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二度目に刺される

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 普通の家庭でいう、
「反抗期」
 というもののようだが、反抗期ほど自分の感情をぶつけられる相手がいるわけではなく、せめて、会話がなくなるくらいが精いっぱいの反抗だった。
 家政婦は、それでも黙々と自分の仕事をこなしていた。
 子供の頃は、大きなリビングで、妹と食事をしていた。母親がいてくれることもあったが、妹と二人というのも少なくはなかった。
 テーブル席に十数名座れるスペースがあって、そこに母がいる時でも三人しかいないのに、わざと席を離して座っていた。
 上座は一応父の席、その右側の席に、母がいる時は座っている。
 兄妹二人は、上座と下座の中間あたりの席の左右に陣取っていた。お互いに対面でありながら、その距離は遠く感じていた。
 妹の名前は梶谷早紀。健太よりも三つ下だった。小学生の頃は年齢の差を感じていたが、それは兄として妹を見た時、幼さを感じ、妹が兄を見た時は、勇ましい兄を感じていたことだろう。
 健太は早紀の寂しさを知っていた。健太の方は、両親が食卓にいなくても別に寂しさを感じなかったが、それは妹の早紀に寂しさを感じていたからなのかも知れない。
――早紀がいてくれなければ、僕も寂しさを感じたかも知れないな――
 これは兄として妹を守ってあげなければいけないという思いとは少し違っていた。
 逆に、妹に寂しさを感じられてしまうと、自分が寂しさを感じる隙がなくなってしまったのだ。
 健太は、この頃から妹というものに対し、他の人とは違う感情を抱いていたと感じていた。しかし、中学に入った頃になると、
――妹はやっぱり妹だ――
 と感じるようになった。
 最初は、どうしてそんな感覚になったのか分からなかったが、理由の一つに思春期に入ったことで、異性に興味が出てきたことがあった。そのことを中学時代の健太は自覚していたつもりだったが、理由が本当にそれだけなのか、自分でも分からなかった。
 健太が異性に興味を持ち始めた最初は、中学二年生の頃のことだった。気になる女の子はいたのだが、その女の子は人気がある女の子で、友達の話の中にも、彼女の話が結構出ていた。
 その話題に対して、健太は入ることができなかった。その態度を見て、勘のいいやつからは、
「お前も好きなんじゃないか?」
 と言われて、顔を真っ赤にしたものだが、そんな様子がいかにもバレバレで、
「分かりやすいやつだな」
 と、笑いながら言われたものだ。
 競争率はかなりのもので、最初から健太の勝負になるものではなかった。子供の頃から諦めはよかった健太は、すぐに自分はダメだと諦めてしまっていた。
 そんな健太は、その時自分が思春期に入ったことを自覚した。順序が違ったが、自覚できただけでもよかったと思っている。気になる女の子のことを考えただけで、ムズムズするものを感じていた理由が分かっていなかったのだがら、よかったと思うのも無理のないことであろう。
 ただ、中学時代は健太にとって、あまり思い出の深い時期ではなかった。友達と一緒にいても、どこか中途半端な気持ちがあり、心ここにあらずという思いを抱いていたが、なぜそんな感覚になってしまったのか、自分でも分からなかった。
 高校生になると、相変わらず異性に対してのムズムズした感覚があったが、好きになるまでの女性はいなかった。
 友達の中には、
「絶えず誰かを好きになる相手がいないと、思春期は耐えられない」
 と言って、好きになる相手をちょくちょく変えながら、絶えず誰かを好きでいるようにしていたようだが、そんな様子を見ていて、彼がどこか無理をしているように思えていた。
 だが、実際に彼には無理はなかったようだ。
「俺、彼女ができたんだ」
 と、その友達に言われて、少し羨ましさはあったが、
「よかったじゃないか。好きな女の子だったのかい?」
「本命ではなかったけど、相手から告白されると、俺も舞い上がっちゃってさ。最初からずっと好きだったような気がしてきたんだよ。不思議なものだよな」
 その話を聞いて、
「やっぱり、絶えず誰かを好きでいるという心構えのようなものが大切なのかな?」
 というと、
「そうかも知れないな。俺も今お前にそう言われて、なるほどって思ったものさ」
 と嘯いていたが、それが本心だったのかも知れない。
 その話を聞いてすぐのことだった。
「私と付き合ってください」
 と、告白されたことがあった。
 高校二年生の春で、桜が散り始めた四月中旬くらいのことだった。
 健太にとって、自分が気になっていた女の子ではなかった。どちらかというと男子からは人気のありそうな女の子だったので、健太の中で、最初から意識しないようにしていた。それは中学時代の頃の意識があるからで、トラウマになる前に、自分の中で教訓にしようという思いがあったのだろう。
 健太はビックリしたが、断る理由などあるはずもない。
「ええ、ぜひ、僕でよければ」
 照れ臭さを隠しながらそういうと、
「ありがとう」
 と、満面の笑みで答えてくれた。
――この笑顔が見たかったんだ――
 あどけなさの残る笑顔は、それまで感じていた彼女への意識を一変させた。
――やっぱり。友達のいう通り、絶えず誰かを好きでいるというのは大切なことなのかも知れない――
 そう思ったのは、彼女から告白されて、彼女のあどけない笑顔を見た時、
――ずっと前から、彼女のことを好きだったんだ――
 と信じて疑わないほどの気持ちが頭にあったからだった。
 その女の子とどれくらい付き合っていただろう。実はハッキリとしなかった。最後には自然消滅だったのだが、どうしてそんなことになったのかという理由はハッキリと分からないが、一つ言えることは、彼女の微妙な変化に気づいてあげられなかったことだった。
 女の子というのが、心の変化を相手になるべく悟られないようにするのがうまいということを、その時初めて知った。後になって友達から。
「お前には分からなかったのか?」
 と言われたが、
「ああ、分からなかったんだよ」
「おいおい、鈍感にもほどがあるぞ」
 と言われても、ピンとくるものではない。きょとんとしていると、
「お前。本当に分からなかったのか?」
「ああ」
 あまりにも真剣な表情の健太に、友達も意外な顔をして、
「そんなものなのかな?」
 と、今度は訝しそうな表情をした。明らかに、嫌悪感が滲み出る表情だった。
 健太は元々、勘の鈍い方ではなかった。そのことは友達も分かっているはずなので、意外そうな表情になったのも分からなくはないが、最後の訝しそうな表情になったのはどういうことなのか、健太には、理解できなかった。
 その頃には、妹の早紀も中学生になっていた。子供の頃の雰囲気ばかりがイメージの中になかったが、いつ頃からか、妹を女性として意識してしまっていた。それがいつからだったのか分からないかったが、彼女と自然消滅したことで、分かった気がした。
「彼女から告白された時、あの時だったんだ」
 告白されたことで、妹を見た時に女性を感じたのか、それとも、妹に女性を感じることで、健太のオーラに何か変化があったのか、ほぼ同時だったような気がするので、どちらなのか、想像するのは難しかった。
作品名:二度目に刺される 作家名:森本晃次