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樹海の秘密

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「やっぱり、小さくても樹海は樹海なんだ。俺は、前を向いていると怖いので、時々木々の影から空を見るようにしている。さっきまで見えていた太陽が木々の隙間に隠れていたりすると、ゾッとしてくるんだよ」
 皆それぞれ樹海の恐ろしさを感じているようだった。
 彼らは行方不明者、捜索のプロだが、最初は地元の人たちが散策していた。最初はあまりたくさん行方不明者がいなかったので、地元だけでできたのだが、これ以上増えると地元だけでは隠しきれずになり、ネットで樹海のことが拡散でもされると、街としては大きな痛手だった。
 さすがに警察に任せるしかなかった。
 最初は警察も、樹海を捜索したことのある人たちから、いろいろな情報を貰っていた。実際に話を聞いてみると、
――そんなこと、信じられないな――
 と思うようなことがたくさんあり、
――やっぱり地元の素人では、我々の域には達しない――
 とまで思っていた。
 しかし、実際に樹海に入ってみると、
「街の人の言っていたことは本当だったんだ」
 と、誰もが口にするようになっていた。
 地元の樹海の恐ろしさは、やはり、最初から地元に根付いて暮らしてきた人が身に染みて分かっているものなので、その言葉をおろそかにしてはいけないということを思い知らされた。
 樹海について、地元の大学が研究をしているという話は、公開されていない。町議会との絡みがあるからで、町議会から、
「余計なことは言わないでください」
 と、かん口令が敷かれていた。
 警察が地元の大学に研究依頼をしたが、結局実ることはなかった。大学側が裏から手をまわしたようだ。
 そのため、中央の大学から研究チームが結成され、実際に研究していたが、結果は何も分からなかった。
 近くに火山があるわけでもなければ、磁場を起こすものもない。樹海が存在するからと言って、危険なものであるという証拠はなかった。したがって、樹海の捜索も、
「危険なものではない」
 という結論で、捜索も早々に打ち切られた。
 ただ、
「どうして、鉄条網なんかを敷いているんだね?」
 と、町議会への質問はあったようだが、
「公園があるので、児童が誤って入り込まないとも限らない。だから、危険の内容にしているだけです」
 と答えていた。
「実際に捜索が入る前、鉄条網のまわりに、さらに一つ柵を設けていたのだが、それは、さっきのような質問があった時、いきなりの鉄条網では、それこそ児童が危険であるという考えから、警察へのカモフラージュ用に、急遽、柵を設けたのだった。
 捜索が行われた数か月は、さすがに街も警察の出入りなどで慌ただしかったが、
「つわものどもの夢の跡」
 でもいうべきか、嵐が去った後は、実に静かなものとなった。
 警察というところは、一度捜索したところは、二度と捜索しないもので、これでこの樹海に警察が来ることは、自殺者がここで自殺をしたという確証が他で見つからない限り、捜索されることはないだろう。自殺の名所として、富士の樹海のイメージから、すべての樹海が自殺の名所ではないということを証明したようなものだった。
 警察公認で、自殺の名所ではないと確定すれば、マスコミもここに注目することはない。ガイドブックに樹海のことが載っていないのは、そのせいであろう。
 ただ、コラム的な記事で載っている本もあったが、ちょっとした興味本位という程度で、却って注目されることはなかったのだ。
 それからしばらくしてからのことだった。
 今までなかったはずの死体が、樹海の中で見つかった。
 どうして見つかったのかというと、それは鉄条網の入っていない神社側から入ってすぐのところで、一人の男が首を吊っているのが見つかった。
 この場合、富士の樹海のように、入り込むことで、二度と出られないという理由で自殺を図ったわけではないので、厳密には、
「樹海が自殺を誘発した」
 というわけではない。
 発見したのは、当然神主で、裏の空き地を掃除するのに裏に入ってすぐに発見したということだ。
 自殺した人は、本当に覚悟の自殺だったようで、足元に靴を揃えて置き、その上には遺書が添えられていた。さらに服装も白装束に身を包み、神主がすぐに発見できたのも、白い色が目立ったからだった。
 遺書の内容としては、まず自殺の原因として、借金苦であった。
 男の年齢は、三十五歳。まだまだ死ぬには早すぎる年齢に思われたが、それだけに、死を選ぶしかないほど追い詰められていたのだろう。
 自殺者の気持ちを分かるはずもないが、同情だけではない何かが頭の中にあり、それが、しばらく樹海で死体が発見されたという事実を忘れることができなくなった理由でもあった。
 敦が、自分が自殺したいなど考えることはないと思っていたが、
「樹海で死体が発見された」
 と、いう話を聞いた瞬間から、何かのリズムが狂ってしまったのかも知れない。
 安藤さんが入社してきてから死体が樹海で発見されるまで、そんなに日は経っていなかった。
 口の悪いやつは、
「安藤さんが入ってから、樹海で死体が発見されるようになるなんて、何か樹海にゆかりがあるんじゃないか?」
 などと言っていたが、もちろん、そんなことを口にできるのは、気心の知れた敦にだけだった。
「おいおい、めったなこと言うもんじゃないぞ」
 と口ではそう言ったが、
――まんざらでもない――
 と感じてしまう敦だった。
 何しろ、新興住宅地として甚句が増えつつあるとはいえ、まだまだ人口的には少ない街、それに人口が増えたと言っても、隣近所など気にすることのない、ただ籍を置いているというだけの若い連中が多くなっただけで、元々の住民はむしろ減ってきている。それだけ昔からいる連中は肩身の狭い思いをしているというより、さらに閉鎖的なイメージが強まったと言っていいだろう。そんな街に住んでいる敦は、閉鎖的な自分たちのことを気づいている人は少ないと思っていた。
――俺も、安藤さんのことを、「よそ者」意識で見ているのかな?
 と感じていた。
 明らかに、他の連中はよそ者意識で見ていた。こんな悪評を内輪だけの話だとはいえ、平気で口にできるのだから、よほどのことなのだろう。
 いや、当の本人である安藤さんも、自分がよそ者として見られていることを、重々分かっているような気もする。
 かといって、安藤さんは元々の住民に対して、媚びを売るようなマネをしているわけではない。
――そんなことをしたって、どうせ無駄な努力に終わるんだ――
 ということを分かっているのだろう。
 無駄な努力を費やして、結局最後に残るのは、疲労と虚しさだけである。
――まるで、水かきもないのに、手をパーに広げて、必死に平泳ぎをしながら、前に進もうとしているようではないか――
 というたとえを想像し、思わず笑ってしまった敦だったが、顔では笑っていても、真剣に笑うことができないのだから、笑顔はひきつっていたに違いない。
 閉鎖的で、排他的な人間性を感じたのは、十歳にも満たない頃だった。小さい頃の敦は、父親の仕事の関係で、何度も引っ越しをした経験があった。
作品名:樹海の秘密 作家名:森本晃次