小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

記憶が意識を操作する

INDEX|19ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

――それがいつのことなのか、本当は分かっているのではないか?
 と、中西は感じていた。
 それは、自分も同じような思いをしたことに気が付いたからだった。
 中西は、中学に入学する前くらいまでは、眩暈を起こしたり、嘔吐したりすることなどは、絶対にありえないような子だった。それなのに、中学に入ってから、急に嘔吐を催すようになったのは、自分でも不思議だった。
 それがどうして不思議だったのか、すぐには分からなかった。だが、分かってみると当たり前のことであり、嘔吐を催したり、吐き気を起こしたりすることのない男の子だったということが、「作られた性格」だったというのが分かると、
――それはいつからのことなのだろう?
 と考えるようになった。
 しかし、そこまで考えてくると、後は、みのりと会っていたあの頃しか考えられない。
 あの頃は、まるで毎日が夢のような時間であり、眩暈を起こしたとしても、気分が悪いわけではない。ただ、結構きつく自分にのしかかってくるので、その意識が薄れてきたのは、自分の中で、意識として襲い掛かってくることを恐れたからだ。
――子供の頃の涼子は、意外と自分と同じようなことを経験しているのかも知れないな――
 性格がそれほど似ているわけではないと思っている自分と涼子のことなので、同じような症状が現れるのだとすれば、
――結構近い環境に身を置いていた――
 という風にも考えられると思った。
 中西が最近、気分が悪くなったり眩暈を起こすようになったのは、
――このことを悟らせるためだったのではないか?
 と感じたのは、思い過ごしだったと思うのは考えすぎだろうか?
 中西は、自分が眩暈を起こすようになった原因を、
――みのりが不治の病に罹っていた――
 という話を聞かされてからのことだったのを思い出していた。
 もし、眩暈の原因をその時に気付かなければ、気付くことができる瞬間をみすみす逃すことになり、そのまま気付くこともなく、ずっと疑問に感じたまま、
――それからの人生を生きていくのではないか?
 と思うに違いなかった。
 中西は時々、
――自分の記憶が、誰かによって細工されている――
 と感じる時があった。
 そんな時に、
――眩暈を起こしたり、気絶したりすることが中学の頃多かったが、その時、自分で感じているよりも、実際にはあまり時間が経っていない――
 と、感じることが多かった。
 それは眩暈や立ちくらみに陥っても、自分の意識はしっかりしていることが不思議に思えることと、いつの間に意識が飛んでしまったのかが分からないくらい、気が付いた時、ほとんど時間が経っていないことから感じることだったのだ。
――眩暈を起こしている間、本当に何も考えていないのだろうか?
 中西は、最近そのことを気にしている。
 眩暈を時々起こすことで、
――何か悪い病気なのではないか?
 と思ったが、ちょうど家庭内でのごたごたが進展している時だったので、家族にそんな話ができるわけはないと思い、自重していた。そのことを誰にも知られないまま、家庭が落ち着いてくると、自然と中西の眩暈もなくなってきた。
――精神的なものだったのかも知れないな――
 家庭内のごたごたが、自分の知らないところでストレスになってしまっていたのだと思うと、中西は気にはなっていたが、自分を納得させるだけの十分な答えだと思い、それ以上深く考えることはなかった。
 だが、今までの眩暈というものが、
――自分の中にあるものから生まれるものではない――
 などということをまったく気が付かずにいた中西は、ある一瞬を逃してしまうと、そのことに一生気付かぬままになってしまうと思っていた。
 もっともそのことは中西だけに言えることではなく、他の人皆に言えることではないかと思っている。
 だが、中西の場合は、他の人と違っている。眩暈を起こすことが自分の病気を示唆しているわけではないことを悟っているのだ。
――何かの力が働いているのかも知れない――
 と思うと、
――他の人皆に言えることではないか?
 という考えは、矛盾している。やはり、眩暈を起こすこと自体、他の人と違うわけで、眩暈の原因も、普通に考えていたのでは、その理由は分からないと思うようになった。
 学生時代に時々眩暈を起こしていた時は、自分が何かの病気なのではないかと思っていたが、さほど深くは考えなかった。病院に行っても、
「どこも悪いところはありませんね。気にしすぎではないですか?」
 と言われる程度だった。
 小さな町医者だったので、大きな大学病院のようなところで見てもらおうかとも思ったが、どちらにしても紹介状が必要になる。町医者に話しても、嫌な顔をされるだけだ。眩暈の回数も、そこまで頻繁ではなかったので、そこまで切羽詰っているわけではない。そう思うと、考えること自体がバカバカしくなってきた。
 そのうちに眩暈の回数もグンと減って来て、ほとんど気にならないようになってきた。
――やっぱり、あの町医者の言うように、気にしすぎだったのかな?
 と、思った。
 それならそれでいいのだが、どこか釈然としない思いが残っていて、子供ができたと聞いてから、忘れていた眩暈を時々起こすようになり、その時のことが思い出された。
 少し様子を見ようと思っていると、今度も自然と眩暈を起こすことが少なくなってきた。いよいよ子供が生まれるという時に、
――眩暈を起こすかも知れない――
 と思ったのだが、それは血の匂いを感じたからだ。
――そういえば、大学時代に眩暈を時々起こしていた時も、血の匂いを感じたことがあったような気がしたな――
 ということを思い出していた。
 眩暈と血の匂いの因果関係は、今までにも意識していたことだが、血の匂いを感じることを予知できたとすれば、それは子供が生まれた時だけだったかも知れない。
 しかし、予知できたとしても、それは分娩室という環境が、自分の意識の中にある何かを刺激したように思えた。それは、
――初めての子供なのに、分娩室の意識を生々しく感じる――
 つまりは、今までにも同じような感覚を味わったことがあるという意識である。
 それも、ずっと以前ではなく、生々しい意識がよみがえってくるくらいなので、近い過去だったことに間違いないようだ。
――分娩室と血の匂い――
 この二つは、中西の中にある意識と記憶を結びつけることに大きな意味を持っているように思えてならなかった。
 妻の涼子は、中西と付き合う前に、他に付き合っていた男性がいた。その男性は涼子とは幼馴染で、小学校からずっと一緒だったので、お互いにそれほど意識はしていなかったはずだ。
 二人が高校二年生の時、幼馴染の彼から、
「涼子、俺たち付き合ってるのかな?」
 と聞かれたことがあった。
「えっ? 私にはそんな意識はないわよ」
 という返事に、彼はキョトンとした表情を浮かべ、戸惑いを隠しながら、
「そうだったんだ。俺は付き合っているつもりでいたんだけどな」
 と、言われたが、彼がどうして戸惑う必要があるのか、涼子には分からなかった。
作品名:記憶が意識を操作する 作家名:森本晃次