三度目に分裂
「人類の歴史というのは、時系列に発達していると思うんだけど、考えてみると面白いよね。同時期にまったく知られていなかった場所で、同じような文明が発達したりしていた事実を考えると」
「どういうことですか?」
「例えば、四大文明にしても、似たような建造物が残っていたりするだろう?」
「そうですね。それをいえば、僕も興味があるのは、中南米の文明が、十五世紀や十六世紀の大航海時代に、スペインに発見されて、初めて世界に知られるようになったはずなのに、古代エジプトのようなピラミッドは存在していたじゃないですか。あれだって、どうしてなのかって思いますよね」
「中南米の文明ということになると、ナスカの地上絵のように、空から見なければ分からないものも存在している。それを思うと、中南米の文明には宇宙人が絡んでいるという考えも成り立つかも知れないな」
「そうですよね。地球上で確かに、アメリカ大陸だけは別格の大陸だった。それは宇宙人が自分たちの土地として利用するのに、ちょうどいい場所だった。最初からそんな場所を探して住んだのか、それとも、意図的に他の人類に見つからないように細工をしていたのか。それを考えると実に面白いですよね」
「その意見、実に面白い。そうやって考えると、アメリカ大陸は、宇宙人の基地のようなものだった。少なくとも我々人類よりも、高度な文明を持ち、人間の感情や考えまで操作できる連中だとすると、今のアメリカ合衆国の人類も、ヨーロッパからの移民が国家を作ったのではなく、存在していた国家の中に。欧州からの移民が組み込まれたと考えるのもありかも知れないよね。確かにそう思うと、たった二百年ほどで、世界をリードできるほどの文明を持つことができたのも納得がいく」
「そこまで考えてくると、世界大戦も、宇宙人の画策だと思うのは考えすぎでしょうか?」
「そんなことはないと思うが、少し突飛すぎるかも知れないね。独裁者と呼ばれる人たちは確かに存在した。それは歴史が生み出したのだと考えると、確かに突飛かも知れないが、ありえないことではない」
「でも、どうして自分たちのまわりに宇宙人を感じないんでしょうね?」
「彼らは、集団で行動することを主としているんじゃないかな? だからアメリカ大陸のような国で密かに暮らしていた。それも、自分たちだけの文明を頼りにだよ」
「だとしたら、彼らの目的は何なんでしょう? 地球の侵略なんでしょうか?」
「何とも言えないけど、侵略するんだったら、もっと早くしていてもいいと思わないか?」
「そうですね」
「これも考え方だけど、俺は彼らは漂流民ではないかと思うんだ。何かの原因で宇宙船が壊れたか何かして、地球に不時着した。地球が彼らにとって住みよい場所だったので、そのまま永住したという考えだね。もっとも彼らの生態がどうなっているかなんだけど、寿命がどれくらいで、実際、どんな形をしているのか、興味があるね。我々に分からないように、化けるのは彼らの文明の利器なのかも知れない」
ここまで話をしてくると、さすがに信治も我に返った。
先輩は最初から分かっていてこんな話になったのか分からないが、先輩の性格からすれば、分かっていたような気がする。
「何か話が歴史ではなく、SFになってきましたね」
「ああ、そうだね。でも、面白いからいいじゃないか」
先輩は分かっていたようだ。
だが、最初にSFっぽい話への扉を開いたのは、自分だったような気がする信之だった。それを思うと、それ以上詮索することはできなかった。ただ、この話は途中で終わる形になったが、きっとまた近い将来同じ話題に花が咲く気がした。
――その時、僕は以前にこの話をしたことを覚えていないかも知れないな――
そんな気がする信之だった。
昼からの授業を終えて、二人で街に出た。先輩は家が近かったので一度帰って、着替えてくるということだった。駅で待ち合わせをした時には、すでに日が沈み始めていた。
「やあ、待たせたね」
「いえ、適当に時間をつぶしていましたから」
実は喫茶「ユーカリ」に立ち寄っていた。
先輩との話に触発されてか、駅近くにある本屋に寄って、歴史小説を買ってきて読んでいた。群雄割拠の戦国大名を、公平な立場で書いた話だったので、興味が沸いたのだ。時代小説ではどうしても一人の武将に思い入れを持って書くため、時代背景もその人を中心に書かれてしまう。有利であっても、不利であっても、主人公は贔屓武将なのだ。
しかし、史実に基づいて書かれた歴史小説は、結構公平に戦国大名を見ている話しが多い。冷静に書かれていると言っていいだろう。信治は歴史は好きだが、誰かに陶酔するようなことはなく、歴史に起こった事実の繋がりを冷静に見る方だ。先輩は歴史を遡って見ると言っていたが、信治にはとてもそんなことはできないと思っていた。
かといって、歴史上の人物に好き嫌いがないわけではない。好き嫌いがなければ、そもそも歴史を好きになるということはないというのが信治の考え方だった。それでも話をして見る時は、贔屓目に見ないようにしている。人物に焦点を当てるよりも、事件や戦争なのどの出来事に興味を持つ。ここでも、孤独な性格が生きているのかも知れない。
「僕は、歴史の本とかを読んでいると、ついつい自分に置き換えて読んでしまっていることも多いんです。もちろん無意識にですが。そんな自分を嫌いではないんですが、どうして無意識に感じてしまうのかが納得いかず、なるべく冷静に見るようになったんですよ」
と、先輩に話したことがあった。
「俺も実は同じように、自分を主人公に置き換えて読んでしまうことが多くてね。最初は歴史小説を読んでいたんだ。史実を知らないと、いきなり時代小説の世界に入り込んでも面白くないだろうと思ってね。だから、時代小説を読むようになってから、こんな性格も悪くないと思うようになった。歴史を前もって知っているだけに、余計に何が楽しいのか、そして作者の言いたいことが何なのか、分かるようになってくると、本当に面白くなってきたんだ」
「それは言えるかも知れませんね。でも、僕には時代小説を読んでみようという気にはどうしてもならないんですよ」
「きっとそれは、冷静に歴史を見るということに固執しすぎているからではないかな?」
「確かにその通りだと思います。でも、その思いは自分が主人公にはなれないという現実的な感情が働いているからではないかと思うんですよ。それにもう一つ、解析されているとはいえ、実際にその時代で見てきたわけではない。どこまで言っても、フィクションはフィクションなんだって思いがあるんですよ」
「俺も結構頑固なところがあると思っていたけど、君はそれに輪をかけて頑固だな」
と言って、先輩は苦笑いをすると、
「ありがとうございます。誉め言葉だと思って受け止めることにします」
こういう時の信治は、調子に乗っている。どこまでも冷静で、誰にも言えないと思うほど、意固地になっている。逆らうことは、余計に信治を固執させることになることを先輩は分かっている。
しかし、それはあくまでも話の上だけのこと、反対意見であっても、信治を納得させることであれば、いくらでも言えばいい。先輩もよく分かっていて、