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同じ日を繰り返す人々

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 もちろん、この話でツトムとヨシオの接点が見いだせたわけではないが、同じ日を重ねることで厚くなったものが、どこかで接点を持ったとしても、不思議ではないと思えてくるから不思議だった。オサムは最初に横溝と話をした時に感じていた同じ日を繰り返すという意識を、今は完全に怖がっているのが分かった。
――こんなに得体の知れないものだったなんて――
 想像すると、自分が精神的に耐えられるものなのかどうか、疑問に感じてきた。
――恐怖心というのは、これから起こることが分からないから感じるものだ――
 明らかに何かが起こるのは分かっていても、そこからどんなことが派生するか分からない。いい方に考えれば、夢や希望ということになるのだろうが、逆に言えば、恐怖以外の何物でもないということになるだろう。
――必要以上に神経が過敏になり、冷静な判断力を必要とする時ほど、精神的に不安定になってしまうに違いない――
 入る前から不安が募っていては、最初から負の要素を背負ってしまっていることになり、自分が未知数であり、それ以上でもそれ以下でもないことを思い知ることになるだろう。
――僕はこうやっている間にも実際には同じ日を繰り返しているのかも知れない――
 ただ、自覚はない。
 午前零時を過ぎれば何事もなく次の日になっている。そして、前の日とは違う一日を過ごしているのだ。
――だが、昨日と思っている日が本当に昨日だということを考えたことがあっただろうか?
 いや、思いこんでいるだけで、そのことを考えようとはしなかった。
 それは、考えようとしなかったのではなく、考えないようにしていたのかも知れない。
――しなかったというのと、していたというのではまったく解釈は違ってくる――
 そう感じると、今日という日を繰り返すことに知らず知らずに入り込んでいる人も少なくはないに違いない。
――こうやって話をしている人も、同じ日を繰り返しているのかも知れない――
「同じ日を繰り返すことを抜けた」
 と自分から言っている人は、本当にそうなのだろうが、少なくとも、同じ日を繰り返している事実を認識していた人たちだ。
 そんな人たちと今まで会わなかったはずの自分が、急にまわりがそんな人ばかりになるなんて、そんなおかしなことはないだろう。
――やっぱり、前兆からいつの間にか、同じ日を繰り返す世界に入りこんでしまっていたんだ――
 と感じた。
 オサムは、昨夜のことを思い出そうとしていた。すると、一つだけ思い出せることがあった。
――確か、誰か死のうとしている人を助けたような気がしたな――
 自殺しようとしている人を助けるというのは、いいことをしたという気分になるものだが、その時は、後ろめたさを感じた。
 確かに死を意識するほど辛いことのあった人は死んだ方が楽なのかも知れないので、自殺を止めるというのは、後ろめたさを感じても仕方がないが、すぐにそんな思いも薄れてくるものだと思っていた。
 しかし、その時は次第に後ろめたさが膨らんでくる。まるで、
――自殺しても、その人は本当に死ぬとは限らない――
 とでも言わんばかりの考えだった。
 それは、生まれ変わるという発想がその後についていたからだと思ったが、数時間しか経っていないのに、そんなことをすっかりと忘れてしまっていたというのもおかしなことだった。
――やっぱり、午前零時を境に、僕は意識も記憶もリセットされてしまったのだろうか?
 と、感じたのだ。
 自殺をする人をオサムは今までに何度か見たことがあった。
「一生のうちにそんなに何度も自殺の場面に遭遇するなんて、よっぽどのことなのかも知れませんね」
 と、自殺を目撃したことが何度もあることを話した人から言われた。
 話をした相手は女性で、どうしてその人に話す気になったのか、今ではその時の心境を忘れてしまった。しかし、その時まではいい関係を育んできた相手だったので、付き合う寸前まで行っていたのは事実だった。そんな相手に話しをしたのは、何か思うところがあってのはずだったのに、結果としては、完全に裏目に出てしまった。明確な別れの言葉はなかったのだが、それからお互いにぎこちなくなり、付き合うどころか、一緒にいることも苦痛に感じるようになった。
 幸いだったのは、どちらが嫌いになったというわけではなく、自然消滅的な別れに、憔悴感はなかった。
「お互いに距離を置きましょう」
 という一言があっただけで、
「そうだね」
 肯定も否定もする気がなかったオサムは、そう答えるだけだった。相手もそのことを分かったのか、それ以上、何も言わなかった。
――どうして、こんなことになったんだろう?
 ぎこちなくなり始めて最初はいつもそのことを考えていたが、次第に考えないようになった。気持ちが冷めてくるのが分かってくると、別れに対して、何の感情も抱かなくなった。
 会わなくなってからしばらくして、
――自殺の話をしたのがいけなかったのかな?
 と後悔しているわけでもないので、反省もしていない。結果として別れることになったが、きっかけなどどこに転がっているか分からない。自殺の話がきっかけになったとオサムは思っているが、彼女の方は違うことを考えているのかも知れない。
 ただ不思議なことに、自殺の話がいけなかったのではないかと考えたその後、少ししてから、彼女が自殺未遂をしたという話を聞かされた。手首を切っての自殺未遂らしいのだが、理由はハッキリとしないという。完全な衝動的な行動で、その時の彼女の気持ちを計り知ることは、すでにできなくなっていた。
「そうなんだ」
 教えてくれた人に対してそっけない素振りをしたが、相手も修が別れてからかなり経っていることで、
「俺には関係ない」
 と言われても仕方がないという思いがあったに違いない。
 オサムは自分でも冷静な顔になっているのは分かっていた。それまでにない冷静な表情に、表情が引きつっているのではないかという思いに駆られていた。それでもオサムにとってかつて、
――付き合っていたと言ってもいいくらいの相手――
 そんな女性が自殺を試みたというのに、まったくショックがないということはありえないだろう。
「何となく、分かっていたんじゃないかい?」
 と言われたが、
「そんなことはないよ」
 と答えた。その言葉にウソはない。彼女が自殺をするような女性でないと思っていたのは事実だし、
――彼女に限って――
 と考えたのも事実だった。
――人間なんて、いつどこで死にたいと思うか、分からないということか――
 と感じた。
 それは人間の感情に左右されない本能のようなものが見えないが影響しているということになるのだ。
 オサムにとって、自分の中で、
――自殺する人――
 というイメージが頭の中にあったのは事実だが、実際に自殺を目撃した相手が、どんな人だったのかなど、分かるはずもない。元々知らない人が自殺して、生死の境を彷徨っている時の断末魔の表情は、インパクトが強すぎたが、それとは別に感情は冷静だった。
――まるで何も考えていないかのようだ――
 と思えるほどで、しかも、その人が普段どんな人だったのかなど、想像できるはずもなかった。
作品名:同じ日を繰り返す人々 作家名:森本晃次