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同じ日を繰り返す人々

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 向こうはそんなつもりもなく、オサムの方が勝手に勘違いをし、勝手な解釈をしてしまったのかも知れない。そこまでヨシオが計算しているとすれば、それはオサムにとって恐ろしいことであった。
――過去に戻ってしまうと、今度は未来に向けて一気に飛び出すことはできないのではないだろうか?
 と思うようになった。
 しかし、それは同じ日を繰り返しているという、限られた範囲の世界でのことであり、もし、飛び出すことができれば、それはこの世界から逃れるためのキーになるということになるのだと、オサムは感じた。
 オサムは、
――自分ならどうするだろう?
 と考えた。
 日付が変わって、同じ日だと一瞬で判断できるかどうかにもよるが、そう思うことができれば、どこに戻ろうとするだろう?
――やっぱり、日付が変わるその瞬間に戻るに違いない――
 それは、手を伸ばせば届きそうなすぐそばにある一瞬である。しかし、それも毎日をきちんと飛び越えている人に言えることで、同じ日を繰り返している人にとっては、すぐそこに見えているようで、超えることのできない目に見えない結界が、目の前に広がっているのを見て取ることができるのだろうか。
 だが、それもヨシオが創造し、ツトムが実験台になっているパターンの世界での出来事である。オサムには当てはまらないのではないだろうか? そう思うと、オサムは頭の中で自分が目の前に見える過去に容易に戻ることができ、そして、今度はそこからどうするかを考えればいいという思いに駆られた。
 一つ段階を進んだように思えたが、進んだ段階で、次はどこに飛び出せばいいというのだろう? ヨシオとツトムの二人のパターンと同じであれば、元の世界に戻ることはできないような気がする。
 つまりは、過去に戻ってから未来に飛び出す瞬間、どこに飛び出すかを最初から決めておく必要はないように思えた。
 いや、最初から決めてしまうと、本当にそこに戻れるのかどうか怪しい気がした。本能のまま、自分の理性や欲という正反対のものが、本能として息吹をとなった時、自然と飛び出す瞬間に導いてくれるような気がした。
 オサムが、ヨシオとツトムとの一番の違いがどこにあるかと聞かれると、
「自分の未来は自分が決めるものではない」
 という答えが引き出される。
「それではあまりにも消極的なのでは?」
 と言われるであろう。
 しかし、それは自分では決められない優柔不断な考えであり、いろいろなことを考えて決められないことが、本当の優柔不断ではないということを改めて教えられることに繋がくる。
――優柔不断というのは、本当はいろいろなことを考えているつもりでも、実際には考えが浅いから、すべての考えが中途半端になり、結論がないことになる。結論がないことをいくら繋ぎ合わせようとしても、それはただの自己満足にしかすぎない――
 自己満足させるための「言い訳」として、優柔不断ということが使われる。元々あまりいい意味ではない優柔不断という言葉でも、それを言い訳にしなければいけないほどの考えというのは、
――それだけ自分に対してウソをついている――
 ということになるのではないだろうか。
 オサムはここまで考えてくると、嫌な予感が頭を過ぎったのを感じた。
――どうやら、この考えは自分にとって不利なことをいくつか考えさせることになるのかも知れないな――
 と思わせた。
 何がそのように感じさせるのか、すぐには分からなかったが、
――同じ日を繰り返しているということは、自分にとって知りたくないことを思い知らされることに繋がるのかも知れない――
 それが嫌な予感の一つだった。
 元々、オサムは自分が忘れっぽいことや、優柔不断なところがあることを意識していた。それと、
――同じ日を繰り返していることと結びつかないでほしい――
 という思いとが交錯して頭の中で嫌な予感を作り上げているようだった。
 ただ、オサムには同じ日を繰り返していたとしても、それは永久的なことではなく、近い将来、必ず抜けると思っている。
 しかし、嫌な予感を感じたことで、一つ疑念が浮かんできた。
――同じ日を繰り返している間を抜けたとして、一体次の日というのは、いつの一日になるというのだろう?
 繰り返したその一日の次の日になるのか、それとも、繰り返した日を一日一日と考えて、いきなり数十日後に飛び出すということなのだろうか。もし、後者だとすれば、その間の記憶はどうなるのだろう? 考え始めると、そう簡単に自分を納得させることはできないような気がしてきた。
 オサムは、自分の肉体に本当に戻れるのかということが嫌な予感の正体であることにすぐには気付かなかった。
 同じ時間に、たくさんの人が死に、たくさんの人が生まれる。すべての人が生まれ変わりだとは言わないが、生まれ変わった人もいるのは確かだろう。もちろん、意識も感覚も完全にリセットされ、まったく違う人として生を受けるのだから、生まれ変わりなどという意識はない。それこそ、
――神のみぞ知る――
 というべきであろうか。
 ただ、新しく生まれてくる人の中には、死なないまでも、同じ日を繰り返して、そこから逃れるため、過去のある地点に戻り、さらにそこからどこかに飛ぼうとして、行きついた先が、生まれ変わりだったとしても、不思議に感じないのは、同じ日を繰り返しているということを信じているからに違いない。
 オサムにとって嫌な予感というのは、戻ったつもりで、自分がリセットされてしまうのではないかということだった。新しく生まれ変わるということは、今の自分が死んでしまうということと同じである。
――でも、今の人生に満足しているわけではないからな――
 何に不満があるというわけではないが、過去を思い返すと、将来に対して何ら希望を持っていないことを思い知らされる。
――先が見えないから、同じ日を繰り返すという道に入りこんでしまったのだろうか?
 ただ、ここまで同じ日を繰り返すということに対して深く考えたのは、ツトムやヨシオ、そして横溝の存在があったからだ。そしてその入り口にいたのがミクであり、アケミとシンジであった。
――ひょっとして生まれ変わるとすれば、ミクであったり、アケミやシンジなのかも知れない――
 別に男でなければいけないというわけではないだろう。何しろリセットされるのだ。感覚や記憶以外に、理性や本能もリセットされることだろう。
 そう思うと、オサムは喫茶「イリュージョン」という空間が、異空間の入り口のように思えてきた。
 ただ、オサムは明日という日に、ツトムと会うことを自覚している。それは同じ日を何度か繰り返して戻ってきたところでツトムと再会するのだろうと思っていた。しかし、リセットを思うと、すべてを考え直さなければいけないように思えてきたのだ。
――この世界は、解釈一つで何でもありなんだな――
 と思ったが、それもリセットという発想を持ってしまったからだ。
 考えてみれば、
――夢の世界だって何でもありじゃないか――
 とふと感じたが、
――夢の世界というのは潜在意識が作り出すもの――
 という意識があることから、夢の世界こそ、制限だらけのような気がして仕方がなかった。
作品名:同じ日を繰り返す人々 作家名:森本晃次