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詩集 あなたは私の宝物【紡ぎ詩Ⅵ】

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勉強に精を出していた頃を懐かしく思い出します
あれからもう三年も経つのですね
今は家業を継ぐために遠いところで修行しているのですね

家族全員があなたが一人前になって戻ってくる日を
心待ちにしながら
お寺を全力で守ってゆきます
高野山はもう紅葉が見頃でしょう
風が吹く度に赤ちゃんの手のひらのように色づいたもみじが
はらはらと石畳に散る風景を想像しただけ風情を感じます
身体には十分気をつけて仕事に修行に勉学に
励んで下さい
また 頼りします 
             ー母より 


☆「母として~今、旅立ちゆく我が子へ~」

このところ日課となった毎朝のウォーキング
部屋に戻って
ふと気づいたケータイの不在着信
よく見ると今朝方 元気に登校した高校生の娘からだった
娘は今日 大学受験のため四国に向かうことになっている
何かあったのかと慌てて電話した
すぐに娘が出て
高校から一旦自宅に戻り発つと言っていたが
予定の列車に遅れそうだから
このまま高校最寄り駅から岡山駅に向かうとのこと
ー時間に余裕を持って、実力を出し切ってきなさい。
ありきたりの言葉しか出てこなかった

ふっと廊下に立つ私の眼に
ガラス窓越しの風景が飛び込んでくる
黄色の石蕗や
今が見頃の燃えるような紅蓮の紅葉
愛らしい千両のつややかな実
どんよりと曇った空の下
実りの季節を迎えた秋の草木花たちの
まばゆいばかりの色彩が心に染み渡った
思えば
ここ数年で
子どもたちが次々に巣立っていった
二年前 長男が家業を継ぐために高野山に上った
今春 長女が大学を卒業して勤め人になった
そして今 次女が今度は巣立ちの準備を始めている
こんな日は
子どもたちがまだ幼かった日々を思い出す
利かん気なお姉ちゃん
大人しすぎる息子
なかなか話し出さず 発育を心配した次女
個性豊かすぎる子どもたちが
次々に見せてくれる成長ぶりは
親であることの喜びと大変さを数え切れないほどたくさん与えてくれた
でも 子どもたちがそろそろ親から離れてようとしているこの時期になると
大変だったこと 辛かったことより
喜びの涙の方ばかりを思い出すのは何故なのか
子どもたちがもたらしたのは
両手一杯でも抱え切れないほどの思い出と幸せな時間だと
気づいた時
既に長かった子育て時代もゴールが見えている

ありがとう
私を母として選んで生まれてきてくれて
あなたたちが見せてくれた成長の鮮やかな軌跡は
二度とは得られない貴重な贈り物
今 あなたたちの母として生きてこられた
これまでの日々に
母からも たくさんの感謝を贈ります

見上げた庭の紅葉は
上がったばかりの雨にまだ濡れている
いっそう色を深めた鮮烈なまでに紅い葉を眺めながら
次女は今頃 瀬戸大橋を列車で渡っている頃だろうかと考える
明日には受験を終えて戻る娘のために
彼女の好物を作って待つとしよう
鏡を見なくても分かる
きっと今の自分の顔
しまりなく緩んでいるだろう
日毎に色を深める紅葉をひとしきり眺め
いそいそと台所に向かう小春日和の秋の朝



☆「時には思い出に浸るのも悪くない」

時には過去を振り返るのも悪くない 
それは人生という 
他ならぬ自分自身が歩いてきた長い長い道
今夜 ふと思い立って 
昔 活動していたネットサイトを覗いてみた
2019年
2018年 
2017年 
メッセージ欄の年代をどんどん遡ってゆくと
忘れかけていた色々な人たちの声が聞こえる
ー作品を読んでくれて、ありがとう。これからよろしく。
時間を遡るにつれて 
初めましての挨拶やよろしくのお願いが増えてくる
 、、、
一番古いメッセージは2013年
そこから
また時間を今度は元に戻ってゆけば 
今に近づくにつれて
今度は段々と  
さよなら 退会しますと別離の台詞が多くなる



気がつけば
いつしか自分も止めることはなくても
そこで活動しなくなっていた
いつまでも一つの場所に拘ることが必ずしも良いとは限らない
人それぞれの人生
考え方があるから
もっと自分に合った場所が見つかれば
去る 止めるの決断もやむを得ない
昔のメッセージの中には
自分のサイトを立ち上げて いわば独立して去っていった人からのものもある

適当にメッセージを拾い読みしては
ああ そういえば こんな人もいたなと思い出し
差出人が名前ではなく退会ユーザーとなっているメッセージも結構混じっている
そこをクリックすれば
確かに憶えのある文面
蘇る記憶と想い出
何故か 泣きたくなるような気持ちが押し寄せる
あの人どうしているかな
この人は今元気にやっているだろうか
本当に気の遠くなるような果てしない道のりで
ほんの一瞬すれ違って
また別れた人たち
でも ひと刹那でもすれ違えたということはやはり縁があったのだろう
星の数ほどあまたの人が暮らすこの地球(ほし)では
出会わずに終わる人の数の方が多いのだから

時には想い出に浸るのも悪くはない
ほんのひととき
懐かしい人たちと
彼等と分かち合った愛しい時間に浸りたいだけ浸って
また現(うつつ)という
今まさに自分が身を置く場所に戻れば良い
優しい想い出は
時に現実に疲れた心を巣篭もりの雛をくるむ親鳥の翼のように
温めてくれるだろう

過去があるから
未来があって
私たちの人生は絶えることない川のように常に流れゆく
さあ 前を向いて歩き出そう
流れに乗って どこまでも
その先に何が待ち受けているのか
そして 祈ろう
いつか出会った人たち
あの人もこの人も
皆どこかで変わらず元気でやっていて欲しいと
また遠い未来で
すれ違うことを信じて

☆「初めまして、新しい私」

久しぶりに街に出る
コロナ禍やここ最近の我が家の心配事で
なかなか外に出るのも勇気が要る
3ヶ月ぶりに歯科大を受診し
帰りのバスに乗って降り立ったのは岡山駅
数ヶ月ぶりの駅地下
ゆっくり歩いてみる
大好きな韓国コスメブランドのお店
まるでカラフルなキャンディのような鮮やかなリップが
お行儀良く並んでいる
地下道を行き交う大勢の人に混じって歩けば
中央広場には
ブルーとホワイトのコントラストが眩しい木製クリスマスツリー

時には街に出てみるものだと
ひしめくお店から流れてくるポップなクリスマスソングに耳を傾ける
そういえば
片隅に洒落たヘアアクセサリーのお店があったと
足を運んでみる
店内には数人の女性客と
手持ち無沙汰にしている数人の店員がいた
店先に欲しかったパールの小枝アクセサリーのヘアゴムが見つかった
キラキラ光る石がまるで太陽に照らされた雪景色みたい
フューシャーピンクのヘアピンには
やっぱり煌めく小さなストーンで英文字がオシャレに書かれている
ーどの色が似合うかな
グリーン ベージュ色々
店頭の鏡を覗き込む
ひときわ人目につく場所には
ー当店人気商品トッ3
ポップが立っている
少し大きめのリボンヘアゴムの中で
深いブルーグリーンが目に飛び込んだ
間違いなく 一目惚れの色だ
ええいままよと
握りしめてレジに向かう

不思議なことに  
一番気に入ったリボンの色は
普段ならまず選ばない色だ
たまには まったく違う自分も良い
真冬の透明な陽光の下