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樹海の秘密

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 その人は、敦の二年後輩になる人だ。先輩として尊敬しているところもあったが、ついていけないと思う部分も結構あったようで、
「何を考えているか分からない」
 というのが、総合的な意見であった。
「ところで、最近の高橋さんは、何かに集中して一人で動いていたんですかね?」
「本人を見たわけではないので何とも言えませんが、課内のウワサとしては、樹海のことを気にしていたということなんですよ」
「樹海というと、この街にあるあの樹海ですか?」
「ええ、樹海と言っても、それほど大きくないので、地元の人しか知らないものなんですよ。観光には程遠いものなので、記事にはできないですよね。それに、今まで大きな事件が樹海であったわけではないですし、規模から言っても、樹海というほどのものではなく、通称は樹海と言っていますが本当は『大きな森』というところなんでしょうね」
「ええ、我々も、そう認識しています。でも、あそこでは最近自殺した人が見つかっているでしょう?」
「ええ、でも、あれは首吊り自殺であり、樹海でなくてもいいような死に方ですよね。そういう意味では、樹海の取材に値しないというのが、編集部の見解なんですよ」
「でも、高橋さんの考えは違ったんでしょうか?」
「そんなことはないと思いますよ。大体、最初にあの自殺を取材の価値はないと最初に言いだしたのは、高橋さんだったからですね」
「そうだったんですね」
「じゃあ、あの自殺死体が発見されてもされなくても、高橋さんは樹海に興味を持ったということなんですね」
「そうです」
 しかし、刑事の一人は考えていた。
――最初に首吊り自殺に興味がないと言い出したのは、自分が樹海に興味を持ったことに対してのカモフラージュのようなものではないだろうか――
 というものである。
 しかし、すぐに、
――考えすぎかもしれないな――
 とも感じた。
 もし、あれがそういうカモフラージュを計画できる人間なら、最初と二番目に聞いた子供に対しての思いを天邪鬼のように感情をあらわにしたのも、何かの計算になってしまう。常軌を逸したような態度に出ると、それだけ目立ってしまうのであって、そこまで目立つ男が、まわりに対して何の前触れもなく、ただ普通に自殺するというのは、どういうことになるのだろう。
 彼の部屋からも、自殺した場所からも、彼が研究していたという樹海の資料は発見されなかった。
「ところで、高橋さんは、取材の時に、メモを結構取る方でしたか?」
「それはもちろんですよ。特に彼の場合はメモ魔とも言われるほどメモを取って、さらに綺麗に清書するメモも別にありますからね。彼は自分の宝物だって言ってましたよ」
 一年先輩の記者の人に聞くと、そういう答えが返ってきた。
「どうも普通の自殺ではないような気がしますね」
 課員への聴取が一通り終わり、刑事二人きりになってから、一人の刑事が、呟くように言った。
「そうだな、自分が集中して調べていた樹海で自殺したというのも何を意味しているのかだよな」
「遺書は見られました?」
「ああ、実にありきたりの文章だったよ。課員の話を聞かなければ、普通の自殺で、形式的な聴取に終わると思っていたくらいだ」
「そうですね。でも、自殺には間違いないんでしょう?」
「外傷はないし、争ったあともない。睡眠薬を服用しているだけで、死に顔も安らかだったからな。ただ、話を聞いて思ったんだが、自殺をする動機がどこにあったのか、それが不思議なところだ」
「はい。自殺を考えているなら、もう少し身の回りの整理をしていてもよさそうなんだけど、そうでもない。それに睡眠薬というのも、彼は以前から不眠症に悩んでいて、医者から処方されたものだったらしい。もちろん、大量に飲みと、今回のようなことになるが、それまでは、医者の処方どおりにキチンと服用していたんだからね」
「間違って、大量に飲んでしまったというのは考えられませんか?」
「そんなまさか、痴呆症じゃあるあしし」
「でも、ずっと服用していた睡眠薬が何らかの副作用を起こして、意識が朦朧としてしまったことでの、大量の服用に繋がったとは考えられませんか?」
「確かにそれはあるかも知れないね。特に、彼の場合は、いきなりまわりの想像を絶するほど、急変することがあるという話じゃないか。それがひょっとすると、何かの薬の副作用とも言えなくもないかも知れないな」
「持って生まれた性格というのも拭えませんが、確かにそれは言えますね」
「彼が今までどんな病気を患って、どんな反応を起こしたのか、また薬に対しての反応に関しても調査する必要があるかも知れませんね」
「私には、高橋という男が、話を聞いていると二重人格のように聞こえるんですが、何となく、そんなことはないように思うんです。実際に話したことはもちろん、会ったこともない相手なので、何とも言えないんですがね」
「君の発想は、まんざら外れているようには思えない。でも、俺には、まだまだわからないことが多すぎる気がするんだ」
「話を聞いただけでは分からないところがあるということですね。でも、早くしないと、このままなら自殺で片づけられてしまいますよ」
「今までの俺なら、それでもいいと思ったのだろうが、どうも簡単に自殺で片づけていいのか、疑問ですね」
「まったくの同感です」
 自殺を試みる人は、身の回りの整理をしてから、死ぬものだというのが定説になっていたが、中に、急に思い立って自殺を試みる人もいる。若い方の刑事は、そのことを、
――あまり時間を掛けてしまうと、決心が鈍ってしまうからではないか――
 と考えていた。
 つまりは、突発的に思い立っての自殺の人はいないということだ。
 しかし、先輩刑事の方は、
――いきなり死にたくなって、勢いで死んでしまう人もいる――
 という思いだった。
 そこには、死を思い立つのは無意識であり、何かの力が働いているいうことを意味していて、若い刑事の考えている、「突発的に思い立っての自殺」というのは、本人の意思にあらずということである。
 逆に若い刑事の考えは、
――無意識に自殺なんかされてたまるものか――
 という思いだった。
 先輩刑事も本音はそうなのだが、今までいろいろな自殺を見てきて、本音とは違って、無意識の自殺を認めないわけにはいかないと思うようになったのは、自分がまだ新人の頃で、若い刑事が入ってくる前のある事件がきっかけだった。
 あれは、山奥の田舎町で起こった事件がきっかけだった。
 その街には河原にキャンプ場があり、その奥には、大きな森が広がっていた。森にはキャンプをしている人は入り込むことがないほど、巨木が生い茂っていて、入り込んでしまうと昼間でも真っ暗な状態なので、地元の人でも、慣れている人以外は入り込むことはなかった。
 キャンプ場の一番奥で大学生の男子三人がキャンプを張っていたが、その奥には森が広がっていたので、他のキャンプを張る人は、そこまで入り込むことはなかった。
 大学生の連中は、怖いもの知らずというか、別に森が迫ってきていても、気持ち悪いとは思っていなかった。むしろ、誰も近づかないので、夜中でも少々騒がしくしても、気にならなかったからだ。
作品名:樹海の秘密 作家名:森本晃次