同じ日を繰り返す人々
「でも、人の心を読むなんて、そう簡単にできることではないですよね。それをできると思うというのは、それだけ、全体を見渡すことができるようになったからではないかと思うようになったんではないですか?」
「その通りだと思う。超能力というものは、本当は誰もが持っていて、それを使いきれていないということを聞いたことがあったな」
「僕もあります。人間は自分の能力の十パーセントほどしか表に出せず、使いきれていないということらしいんですが、そういう意味でいけば、持っているのだから、使いこなせる人がいたとしても、それは別に不思議なことではないですよね」
「そうだね。超能力と言われる部分は、その人それぞれの潜在能力のようなものだと思うんだよ。それは意識と同じであって、意識にも潜在意識というものがあり、それを本当の意識に置き換えないと活用することができない。潜在能力も、発揮できる場所に置き換えることで意識もできるし活用もできる。超能力を使うということはそういうことではないのかな?」
「じゃあ、ツトムさんは、超能力者というのはいると思っているんですか?」
「超能力者というのは、人間皆そうなんだよ。それを使いこなせるかどうかで変わってくる。つまりは、いかに潜在能力を意識することができて、それを能力として活用できるところに持ってこれるかということに掛かっているということだね」
何か、少しだけ話が脱線しているような気がして、思わず苦笑いをしたオサムだったが、それを見たツトムは、
「話が少し逸れたみたいだけど、実はそうじゃない。他の人にはできない特別なことを、超能力のように思っていることも、実は潜在能力だと考えれば、理解できなかったことも理解できるようになるという意味では、横道に話が逸れたというわけではない。こうやって一つのことを話題にして話していると、お互いに違うところを考えているようでも、次第に感覚は近づいてくる。相手の姿が見えてくるとでもいうべきなのかな?」
そう言って、屈託のない笑顔を見せるツトムに対し、
――やっぱり僕の考えていることなんて、この人にとっては、手に取るように分かることなのかも知れない――
と感じていた。
オサムはツトムと再会したことで、何が自分の中で進んでいないのか分かるような気がした。それが、前に進むことのできないツトムからだというのも、何か皮肉めいたものを感じたのだ。
「僕に不思議な力が備わっているとすれば、何なんでしょうね?」
と独り言のように呟いてみた。
最初は考えていたツトムだったが、
「考えられることとすれば……」
とおもむろに口を開くと、
「何かありますか?」
オサムも興味を持った。だが、オサムはツトムが何かを言おうとした時、何を言おうとしているのか、予感めいたものを感じた。すると、今度はツトムがニッコリとしながら、まるで勝ち誇ったかのように、
「やっぱり思った通りだ」
と言った。
「どういうことですか?」
と聞いてみると、
「君には前兆のようなものがあると分かった時に、気付いてもよかったんじゃないかな?」
「ん?」
「だって、君は俺が考えられることを言おうとした時、俺が何を言おうか分かったんじゃないかな? それは、俺が言おうとしたものというよりも、自分の中に何があるかということだよ。僕はそれを見て、君が思っていることと、俺が感じていることが同じで、それが真実だということを確信した気がするんだ」
「じゃあ、僕に特殊能力が備わっているとすれば、それは予知能力ということになるんですね」
「そうだと思う。前兆は自分が感じている予知が、形になって現れている証拠なのだが、君自身は、予知できることを表に出したくないという思いがあって、本人にすら自覚させないようにしていたんだろうね」
「予知能力と言っても、ツトムさんのいうように、僕には自覚症状がありません。だからどのようにリアクションしていいのか分からないんですが、予知能力にも力のレベルのようなものがあると思うんです。僕の場合は、まだまだだと思うんですが、どうなんでしょうね」
「予知能力には、段階というものは存在しないと僕は思っていたんだけど、でも、君の場合は特別なのかも知れないね。確かに君が感じているような予知能力の段階を感じることができるんだ。しかも、君には前兆という最初の段階があった。その時には自分の能力を知らなかった」
「そうなんですよ。僕は予知能力と、何かの前兆を感じるということは、別物だと思っていたんです。何かの前兆を感じることができるすべての人に予知能力が備わっているとは思えなかったからですね」
「予知能力が君のいうように前兆とは別のものだとすれば、前兆を感じることができる人は、霊感が強いと言えるのかも知れない。本人の意識の外で起こる前兆というのは、ひょっとすると、彼を守っている守護霊の力によるものなのかも知れないからね」
オサムはその話を聞いて意外に感じられた。
ツトムという人は冷静沈着な人で、霊感や守護霊のような、曖昧な力を信じたりはしない人だと思っていたからだ。
確かに、彼の話にも一理ある気がしたが、オサムは自分が実際に感じた前兆に、霊感や守護霊のようなものを感じることはできなかった。
それは自分が信じていないということの証のようなものであり、そもそもあまり霊感めいたものを信じるようなことはなかった。
だからといって、現実主義に凝り固まっているというわけではない。超常現象が起こったとしても、それを頭から否定することはしない。しかし、最初から霊感で片づけてしまうことはなく、理論的に考えて、それでも自分に納得ができないことが生じた時、初めて霊感のようなものを感じるようにしていた。霊感や予知能力をまったく信じないというわけではないところが、逆に最初に理論的に考えることができる証拠なのかも知れない。
「確かに、なかなかすぐには理解できない難しい話ではあると思いますが、まずは理論的に考えてみたいと思います」
「それがいいのかも知れない。でも、俺は今君に対して感じていることを言わせてもらうと、君が前兆を感じた時、君のそばに前兆を知らせる誰かがいたのではないかと思っているんだよ。実は同じ日を繰り返している人で、俺が知っている人の中に、同じように前兆を感じたという人がいて、その人がいうには、『俺は前兆を感じた時、そばにいた人に前兆を教えられた気がしたんだ。もちろん、言葉で言われたわけではないんだけどね』と話していたんだよ」
「そういえば、僕はツトムさんのことを何も知らなかったような気がするんですけど、この機会に教えていただけると嬉しいですね」
同じ常連としても、さほど話をしたことはなかった。元々、ツトムはオサムにだけではなく、あまり他の人と話をしているところを見たことがないほど、いつも静かだった。それは、まるで気配を消して見えるほど、目立たない方だったのだ。
作品名:同じ日を繰り返す人々 作家名:森本晃次