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記憶が意識を操作する

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 という思いが働いているからなのか、それとも彼女自身が、
――相手の悲しむ姿を見たくない――
 という思いからなのか、どちらにしても、最初に感じた、
――じれったさとくすぐったさ――
 そのうちのじれったさを、今さらながらに感じることになるなど、想像もしていなかった。
 ただ、このじれったさが、異性に対して感じた最初だったということを思い出すのは、実に皮肉なことであった。じれったさというのが、
――自分の想いが伝わらない――
 ということだけではなく、本当は伝わっているのに、伝わりすぎているくらいであることが分かっている時、じれったさを感じるのかも知れない。伝わったかどうかという思いは、意識しては感じることができない。あくまでも無意識に感じたことを、後から意識として追いかける方が、本当に相手に伝わることになるのではないかと思うのだった。
 そんな時に思い出したのが、自分の家族のことだった。いつも体裁ばかりを考えて、人のことを考えようとはしていないと思っていた。それもじれったさを感じさせるものだった。
 同じじれったさでも、相手のことを考えてのことなのか、体裁ばかりを繕って、相手にじれったさを味あわせるのかで、まったく違った印象を与えてしまう。
 しかし、結果は同じことになるというのは、どういうことなのだろう? 結果が同じであれば、相手に対しての思いに、どう差別化させればいいというのだろう?
 ただ、お互いに気持ちが伝わったか、それとも伝わっていないかということが重要なことであり、そう思うと、目の前から消えたとはいえ、みのりと木村さんを、どうしても憎む気にはなれなかった。
「どこかで元気でいてくれさえすれば、それでいい」
 と思ってしばらくは相変わらず、平凡な日々を過ごしていた。
 中学に入ってからも、成長期でありながら、毎日が平凡にすぎていった。まわりの連中に乗り遅れたという自覚は十分にあったが、別に乗り遅れたことで、自分に劣等感を感じるようなことはなかった。
 小学生の頃を、毎日あまりいろいろ考えずに過ごしてきたが、中学に入ると、
――何もなくても、何もないなりに、これから起こる何かに対し、期待している自分がいる――
 と、感じていた。
 平凡にすぎていくことに対し、焦りはなかったが、自分の期待していることがどんなことなのか、ハッキリと見えてこないことが不思議だった。
 中学二年生になった頃だっただろうか。その頃まで使っていたカバンが急に壊れたことがあった。
 最初は誰かの悪戯ではないかと思ったが、それにしては、悪質ではないか。ショルダーバッグのプラスチックの部分が、真っ二つに折れていた。確かに重たいものを持つことが多かったのだが、こんな折れ方をするなど、考えられなかったのだ。
 翌朝目を覚ますと、何か胸騒ぎのようなものがあった。
 まっすぐに前を向いて歩いているのに、近づいてくるはずの目的の場所が、歩けば歩くほど遠くなっているような気がして、目を覚ましたのだということを意識していた。
――夢を見たのかな?
 夢は目が覚めるにしたがって忘れていくものだというが、まさしくその通りだった。
 夢に出てきたのが、どこだったのか、意識がうっすらとしていた時は覚えていたはずだった。それなのに、
――あれは夢だったんだ――
 と、起きてしまったからこそ感じる「夢」だということを意識した瞬間、それがどこなのか、永遠に分からなくなってしまった。
 夢の中だとはいえ、初め見る光景ではなかったように思う。実際に夢ではない現実で見た光景だったのか、それとも、夢の中で見た光景をさらに夢で思い出したということで、
それはまるで、
――夢の続きを見ているようだった――
 と思わせるほどのものだった。
 しかし、
――夢の続きなど見ることはできないのだ――
 と思っている中西には、少年時代から今に至るまでの自分の意識の中を引っ張り出さなければ思い出すことはできないものだと思った。
 普段であれば、すぐに諦めたに違いない。しかし、昨日のカバンが壊れたということを思い出したことで、
――このまま思い出さないのは、気持ち悪い気がする――
 と、感じた。
 すると、いつのことだったか、虫の知らせを感じたような気がした。
――そうだ、あの時だ――
 あれは、みのりと木村さんが自分の目の前からいなくなる前のことだった。前の日だったのかも知れないが、今ではハッキリとはしない。二人がいなくなるような予感があったということを、後になって思い出した。それは、その時、
――前に見た夢の景色を、以前どこかで見たような気がする――
 という思いにさせられたからだった。
 中学の時に、カバンが壊れたのを「虫の知らせ」だと感じた時、思い出したのが、みのりと木村さんが住んでいた屋敷の奥にあった古井戸から、一人の男性が殺されているのが発見されるという夢だった。
 どうしてそんな夢を見たのかというと、その前の日に、誰もいなくなった屋敷を探検すると言って、数人の冒険心豊かな連中が古井戸を中心にいろいろ探検していた。中西は行かなかったが、その時に、一人の友達が行方不明になっていた。家に帰っているのかと思い、家まで行ってみたが、まだ帰ってきていないということで、その夜は、皆で探したが見つからず、翌日の夜になって、捜索願を出そうかと言っていた時、まるでそのタイミングを狙ったかのように、行方をくらましていた少年がフラッと帰ってきた。
「どこに行っていたの?」
 と聞かれても、
「ものすごく疲れた」
 というだけで、そのまま爆睡してしまった。その状態で話を聞くわけにもいかず、結局その日は何も聞けないまま一夜が明けたが、次の日に、当然のごとく親からいろいろ聞かれたが、本人曰く、
「何も覚えていない」
 というだけだった。
 医者に見せたが、
「これは一時的な記憶喪失ですな」
 ということで、それ以上、聞きただすことはできなかった。本人が自然に思い出すまで待つしかないということで、結局思い出さないまま、時間だけが過ぎていった。
 中西が、誰かが殺された夢を見たのは、友達が行方不明になる前の日だったのである。まさしく「虫の知らせ」を感じさせた。だが、それが本当に「虫の知らせ」だったのか分からない、いくら友達とはいえ、それほど仲が良かった連中ではない。どちらかというと仲が悪い方だっただけに、自分でも不思議だった。
 しいていえば、
――自分の思い出の場所を土足で踏みにじられた――
 という意味で、中西にとって、友達を恨んでいたのは事実だった。
――恨みの思いが、殺人事件という陰惨な事件を思わせるような夢に繋がったのではないだろうか?
 と、考えたとしても無理もないことだった。
 そんな印象的な意識も、大人になるにつれて、次第に忘れていった。
――いや、忘れなければいけないことだったんだ――
 という思いもあり、子供の頃の記憶で、忘れてしまってもいいことと、忘れたくないことの二つだけではなく、忘れてしまいたくても忘れられなかったり、忘れたくないと思っても忘れてしまっていることもあることを悟った。特に忘れたくないことを忘れてしまっているのではないかと思うことは、
作品名:記憶が意識を操作する 作家名:森本晃次