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樹海の秘密

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――あの事件からだ――
 と思うところはあった。
 しかし、確実にその事件だとは正直言って自信がない。なぜなら事件というほど大げさなものではないほどのちょっとしたことだったので、まさかそんなことで自分が変わることになるなど信じられるはずもなかった。
 その事件というのは、一人の少年が行方不明になった時のことだった。その少年は、地元の有志の息子で、母親は狂ったかのように、警察に駆け込んできた。本来なら家に最初に報告すべきなのだろうが、それすら分からなくなっていたほどパニくっていたのだ。
 最初は、
「誘拐事件じゃないのか?」
 と言われた。
 何しろ地元の有志の息子なので、いつ身代金の要求があるのかと、警察側も緊張していたが、実際にはどこからも身代金の要求はなかった。すると、翌日の朝、
「子供が冷蔵庫の中で閉じ込められているようだ」
 と通報があった。
 冷蔵庫と言ってもスクラップで、翌日には潰されてしまう運命にあるものだった。
――もし発見が遅れていれば――
 と思うとぞっとする。
 まだ誘拐の方が相手が人間なだけに説得の余地もあるが、閉じ込められたままで気づいてあげられなければ、確実に死が待っていたのである。
 その時に町長は思った。
「思っていることをハッキリとさせなければ、誰からも見つけてもらえずに、潰されてしあう運命だ。潰されてたまるもんか」
 というのが本音だった。
 恐ろしさに身体が震えながら、武者震いも一緒に起こしていた。こんなことは初めてだった。
「死中に活を求める」
 という言葉があるが、まさに、
「死んだつもりになれば、何でもできる」
 というものだ。
 何か自信がなくなった時でも、
――冷蔵庫の中に閉じ込められた時の心境――
 を、想像することで、活を求めることができるのだ。
 町長は門脇の中に、もう一人誰かがいるのを感じていた。それが誰なのか分からなかったが、門脇にも分からない、
――どうして、町長の下で働くようになったのか?
 という疑問を感じてもいた。
 町長は、彼の中のもう一人が、自分に関係しているのではないかと思っている。何しろ自分は元々警察の人間で、刑事として長年、第一線で捜査したりしていた。その中で数えきれない人と関わりを持ち、その中には、決定的な人との運命を感じさせるような人もいた。
 数々のエピソードや劇的なシーンを目の当たりにしていたので、ある程度は感覚がマヒして来たと言ってもいいだろう。その中には、自分を恨んでいる人もいるだろうし、慕ってくれている人もいたはずだ。
 門脇の中に誰か他に存在を感じることができるとすれば、できることなら慕ってくれている人であってほしいと思う。しかし、悲しいかな慕ってくれている人よりも、恨んでいる人の方がはるかに多いのは分かっていることである。
 町長は一人の男性が自殺したことをずっと気にしていた。
 その人は、何の理由もなく自殺したようで、まわりの誰からも、
「どうして自殺なんかしたのか、まったく分からない」
 と言われていた。
 調べれば調べるほど、彼には自殺の理由が思いつかず、かといって、状況は自殺以外は考えられない。
「人間って、理由がなくとも、自殺するものだろうか?」
 そんなことを言えば、
「そんなバカなこと、あるはずないですよ」
 と言われるに決まっている。
 実際に町長もそう思っていた。ただ、ありえないことが起こるのも、人間の心境の変化が自分の想定を超えているからだと思う。超常現象よりも、可能性は高いように思えたが、心理としては、ありえないとしか思えないのだろう。
 まわりの人は感覚だけえ判断するが、町長は冷静に分析した結果で考える。その時に思うのは、
「本当に、自殺する覚悟がなくとも、自殺してしまう人っているんじゃないか?」
 と思うことだった。
 それは衝動的に思いつくことのようには思えない。それよりも、本人の意思とは別に、自殺しそうな人をそそのかしたり、背中を押す「見えない力」というものが、どこかに存在しているのではないかという考え方だった。
 そんなことを考えるようになると、不思議なことに、それからしばらく、自殺の原因が見つからないのに、自殺したという人が頻繁に発見されるようになった。
「何かの社会現象ですかね?」
 と、若い刑事は言っていたが、
「それは連鎖反応のようなものなのだろうか?」
 と、町長は感じていた。
 確かに、鉄道や飛行機などの事故は、続くという。それを連鎖反応という言葉で片づけていいものなのかと、前から思っていたが、動機不明の自殺が流行るというのを、連鎖反応という言葉で言い表すのは、どこか違うと思いながら、思わず口から出た言葉だった。
 自殺が流行る時期というのはあるようだ。
 よくあるのが、列車に飛び込むという轢死事故である。
 人身事故というのは、自殺が多いと言われる。他の利用客からすれば、いい迷惑であるが、実は列車に飛び込んでの自殺というのは、一番質の悪いものである。
 なぜなら、残された家族には地獄しか残っていないからだ。
 天涯孤独の人が自殺したのであれば、いいのだろうが、自殺することで被った分は、鉄道会社から、遺族に請求される。
 下手をすれば数百万の賠償金が課せられて、それを拒むことはできない。
 ある意味、サラ金よりもたちが悪いのだ。
 それなのに、列車に飛び込む人は後を堪えない。その理由は分からないが、何度も悲惨な状況を見てきた町長にとって、自殺というキーワードは特別な意識があった。
 自殺の理由が見つからない人の中には、列車に飛び込む人も多かった。
「まさかとは思うが、死ぬつもりなどない人が、死神にでも導かれるように、急に死にたくなったりするんじゃないか?」
 と刑事部屋で話したことがあった。
「何をおかしなことを言ってるんですか。課長らしくない」
 その話をしたのは、刑事課長をしていた頃で、第一線でバリバリだった頃だ。
 ちょうどその頃に自殺が多発していた時期で、
「だけど、これだけ自殺の原因のない人が急に飛び込んでみたりとか、おかしいじゃないか」
「そうですね、確かに誰かに突き飛ばされたわけではない。ホームにはたくさんの人がいたので、その人たち全員がウソをついていたり、突き飛ばした人に気づかないというのもおかしいですよね」
「というよりも、そんなに頻繁にまったく関係のない人を突き飛ばす理由がどこにあるっていうんだ。もし別人の仕業だとしても、偶然というのはできすぎているし、模倣犯だとしても、こんなすぐに見つかってしまいそうな犯罪は、それこそ割に合わないよな。恨みがあるわけでもない相手を殺そうとするのは、それだけ自分のストレスを人殺しで発散させようという思いが強いわけだ。そんな人が同じ時期に、急に人を殺したくなるなんてこと、考えにくいよね」
「そうですね。それを考えると、死神という説を笑うこともできませんね」
 とにかく、おかしな感覚であることに間違いはなかった。
「こっちまでおかしな感覚になりそうだ」
 やはり、尋常な感覚で、不可思議な状況を捜査するのは、避けられないようだ。
 町長は、その時の会話を思い出していた。
 門脇がもしその時に自殺した、
作品名:樹海の秘密 作家名:森本晃次