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同じ日を繰り返す人々

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「そうなんですね。いろいろな制約があったり、決まりごとのようなものがあるようですね」
 と少し皮肉を込めていうと、
「そうだな」
 と、ツトムは苦笑いを浮かべていた。
「それにしても、ツトムさんはそういう決まりについては、いろいろとご存じなんですか?」
「いえいえ、そんなことはない。俺にも分からないところがいっぱいあるんですよ。でも、同じ日を繰り返していると半分は意識の中だから、慣れてくる中で、自然に分かってくることも多いんだ」
 ツトムは続けた。
「ただ一ついうと、前兆状態にあるということは、オサムくんは、誰かに影響を受けて、同じ日を繰り返しているという前兆に入り込んだと思うんだよ。この場合の同じ日を繰り返している前兆というのは、決して自分一人だけで成し遂げられることではないからね」
「そうなんですか? 私にはピンときません」
 と言いながら、思い返してみた。
 確かに今まで思い返したことがなかったから、考えたこともなかったわけで、想像していないのだから、分かるはずもない。改まって考えてみると、誰かの影響を受けたと言われれば、
――その通りなのかも知れない――
 と、かなりの高さで信憑性を感じるのだった。
 ツトムの話を聞いているふりをしながら、思い返してみた。だが、聞いているふりなどというのは、元々オサムには無理なことだった。一つのことに集中すれば、他のことが疎かになるオサムに、話を聞きながら考え事などできるはずはない。もしできるとすれば、もう一人の自分の存在を考えることになるだろう。
 オサムが考え事をしているのに、おかまいなしにツトムは話している。ということは、やはりオサムにはもう一人の自分がいて、その人がツトムの話を聞いているのだろう。ただ、オサムはツトムの話を聞いていないようで、頭の中に入っているように思えていたので、やはりもう一人の自分は本当にいるのかも知れない。
 一つのことに集中する人には、もう一人、見えない自分がいるのかも知れない。オサムは同じように一つのことに集中するとまわりが見えなくなる人を知っているが、そんな人には、もう一人の自分の存在を感じずにはいられなかった。それも、分かるのはオサムのように同じような性格の人間にしか見えない存在なのかも知れないと感じていた。
 ツトムはそんなオサムにはお構いなしだった。普段から冷静沈着で、まわりのことが見えていると思って、そんな彼を尊敬していたが、こうやって考えてみると、当たり前なところもある。
 ただ、ツトムに対して感じた尊敬の念が色褪せることはない。同じ日を繰り返しているという他の人にはない「リスク」を背負いながら感じることなので、自分ならパニックになるかも知れないと思うことを冷静に受け止めているツトムに尊敬の念は当然のことだった。
 ツトムは、冷静沈着であるが、たまにいきなりキレることがある。
――どうしてこんな大したことのないようなことでキレなければいけないんだ?
 と思うようなことにキレるのである。
――どうかしている――
 と思っていたが、それも他の人の経験していないことに直面しているのだから、普通に毎日を刻みながら生きている人から見れば、キレたくなるのも無理もないことなのだろう。
 しかし、オサムはツトムの立場に近い将来入り込む前兆にいるという。回避できるものなら回避したいと思うのは当然のことである。だが、それを聞いてみるのも怖い気がして、なかなか話の核心に入り込むことができなくなっていた。
 ツトムもそのことには敢えて触れようとしない。それだけでも回避は不可能に思えた。
 いや、本当は前兆の時に分かっていれば回避できたのかも知れない。ツトムがこのことを知ったのは、すでに回避できない状態に入りこんでからだったのだとすれば、オサムにみすみすこの世界から抜けられる方法を教えることはないだろう。
――一人でも仲間がほしいと思うはずだ――
 他にも数人はいるという話だったが、ツトムはその人たち皆と連絡を取り合っているのだろうか? もし取り合っているのだとすれば、どんな話をしているのだろう? ひょっとすると、元に戻ることができる方法を算段しているのかも知れない。
「ツトムさんは、同じ日を繰り返している人を、たくさん知っているんですか?」
「数人は知っているけど、それが全員なのか、それとも氷山の一角なのか分からない。他の人に紛れてしまえば、直接話を聞かない限り、その人が同じ日を繰り返しているとは分からないからね。もちろん、中には表に曝け出している人もいる。完全に怯えの中で暮らしている人だね。でも、そんな怯えというのは、前回の同じ日と寸分狂っていないわけではないということはすぐに分かるんだよ。よほど意識して毎日を変えない限り、同じ日を繰り返している人は、やっぱり他の人と見分けが付かないほど似かよっているものなのさ」
 と、ツトムは言うが、
――そんなものなのかな?
 と、オサムは、半信半疑だった。
「君は、自分が同じ日を繰り返しているという予感めいたものを感じたのは、誰かの影響があるって言ったね」
 オサムは、一瞬ハッとした。話の展開から、自分がそのことを話したという意識がなかったからだ。ひょっとすると、無意識のうちに口走っていたのかも知れない。
 ツトムは続ける。
「君は、僕が自分のことを見抜かれているようで、気持ち悪いと思っているかも知れないけど、俺は同じ日を何度も繰り返すことで、他の連中よりも、一つのことには長けてきているような気がする。それが、気になっている人の行動パターンが分かることなんだ」
「同じ日を繰り返しているからですか?」
「そうだね」
「だったら、同じ日を繰り返している人というのは、誰もが何かしらの力を持っているということになるんですか?」
「俺たちは、少なくとも先に進めないという『弱さ』を持っている。この弱さというのは、自分が強い弱いというよりも、運命に制限されたことで、欠点に近いものなのかも知れないけど、俺はここで敢えて「弱さ」という言葉を使いたいんだ。そんな弱さを持った俺たちなので、何か一つでも他の人にはない特筆すべきものがなければ、他の人とのバランスが失われるような気がするんだ」
「普通、弱さというのは、まわりに影響されることというよりも、むしろ自分の内なる部分が影響しているように思えるんですけど、どうなんですか?」
「その通りなんだよ。俺が敢えて欠点という言葉ではなく弱さだと言ったのは、そのためなんだけど、欠点というと、自分の内から見ることよりも、まわりから見ることの方が強い気がする」
「同じ日を繰り返しているというのは、それぞれの人に力を付けるんだと思うんですけど、ツトムさんは、人の心を読むことに長けてきたということなんですね?」
「人の心を読むということは、実際に読めるようになると、誰にでもできることではないかって思えてきたんだ。普通の人はそんなことなかなか難しいと思っているだろう? だから俺は余計に、今までどうしてできなかったのかということを思うようになって、そのことも含めて、今まで見えていなかったものが見えてきた気がしたんだ」
作品名:同じ日を繰り返す人々 作家名:森本晃次