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同じ日を繰り返す人々

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 腕組みをしながら聞いている姿に、ツトムは相手の反応に関係なく、熱弁を振るっている。それはまるで自分の意見を正しいと信じて疑わない信念のようなものが感じられる。それだけ会話の最初の主導権はツトムが握っていた。
 しかし、聞いている方も負けているわけではない。主導権を相手に握られながらも、決してキャスティングボードを相手に渡さないという意識が感じられるのか、微動だにせず、腕を組んで考えている姿からは、真っ赤なオーラが醸し出されているかのようだ。
――これって本当に夢の中なんだろうか?
 そもそも、夢の中だという意識があること自体が、おかしな感覚だった。
 夢を見ている時、自分が夢を見ているという意識があるわけではなく、目が覚めるにしたがって、
――これは夢だったんだ――
 と感じる。
 しかし、夢の内容は、どんどん意識から消えていく。記憶の奥に封印されてしまったのかどうか、自分でも分からない。
 ツトムが一生懸命に話しているのは、自分が同じ日を繰り返している時間を抜けた時のことだった。
「その時の俺は、同じ日を繰り返していた自分と違う自分になっているんだろうか?」
「もし、そうだとすれば、同じ日を繰り返していたという思いは君の中から消えていることになるよね。でも、そんなことはないんじゃないかって僕は思うんだ。理由に関しては分からないけど、きっと、その理由も君が一緒に持ってきてくれるような気がする」
 それが初めてツトムの疑問に対してヨシオが答えた言葉だった。
――おや?
 前の日にヨシオと話をした時、同じ日を自分が繰り返していたという意識を持っていると言っていたヨシオだったのに、ここではそのことについて曖昧な答えしかしていないことが不思議だった。
 夢の中だから曖昧なのかも知れないが、それよりも、
――ヨシオはツトムに対して余計な先入観をなるべく与えないようにしているのかも知れない―― 
 という思いが強かった。
 そのことから、オサムは一つの仮説を立てていた。
――ツトムは、ヨシオの実験台なのかも知れない――
 という思いだった。
 実際に、ツトムは小説家としての想像力があり、ヨシオは科学者として、想像から創造、つまり、作り出したものに確証を与えることによって、見えていなかったものが、見えてくるようになるのだ。
 そう思っていると、今度はツトムよりも、ヨシオの話の方が主体になっていた。主導権を握られながらも、実は主役の座を渡していなかったヨシオが、ツトムの想像力に信憑性を植え付けているようだった。
 ただ、それでも、肝心な部分は話さない。
 たとえば、前の日に話をした「リセット」という考えや、元に戻るために、日にちが変わった時から過去に戻るために、過去のどこに戻ればいいかということなど、過去に戻るということさえ、一切話をしていなかった。
――ツトムなら、自分で気が付くと思っているのだろうか?
 と思っていたが、
――ではなぜ僕には話をしてくれたんだろう?
 ツトムは実験台だとしても、オサムは何になるんだろう?
 そんなことを考えていると、夢から覚めてくるのを感じていた。
――この夢だけは忘れたくない――
 そう思うと、自分が最近、忘れっぽくなっていることを感じていた。それがいつも夢から覚める時、
――目が覚めるにしたがって、夢の内容を忘れていくんだ――
 と感じたその日に感じることが多いということに、まだ気が付いていなかった。
 夢から覚めてくると、自分がどれだけ熟睡していたのかをいつもは感じていて、
――もう、朝なんだ――
 と思っていると、実際にはまだ夜中であることが多かった。
 しかし、その日は熟睡は感じていたが、朝になったという意識はなかった。
――三時頃じゃないかな?
 と思って時計を見ると、思った通りの三時を時計は示していた。計ったような感覚に、いつもと違う意識があり、
――今もまだ夢の中なんじゃないかな?
 と感じた瞬間、どうやら、またしてもそのまま熟睡してしまったようだった。
――今度目が覚める時は本当に朝なんだ――
 と思ったということを、朝目が覚めた時に感じた。その時の朝の目覚めは、夜中に夢を見たという意識のない目覚めだった。
――やっぱり、夜中に一度本当に目を覚ましたんだ――
 朝の目覚めから思い返す感覚に、その日は間違いがないように思えた。普段であれば、夢の世界と現実世界には結界のような線があり、決して侵してはならない境界を感じているはずだった。それなのに、その日は目覚めの中で、結界を感じることはなかった。ということは現実世界で夢を見ているつもりで、本当に見ていたということになる。だから、夜中に目を覚ましたと感じたのだ。
――目を覚ました時に何を感じたのだろう?
 何かを感じたように思うのだが、思い出すことができない。一度目を覚ましたと言っても、その後は深い眠りに就いてしまったのだ。目を覚ました時は、自分では夢の中にいると思いこんでいたのだ。
――感じたことも、すべてが夢の中――
 と感じたに違いない。
 そう感じる方が納得がいく。要するに解釈する上で、これ以上楽なことはないのである。
 夢を自分で自由に操れるようになれば、同じ日を繰り返すというメカニズムも理解できるようになるのかも知れない。今の段階では、同じ日を繰り返しているということを一番理解しているのはヨシオではないだろうか。しかし、オサムの中でもう一人、横溝という男の存在も無視できない。彼も何かのキャスティングボードを握っているようで仕方がない。
 目が覚めてしまうと、夢の内容はすっかり忘れてしまっていた。しかし、頭の中に意識として残っていることがあった。
――ツトムはヨシオの実験台だったんだ――
 という意識だけである。
 ただ、ツトムがヨシオの実験台であれば、オサムは一体この世界ではどういう位置づけになっているのだろうか? 同じ日を繰り返すことをツトムからもヨシオからも告げられた。ツトムがヨシオの実験台であるということを、ヨシオはオサムに話しながら、ハッキリと言わないまでも、相手に気付かせるように話をしていた。完全に誘導された形になったオサムだったが、一体、ヨシオはツトムを使って何を証明させようとしたのであろうか?
 オサムはその日、確かに昨日(と思われる)と同じような環境にいるような気がして仕方がなかったが、同じ日を繰り返していると言えるほど、同じではなかった。
 中途半端に昨日と同じ感覚なのである。
 元々、昨日と同じ日だという感覚があるのだから、その部分を差し引いたとしても、ここまで中途半端な感覚は、
――明らかに違う日――
 だということを示唆していた。
――そういえば、昨日ってどんな日だったんだっけ?
 昨日という日を思い出そうとすると、意識が錯乱してくるのを感じた。昨日という日をどんな日だったのかというよりも、
――どれが昨日の記憶なんだろう?
 と言った方がいいかも知れない。
 自分の中にある一日という単位の記憶が、時系列で並んでいるはずなのに、すべてが、平行線になっているように思えてきた。
――どの記憶が昨日で、あるいは一昨日で、あるいは一年前で……
作品名:同じ日を繰り返す人々 作家名:森本晃次