少し考え込んでいるようだった。
「人それぞれだからね。僕は特にいつもそう思っているんだよ。僕は人とは違うって思うことが、僕の精神の中心にあるって思っているからね」
「ノブ君は、そういう人だって思っていたわ。実は私もそうなのよ。そして、以前お付き合いしていた人も同じような考えの人だったんだけど、あまりにも私たちの考え方が似ていたので、衝突のようなものもたまにはあったの。でも、彼はある日、行方不明になって……」
 と、そこまで言うと、友香はハッとなって話すのをやめた。そして、すぐに笑顔になって、
「ごめんなさい。初めてお会いした人にこんなお話するなんて……。でも、ノブ君には言いたかったのよ。どうしてなのかしらね」
 と言って、また笑ったが、今度は照れ隠しの笑いであることは、信治には分かった。
 その表情を見ていると、初めて会った人のように思えなかった。
 信治は、近い将来に自分と以前にどこかで会ったと思うような人と出会うような気がしていた。その感覚はずっと抱いているものではなく、たまにふっと感じることだった。友香を見ていると、懐かしさを感じる。以前にどこかで会ったことがあるという感覚ではないのに、懐かしさを感じるのは、不思議な感覚だった。
――友香は、近い将来出会うと思っている人とは違うのだろうか?
 自分が感じていた思いと、友香への印象は違っていた。それだけに、友香とは本当に昔知り合いだったような気がした。近い将来出会うと思っていた人への信憑性は薄いものだったが、友香との出会いはもっと確実なものに感じられた。
作品名:三度目に分裂 作家名:森本晃次