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同じ日を繰り返す人々

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――自殺しようとする人には、性格的に共通点があるに違いない――
 というのが基本的な考え方だが、何度も自殺の場面を目撃するたびに、その思いがまるで絵に描いた餅のように思えてくるから不思議だった。
――感覚がマヒしてきているのかな?
 と感じた、その思いに間違いはないだろうが、それだけではないような気がしていたのもウソではない。
 今までに何度か自殺を目撃してはいるが、その中に自分の知り合いはいなかった。もしその中に自分の知り合いがいるなどということになれば、それこそ確率的にかなりのものであり、恐ろしさが頭を擡げるに違いないと思ったからだ。
――自殺する人の心境が分からない――
 死ぬしかないと思って死ぬのだろうが、そこまで自分を追いつめるには、もう一人の自分がいないとできないような気がする。
「誰かが背中を押してくれないと、自分から死ぬなんてできないわよね」
 数少ない彼女の言葉の一つでもあった。
 彼女はその時あまり面白くなさそうな顔はしていたが、ほとんど話さなかったわけではない。むしろ、言葉数は多かったのかも知れない。それを思うと彼女が何を考えていたのか分からないまでも、その後自殺することになったのも、その時から繋がりがあったのかも知れないと思った。
――別れることになったのも、「死」というものに対して犯してはいけない神聖なものであるということを彼女の中で確固たる気持ちが存在していたに違いない――
 そう思うと、別れることになったこと、別れてしまってから後悔がなかったことに対して、オサムは自分なりに納得できるような気がしていた。
「オサムさんは、自殺を何度も見ているということは、何かを繰り返しているのかも知れませんね」
 この言葉も彼女の不思議な語録の一つだった。
「繰り返す?」
「ええ、繰り返しているからこそ、自殺を目撃するんですよ。そのうちに嫌でも何かを繰り返すことに遭遇して、死というものを感じる時が来るのかも知れませんね」
 どこまでも謎に満ちた発想だった。
「君の発想が時々怖くなることがある」
 悪気もなかったのに、思わず口走ってしまった。
「それはお互いさまでしょう?」
 彼女も負けてはいない。ただ、勝ち負けの問題ではなく、会話が何かの答えを求めているわけでもなく、淡々と続けられていることに、ゾッとしたものを感じていた。
 オサムが同じ日を繰り返すというのを意識させられたのも、ミクと会ってからだった。
 ミクに対して、何ら他の人との違いを感じたわけではなかったはずなのに、どうしてそう感じたのか、ひょっとすると、以前付き合おうと思っていた彼女とどこか似たところがあったからなのかも知れない。
 ただ、今回はミクに対して何も話をしたわけではない。歴史の話に花を咲かせた程度で、ミクと話をしていて感じた、
――同じ日を繰り返す――
 という発想について口にはしなかった。
 だが、口にしなかっただけで、素振りは普通ではなかったのかも知れない。ミクはそのことを感じ取り、態度に表したことを、逆にオサムが怪しく感じたのかも知れない。
――ミクに対して、どこか怯えたような気持ちがあるのかも知れない――
 初めて会ったはずの人なのに、どこかで会ったことがあると感じたことが今までに何度かあった。その相手に対して必ず怯えのようなものを感じていたが、ミクに対して感じた怯えも、同じような怯えだった。
――でも、ミクのような雰囲気の女性と出会うのは、初めてのはずなんだけどな――
 と感じていた。
 ミクの方はどうなのだろう? 話をしていて違和感はないが、まったく疑問を感じていないというわけではなさそうだ。お互いに手探りだったのは、間違いのないことのようである。
「僕は、同じ日を繰り返しているということを、メカニズムとして証明したいと思って、研究していたんだ。ずっと研究していたんだけど、研究している間は、毎日が先にいくんだ。でも、同じ日を繰り返しているという事実に変わりはない。つまりは、同じ日を繰り返している部分と、先に進む部分の二つが存在しているんだ」
「僕には信じられない」
 と、オサムがいうと、
「オサム君は、今まだ、自分が前兆にいると思っているんじゃないかい?」
「ええ、まだ、同じ日を繰り返しているという自覚はありません。毎日を先に進んでいますからね」
「実はオサム君だって、すでに同じ日を繰り返しているんだよ。でも、同じ日を繰り返している部分よりも、先に進む部分の方がまだ大きくて、同じ日を繰り返しているという意識がないだけなんだ」
「難しいお話です」
「これは同じ日を繰り返している人は、意識していることなんだけど、自分が同じ日を繰り返していて、午前零時を過ぎて、次の日になっていないことを感じた時、それは日にちが変わる瞬間であれば、向こうの世界に飛び出すための扉が見えるんだっていう。それは僕の研究ではハッキリと証明できたわけではないんだが、ツトム君の小説のネタにはなっていた。だから、彼に同じ日を伝える役が僕になったというのは、まんざらでもなかったのさ」
「同じ日を繰り返しているということを、その人に納得させるために、誰かが話をしたやるということは、ツトムさんから聞きました」
「どこまで聞いたのかな?」
「同じ日を繰り返しているということを教えてことができるのは、一人に対して一人だということでした。それ以外にも聞いたような気がしたんですが、正直覚えていません」
「その時に君は、僕の存在を聞いたんだね?」
「ええ、そうです」
「普通に毎日を暮らしている人、つまり、同じ日を繰り返していない人だって、日付が変わった瞬間に、必ずその扉を開けて、向こうの世界に飛び出しているんだよ。その人は無意識にしているだけのことで、覚えていないけど、その行為がなければ、明日という世界は開けてこないんだ」
「ヨシオさんの話を聞いていると、まるで、次の日に進むことの方が難しいんじゃないかって錯覚を覚えるような気がします」
「それは錯覚ではなく真実なのかも知れないよ。オサム君は、自分が今まで歩んでいたことだけが真実だと思いこんでいるから、そのことを錯覚だと感じるのさ」
「どういうことですか?」
「今まで意識したことのないものを、いきなり意識すると、それは唐突に出てきたことであって、余計に今まで歩んできた自分を正当化したくなるものさ。それは当然のことなんだろうけど、それって、本当は絶対的な保守を自分で作ってしまっていることの証明をしているだけになるんだよ。すべて自分が正しいということを自覚していないと、自分に自信なんて持つことができないのが人間というものだからね」
「人間というのは、そんなに弱くて、流動的なものなんですか?」
作品名:同じ日を繰り返す人々 作家名:森本晃次