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同じ日を繰り返す人々

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 オサムは、その話を聞くと、驚いてミクを見た。
 ミクはオサムが考えていることをある程度分かっているとは思っていたが、ここまでお互いを分析できているとは思わなかったからである。
 しかも、その発想はオサムの発想に似ていて、さらに話を聞いていくうちに、自分よりも発想が発展していることに驚かされた。
――言葉に出すことで、想像力が増してきて、次々と新しい発想が生まれるのかも知れない――
 と感じた。
 その感覚は、お互いの中で共有しているようだった。
「オサムさんは、夢を共有しているという発想したことがありますか?」
「夢を共有というのは、自分が誰かの夢に入り込んだり、誰かが自分の夢に入り込んできたりということかい?」
「結果的にはそういうことなのかも知れませんが、あくまでも共有なんです。同じような夢を見る人の波長が合うことで、引き寄せられるものがあり、お互いに夢だと思っているから、腹を割って話すこともできる。夢の中で話をしているわけでなくても、同じことを考えていることで、会話しているのと同じ気持ちになれる。声に出さなくとも考えていることが分かり合えるというのが夢の特徴であることに気付くんですよ」
「そういう意味での夢の共有なら、発想したことがあるね。というよりも、いつも無意識にだけど、考えているような気がするな」
「そうでしょう? 私もそうなんですけど、こんな話他の誰にしても、同調してくれる人がいるとは思えなかった。でも、このお店に来て、波長が合うことを知ったオサムさんなら、話が通じ合えるような気がするんです」
 オサムは、その話を聞いて納得したような表情を浮かべた。ミクはその顔を見ながら、満足した表情になり、少しの間、会話が途切れた。
 沈黙を破ったのは、今度はオサムだった。
 さっきまではミクの話を納得しながら聞いていたが、今度はオサム自身が疑問に感じていることであったり、人に確認してみたいと思っていたことがあったことで、今が確認するその時だと思ったのだ。
 オサムはさっきまでと違い、少し無表情になり、淡々と話し始めた。
 ミクはその顔を、神妙な表情で見つめている。あどけなさの残る顔にその表情は、怯えとは違った新鮮な感じを受けた。
「夢の共有と言っても、別にどこかに二人が共有する部屋のようなものがあって、そこで同じ夢を見ているというわけではないんですよね。やはり、夢は最初にどちらかが見ていて、そこに引き寄せられるように入り込んでいくものなんだと思っています」
「私は、最初そうだと思っていて、途中で疑問に思いました。共有という意識が頭の中にあったからですが、お互いに別の場所に行くというのは、一から作り直すことになるので、考えにくいと思ったんですよね」
「でも、誰かの夢に入り込んだとしても、一から夢を作り直すという発想は、僕の中にあったんですよ。途中まで夢を見ていたとしても、相手が入ってきた瞬間に、一度最初にリセットされる。元に戻るという発想ですね」
「それって、同じ日を繰り返しているという発想に繋がりませんか?」
 いきなり奇抜な発想だが、オサムにとって、奇抜ではありながら、自然な気がした。
 実はオサムが同じ日を繰り返しているという発想を思い浮かべたのは、この時だった。その後に、ツトムから言われたのだが、ショックを感じなかったのは、前兆とは別に、ミクの言葉があったからだ。
 夢の共有と、同じ日を繰り返しているという発想が、まさか交差することになろうとは、オサムはまったく考えていなかった。
 夢の共有にしても、同じ日を繰り返すことにしても、どちらも単独で小説のネタにしたことがあった。ただ、夢の共有に関してはテーマを絞りきることができなかったのか、最後は尻切れトンボで、完成には至らなかった。それでも発想だけは頭の中に残っていた。同じ日を繰り返しているという小説は曲がりなりにも書くことができたが、決して満足のいくモノではなかった。
――書きたいと思うことの半分も書けなかった――
 というのが本音で、今から思えば、書きたいことがどんなことだったのかということを思い出すのも困難だった。
 ただ、その時に書いていた小説の集大成が出来上がり、自分なりに納得の行く作品として投稿したものが何ら評価を受けなかったのがショックではあったが、今ではそれもいい思い出となっていた。
――もし、それなりに評価を受けていたら、小説家になっていただろうか?
 と考えたが、プロになれるだけの資質が自分にないことは、本人が一番よく分かっている。
――それに小説家になれば、本作よりも次作、さらにその次と、どんどんいいものを書いて行かなければいけない宿命にある――
 そんなプレッシャーに打ち勝てるだけの自信はなかった。アマチュアとして楽しく書いているのが、性に合っている。そう思っていたはずなのに、なぜ急に小説を書くのを止めたのか、その時の心境を今となっては思い出すことができなかった。
――自分の書いた話が現実になったのかな?
 もし、そうであれば、書いていくことに恐怖を感じたとしても仕方のないことだ。そのことも、小説を書いている時に想定していなかったわけではない。考えてみれば、小説を書いている時というのは、結構いろいろなことを考えていたものだった。
 書かなくなると、今度はスッパリと書いていた時のことを忘れてしまう。そして書きたいとも思わなくなる。
――あの時期は一体何だったのだろう?
 と感じる。
 ただ、覚えているのは、
――書いている時は、違う時間が動いていたんだ――
 という感覚である。
 まったく違った次元が存在し、その中でどんどん先に行くほど発想が豊かになっていく。小説を書いているということは、違う次元に入り込み、気が付けば書いていた時間を飛び越え、あっという間にそれだけの時間が過ぎていることだった。
――知らず知らずのうちに小説が出来上がっていた――
 そんな心境になる時間が存在する。
――タイムスリップした時って、こんな心境なのかも知れないな――
 だからこそ、小説のアイデアにはいつも時間の感覚が裏に潜んでいる。同じ日を繰り返すのも、毎日を繰り返すのも同じことで、時間の感覚が広げた発想であった。
 ミクの頭の中にある、
――他の人が夢に入ってきた時、それまで見ていた夢がリセットされる――
 という発想だが、オサムの中にも前からあったものであった。しかし、
――リセットされた元々の夢はどこに行ってしまうのだろう?
 と考えた時、夢の共有にはデメリットしか感じられないという思いから、どうしても、夢の共有を自分から認めることができなかった。想像はしても、認めることのできない発想は、それ以外にもたくさんあるのかも知れない。
 ミクとそんな話をしていると、喫茶「イリュージョン」に珍しい客が訪れた。実際には珍しいというわけではなく、彼は彼で店には来ていた。ただ、オサムとはいつもニアミスを繰り返し、ほとんど会ったことがなかったのだ。
「お久しぶりです。横溝さん」
作品名:同じ日を繰り返す人々 作家名:森本晃次