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樹海の秘密

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 町長と教授の間の話は、教授に分かってもらうという意味で、二人きりの話になった。しかし、実際の対策になると、教授を含めた町議会のメンバー全員で話し合われた。町議会のメンバーは、それぞれに意見もあるようだったが、どれも難しいもので、採用されたのが、公園建設という発想だった。
 この街は、人口のわりに、公園の数が少なかった。
 観光の街になる前から、ベッドタウンとして注目されてきたこともあって、人口が増え始めていた。元々は漁村が発達した街で、それ以外の産業が難しかった。農地としての活用には、それほど肥えた土壌ではなかったので、どうしても漁中心の街でしかなかったのだ。
 逆に土地はいっぱい余っていた。陸地はすぐに山が迫っていたので、斜めの土地が多かったため、人の住める場所が少ないと思われていたが、土地の値段は二束三文だった。
 安く土地を手に入れても、建物を建てるためには、平地にするための費用が掛かるため、却ってお金がかかるため、ほとんどの不動産会社や建築会社が敬遠していた。
 しかし、ある不動産業を兼ねている建築会社がここの土地を安く手に入れ、マンションを建てた。どのように安く叩いたのか分からないが、建物を建てられる状態にするまでにかかった費用は、土地購入の差額で充てても十分に余るほどだった。考えてみれば、不動産会社と建築業者が兼ねているのだから、いくらでも安くできる方法はあるというものだった。
 そのおかげで、その不動産会社は、この土地で大儲けをし、さらには、この街への発言権を得るようになった。樹海の存在は知っていたが、最初から手を出す気にはならなかった。
「あんな訳の分からない土地に手を出すようなことはしないですよ。せっかく地道にこの土地での地位を高めてきているのにですね」
 というのが、不動産会社の言い分だった。
 不動産会社は、この街の盟主的な存在になっていて、実際に町議会に社長が立候補し、かなりの得票数を得て当選していた。不動産会社としても、町議会にしても、どちらにも有利だったのかも知れない。
 不動産会社の野望は、この街だけでは終わらない。
 この街を拠点として、県議会へ打って出ようという計画もあったようだ。
 政治への足がかりがそのまま会社の利益に繋がるという考え方で、街レベルではうまくいっているかも知れないが、実際に県議会までいくとどうなるのか? そのあたりは未知数の部分だった。
 ただ、不動産会社の社長と大学の先生とでは、どうも考え方が平行線を描いていて、時々衝突することもあった。公園を建設するという発想も、全会一致で承認されたわけではなく、不動産会社の息のかかった連中の反対票もあったのだ。
 しかし、民主主義は多数決である。いくら不動産会社の息が掛かった連中が派閥としているとはいえ、さすがに過半数を超えることはなかった。いずれは超えるかも知れないが、今はまだその域ではなかった。
 公園を作ることで、密かに公園以外の場所にも鉄条網を張り廻られることに成功した。だが、すべての部分を鉄条網を張り巡らせたわけではなかった。
 実は、樹海の反対側には昔から神社が建っていた。その神社は、小高い丘にあり、この街が傾斜の多い街であるにも関わらず、さほど傾斜の影響を受けていない樹海の唯一傾斜のある部分が、その神社の建っているところだった。
 神社がある小高い丘の切れ目のところから、大きな木が聳えている。神社自体は、街の中心部からは離れたところに密かにあるので、
「本当であれば、神社を中心に街が成り立っているはずなのに、どうして離れているんだろう?」
 という疑問から出発したのが、教授の研究グループが発見した、この街にあったとされる城と城下町の存在だった。
 この神社は本来なら、街の鎮守としての役割があるはずなのに、あまり人が来ることもない。正月や夏祭りの時以外は、ほとんど誰も来ることのない街で、元々五穀豊穣が望めない街なので、どちらかというと、漁村としての鎮守なのに違いない。
 神社が見つめるその下には、漁村が存在していたことを思えば、境内に大漁と書かれた旗が飾ってあるのが、目を瞑れば瞼に浮かんできそうだった。
 神社はそれほど大きなものではない。小高い丘の上にあるので、境内までは石段が続いていた。境内まで上がる石段の下にも、石段を昇り切ったところにも、鳥居が立っているのが印象的だ。
 軽く息切れしそうな程度の石段を上がると、そこには石畳の道が境内まで続いている。お百度石も途中にはあったが、石段までの方が近いことを思えば、境内の規模の小ささを思わせる。
 境内の前にある一対の狛犬。恐ろしい形相をしているのだが、中には、
「ここの狛犬、可愛らしいわね」
 という人もいた。
 可愛らしいと思う人は女性に多く、男性の中で可愛いという表現をする人は一人もいなかった。
 ただ、石段を昇り終わって切れた息を整えながら正面を見ると、境内が小さく感じてしまう。それは、本当の狭さも当然あるのだが、それ以上に、目の前に繰り広げられた光景の壮大さに、目を奪われるからだった。
「境内さえ小さく感じられるこの爽快さ。その理由は、後ろの木々の大きさにあるんだ」
 そのことに気が付いた人がどれほどいるだろう。後ろにあるのは言わずと知れた樹海である。壮大でありながら、その壮大さの原因をこのように分かる人は、それほどいないのは不思議だった。
 境内の裏には、小さな空き地があった。そこには木が生えていない。神社の裏側から、十メートルほど向こうまでは、雑草すら生えていない。ただの空き地だったのだ。
 空き地は起伏が激しかった。
 ただ、そこに元々木が生えていて、後から切り取ったというわけではない。まったくそんな跡が存在しないのだ。
 つまりは、樹海と平地の完全な境界がここにあるということで、きっと公園の側にも昔は存在していたのだろうということは、想像がついた。
 公園には、その横にある樹海を意識する人はあまりいないようだ。
「立ち入り禁止」
 の札とともに、仰々しい鉄条網が張り巡らされているのを見ると、本当ならそこにどんな秘密があるのかを気にする人もいるのだろうが、公園に立ち入るのは、地元の人くらいで、元々閉鎖的な街なので、秘密があっても無理もないと思っている人が多いだろうから、わざわざ意識する人はいないのだ。
 だからと言って、鉄条網が必要ないというわけではない。もしも何かがあれば、閉鎖的な街であるだけに、大きな問題になるのは、必至だった。
 神社の方も、境内の裏にある空き地の向こうに鉄条網が張り巡らされてしかるべきなのだろうが、神社の神主さんが、どうしても承知しないようだ。
「鉄条網なんか張ったら、鎮守様のお怒りを買う」
 というのがその理由だが、
「果たしてそれだけなんだろうか?」
 という意見が結構囁かれた。
 町議会の中では、不動産会社関係の人の意見としては、
「全面に鉄条網を張り巡らさなければ意味はない」
 というものだった。
 これは、不動産会社関係の人の意見でなくとも、普通の人の意見としても、それは当然のことである。
 しかし、実際に地主である神主が反対しているのだから、強制執行ができるわけでもない。
作品名:樹海の秘密 作家名:森本晃次