小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

二度目に刺される

INDEX|8ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

 別に早紀を見る目がいつもと違うわけではないはずなのに、明らかに早紀は健太を避けている。モジモジした態度の中に、兄の心中を探ろうとしているのが見え隠れしていたのを、後から思うと感じることができた健太だった。
――どうして、その時気づかなかったんだろう?
 と思うと、考えてみれば、
――早紀が相手の目に気づかなかったというのと、同じではないか?
 と思った。
 ということは、早紀も後になって健太と同じように、相手の目に気づいているのかも知れない。その時の心境を考えると、イライラしてしまった自分をバカだと感じてしまう健太だった。
 早紀に言い寄ってくる男性に嫉妬した頃もあったが、それも今は懐かしい。兄が思っているよりも妹はしっかりしていて、自分が気に入らない相手にはハッキリと、
「ごめんなさい。お付き合いできません」
 と言ってのけていた。
 妹に言い寄ってくる男性のほとんどは、他の女の子からは相手にされないようなオタクのような人たちで、これが大学生くらいなら、ストーカーにでもなってしまうかも知れないが、見た目そんな度胸もないような連中ばかりだった。妹も百も承知で、うまく断っていたようだ。
 妹に癒しを求めに来ているのは分かる気がするが、他の女性に相手にされないからと言って言い寄ってくるというのは、妹から見れば、「反則」に見えていたのかも知れない。
 正々堂々と告白してくるのであれば、もっと真正面から見てあげることもできるだろうが、
「他の女の子が相手をしてくれないから、私のところに来るというのもねぇ」
 と言って、半分呆れたような言い方をする妹も大変だった。
 幸い、逆恨みのようなこともなく、他の人からの誹謗中傷もなかったので事なきを得たが、それだけに、妹の毅然とした態度は立派に感じられた。
「僕にはできないよ」
 と妹の前でいうと、
「そんなことはないわ。お兄ちゃんだって毅然とした態度が取れる人だって思うもん。だから私はお兄ちゃんを慕っているのよ」
 妹から言われるとくすぐったい。
 もし彼女ができて、彼女に言われたらどんな気分がするだろう?
「木に登っちゃうかも知れないな」
 なかなか彼女ができない間、余計な妄想ばかりが頭を巡る。だが、彼女がほしいというのは、そういう妄想を楽しむことの延長だと思っていると、できない間の悶々とした時期は孤独でしかない。
 しかし、その孤独は後から思うと懐かしく感じられる。彼女ができた時に、
「あの時、こんなことを考えていたんだ」
 と、自分の妄想通りだったかどうか、思い出すことが懐かしさに感じる。
 なかなか彼女ができない間、余計な妄想を繰り返していると、
「お兄ちゃん、またいやらしいこと考えてるでしょう?」
 と、早紀から指摘される。
 そんな時の早紀の顔が紅潮しているのを感じた。恥ずかしさで顔が真っ赤になっているのだ。
――だったら、指摘なんかしなければいいんだ――
 と思ったが、それ以前に、
「どうして、お兄ちゃんが妄想しているって分かるんだい?」
「顔にそう書いてあるもん。私はお兄ちゃんの好きなタイプの女性も分かっているつもりよ」
「どんな女性なんだい?」
 この言葉は、健太にとっては本当は禁句だったはずだ。それを思い切って聞いてみたのは、妹の顔に今までにないほどの紅潮が見えたからだった。
 二人の間に沈黙が走った。
 どちらから声を掛ければいいのか、二人は探り合っているので、タイミングが難しい。それが分かっていたはずなのに、どうしてこんな会話に持っていってしまったんだ?
――元々、どっちが言い出したのか、忘れてしまったな――
 沈黙が長すぎて、会話を始めたのが、かなり前だったように思えた。本当は数分前だったはずなのに、この沈黙が時間を長くしている元凶だった。
 それでも何とかこの膠着した時間を打開しなければいけない。最初に声を出したのは、健太だった。
「お前が余計な詮索するから、こんな気まずくなっちゃったんじゃないか」
 という口調とは裏腹に、表情は笑顔だった。
 健太はそれを分かっていて、それを見ている早紀も笑顔になっていた。ここまでくれば、ぎこちなさは消えていて、さっきまでお互いに金縛りにでも遭っていたかのように思えていた。
――やっぱり気まずくなった時は、僕から話しかけるのが一番いいんだろうな――
 これが一種の兄の威厳であることへの満足感があったが、なぜか、それ以上に、どこか寂しいものも感じた。
――寂しさというのは、満足感と一緒に感じることもあるんだな――
 と改めて感じた健太だった。
 満足感は兄として感じるものだったが、寂しさというのはどこからくるものなのだろう?
 もちろん、それは男としての感情だというのは分かっていた。
――僕は妹が好きなんだろうか?
 それも分かっていたつもりだったが、心の中でも自分に問いかけないようにしていた。問いかけてしまうと、本当のこととして自分で認めなければいけなくなるからだ。
 どんなに相手のことを好きでも、妹とは結婚できるわけではない。恋愛にしてもそうだ。妹としてしか、愛することはできないのだ。
――僕って欲張りなのかな?
 妹として愛することができれば、それでいいじゃないか。女として愛することを求めるのは贅沢なことで、女として見る相手は、別に妹でなくてもいいだろう。女なんて、他にいっぱいいるではないか。
 そう思えば思うほど、早紀が妹であることを悔しく感じられた。
 まわりの男から見れば、
「あんな妹がいて羨ましいな」
 と言われるが、どんなに近づいても手を出してはいけないと宣告されているのだから、これ以上辛いものはない。
「早紀は、誰か他の男性を好きになったことってあったんだろうか?」
 言い寄ってくる男は、掃いて捨てるほどいた。それは分かっていることだった。しかし、早紀の口から聞かれることは、
「本当にまいったわ。私は別に誰のことも何とも思っていないのに」
 という言葉だった。
 それはそれで気になるところだった。
――妹が思春期になって、好きな男性が一人もいないというのも、困ったものだ――
 そう思ったので、自分に彼女ができないことを棚に上げて、妹の心配をしていると、妹から茶化される羽目になったのだ。
 先を越された方とすれば、何を言っても、それは言い訳にしか聞こえてこないような気がした。
 しかし、聞かなければいけないことはキチンとしなければいけない。お互いに笑顔になった状態を崩すというのは、勇気のいることだ。しかし、どちらからかが崩さなければいけないのであれば、兄の方からだと思うと、話しかけることに対して気が楽になったのも事実だった。
「お前は、一体どんな男性が好みなんだ?」
 さっきまでの笑顔が一変して、真面目な顔で問うてみると、彼女は相変わらずニコニコしながら、
「そうね。あまり考えたことはないわ」
 と答えた。
 その答えは、具体的なイメージを抱くというだけではなく、漠然とした感情も抱いたことがないと言わんばかりに聞こえた。
「考えたことがないというのは、相手を男性として見たことがないということ?」
 と感じたことをそのまま口にするのではなく、少し表現を変えてみた。
作品名:二度目に刺される 作家名:森本晃次