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記憶が意識を操作する

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 夢というものは、それだけ現実社会とは一線を画しているものなのだが、その影響力の強さは、ハンパではないのだろう。
 みのりと木村さんの夢を見ることが多くなったのが、自分に子供ができてからというのも何かの縁ではないだろうか? この思いが、
――当たらずとも遠からじ――
 だと感じるのも、さほど遠い未来ではないということを、中西はかなり経ってから知ることになるのだが、その前に試練が待っていることを、その時の中西に、分かるはずもなかったのだ……。

                 第三章 「海」と「空」

 中西は、ゆかりが生まれてから、梨乃と会うことを控えていた。梨乃も中西の気持ちが分かるので、自分から身を引こうと考えていた。二人の関係はゆかりが生まれたことで、終わるはずだったのだ。
 しかし、世の中とは本人たちの意向でどうにでもなるだけのことではないようだ。お互いの気持ちとは裏腹に、事態が進行していくこともあったりする。
 中西は、そのことを分かっていたはずだった。梨乃が分かっていたかどうかは別にして、中西の中に、
――嫌な予感――
 のようなものがあったのも事実だった。
 しかし、涼子の入院中の二人は、完全に燃え上がっていた。中西は自分に妻がいることを忘れるくらいに自分の立場を見紛っていた。それは梨乃が今までに出会った女性の中にはいないタイプの女性だったということが一番である。面影としてはみのりを思わせるところがあったが、自分の初恋がみのりだったという思いからか、好きになった女性を、
――みのりのイメージを感じた――
 という理由づけをすることが、正当な理由だと思っていた。そうでなければ、自分を納得させることができない。特に梨乃とは、誰が何と言おうとも、浮気に違いないのだ。自分を納得させることが不可欠だった。
 梨乃とはいつも人目を憚るように会っていた。中西にも梨乃にも、その思いは新鮮なドキドキ感があった。背徳感というより、新鮮な気持ちは、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のような心境だった。
「私、今まで普通の恋愛をしたことがないんです」
 と、梨乃が恥かしそうに言った。
「どういうことなんだい?」
「いつも、相手が強引に言い寄ってきて、いつの間にか、相手に強要されるような形でお付き合いが始まるんです。中西さんのような紳士なお方は、私には珍しく、もったいない気がします」
「そんなことはないよ」
 と、頭を掻きながら、照れ隠しをしていた中西だったが、それを見ながら実はほくそ笑んでいた梨乃に気付かなかったのは迂闊だった。
 いや、それは中西だけに限ったことではない。誰であっても、同じような状況に持ち込まれると、同じ心境になるだろう。しかも、相手は控えめな性格に見える梨乃なのだ。
――男冥利に尽きる――
 という言葉は、こういう時に使うのだろう。
 梨乃を相手のセックスでは、話とは裏腹に、強引でないと物足りないところが見えていた。本当はその時に気付かなければいけなかったのに、男というものは、どうしても一途になると、最初に信じた自分の感情を貫こうとする。
――梨乃の性癖は、今までの自分の男運のなさの反動が、そうさせるに違いない――
 と思わせた。
 梨乃のように控えめな態度を取る女性に対しては、どうしても、贔屓目に見てしまい、最初からこちらが下にいなければいけないような錯覚に陥らせるのだ。一旦自分が上に行ってしまうと、梨乃に対して高圧的な態度に出てしまいそうで怖かった。せっかく梨乃が最初に、自分のことを紳士的だと評してくれたのだ。自分からその期待を裏切るようなことをするというのは、愚の骨頂に違いない。
「恭三さんは、自分で納得しないと、なかなか行動に移さない人なんですね」
 と、梨乃から言われてビックリした。
 子供の頃から、その思いは変わっていないが、大人になるにつれて、その感情を表に出すこともなくなり、人から見て、気付かれることはないと思っていた。それなのに、最近知り合ったばかりの梨乃に、ここまで簡単に看破されるなど、想像もしていなかったことだった。
「どうしてそう思うんだい?」
「恭三さんとは、前から知り合いだったような気がするからかしら?」
 と、言って微笑んだ。
「それは僕も感じていたような気がする」
 というと、梨乃はさらにニコニコし、まるでしてやったりの表情になったが、怪しく歪んだ唇に、中西自身すでに惑わされていることに気付かなかった。
――これが梨乃の常套手段――
 自分と同じ考えを示してくれたと思っている相手に対し、その時に疑いを感じるなど、万が一にもありえるはずはないのだ。そこで疑いを感じるなど、どれほど相手に対して失礼になるかということを、中西は分かっているつもりだった。しかし、この場面で分かっているということは、自分に対してのアダになるのだった。
 梨乃と一緒にいる時、驚かされることが多かった。
 一つは、自分の考えていることを、ズバリと看過されることだった。
「恭三さんは、自分で納得しないと、なかなか行動に移さない人なんですね」
 というセリフを言われた時に、すぐに気が付いたが、さらに驚かされたのは、中西自身で気付いてはいないが、意識としては持っているようなことを看過されたことだった。
「恭三さん、私に誰か他の女性を被らせて見ているんじゃないの?」
 みのりのイメージがしたと思ったのをすぐに打ち消した中西だったが、それを看過されるような意識を、自分では持っていなかったはずである。それなのに、どうして梨乃がそんな言葉を吐いたのか、梨乃のイメージは今まで知っている中での女性にはいなかったはずである。
――ひょっとして、カマを掛けられているのかな?
 とも感じた。
 中西の態度や表情で、何を考えているのか探っているのではないかと思うと、迂闊にうろたえることは避けた方がよかった。
 それにしても、最初に感じた梨乃に対しての感情、
――控えめな性格の女性だ――
 という思いは、少なくとも修正しないといけないだろう。
 また、梨乃に驚かされたこととして、梨乃は自分の過去を隠そうとはしなかった。今までに付き合った男性との話もしてくれた。話の様子では、三人の男性と今までに付き合ったことがあるようだ。
「一番印象に残ったのは、最後に付き合った男性だったわ」
 その頃にはすでに梨乃とは深い関係になりつつあった。まだ、これからも関係が深まっていく段階にあることを示唆するような会話も今までにあったし、梨乃が今まで付き合っていた男性のことを隠そうともせずに話すのは、
――梨乃の性格というのもあるだろうが、俺に対しての想いがあるからに違いない――
 と感じていた。
「どうして、僕にそんな話をしてくれるんだい?」
 と聞いてみると、
「最後に付き合った男性は、最低なところもあったんだけど、どこか忘れられないところもあったの。最低なところが目立ったので別れることになったんだけど、恭三さんが、彼の忘れられないところと似たものを持っているのよね。だから私は、恭三さんに惹かれたのだし、こうやって過去のことをあなたになら話せると思ったの」
作品名:記憶が意識を操作する 作家名:森本晃次