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絶妙のタイミング

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 さらに人と会話が多ければ多いほど、ボロが出てしまうという思いもある。普段から潔癖症なところを表に出しているので、静かで大人しい雰囲気を醸し出さなければいけないと思っている。下手に人と会話すると大雑把な考えが露呈してしまい、いろいろな意味で誤解されてしまうのが嫌だった。
 孤独が、一人で寂しいというイメージと切り離して考えたいと思ったのも、そのためだった。
 彩名は、自分の二重人格に見える性格が本当は嫌いではない。二重人格というと、あまりいいイメージがないため、余計にまわりに気を遣ってしまう。
――まわりに気を遣うことが一番嫌いなくせに――
 自分のまわりにいる人にだけ気を遣ってしまうと、さらにまわりの人に迷惑を掛けるということを、彩名は学生の頃に知った。
 一番最初に感じたのが、喫茶店でのレジの時だったのだが、ちょうど彩名が友達と来ている時、自分たちよりも先におばさんたちの集団がレジを済ませようとしていたその時のことだったのだが、
「今日は私がお支払いしますわ」
「いいえ、私が……」
 と、まるで意地の張り合いのように、レシートを持って争っている。気を遣っているつもりのはずなのに、表情には笑顔はなく、必死さと、喧騒とした雰囲気が見て取れる。
――一体、何をしたいのかしら?
 呆れるばかりである。
 もちろん、おばさんたちは自分たちのことしか考えておらず、ウエイトレスの女性のことや、後ろで待っている人のことなど、まったく眼中にない様子だった。
――誰一人として、何も言わないなんて――
 普段は、いろいろなことを話すくせに、こういう大事な場面ではだんまりを決め込んでいる。
――まるで、会社の会議に出席した時の雰囲気と同じではないか――
 そう思うと、余計なことを口にすることが気持ち悪いと思うに違いない。
――人に気を遣っていることがこれほど醜いなんて――
 と思うようになると、
――醜いくらいなら、一人、孤独な方がいい――
 と思うようになる。
 自分で納得して孤独を選んだのだから、そこには寂しさはないだろうというのが彩名の考え方だった。だが、その考え方も意固地であることに違いなく、無理に自分を納得させようとしているのではないかと思うのだった。
――彼氏ができないのも、自分の孤独を納得させているからだ――
 と思うようになっていた。
 異性への興味は、ないわけではない。むしろ、思春期の頃には強い方だったと自覚している。その時、彩名は孤独というものに自分を納得させることができなかった。納得させることができなかったという思いがそのまま思春期のトラウマになっていた。
 だが、そんなトラウマを持っている彩名にも、彼氏ができた。その時の彼氏は、決して彩名のタイプというわけではなかった。だが、彼氏ができたことに有頂天になった彩名は、その時の彼氏を自分のタイプだと思いこんでしまったのだ。
 納得していなかったはずなのに、納得してしまったかのような感覚に陥ったのは、無理に自分を納得させたからだった。何を根拠に自分を納得させたのか、彩名には分からなかった。ただ、その時に感じたのは、
――やっぱり孤独は嫌だ――
 という思いではなかっただろうか。
 その頃から、孤独と寂しさを切り離して考えるようになっていた彩名だったが、その時だけは、
――寂しさは、孤独から生まれるものだ――
 と思っていたに違いない。
 だが、彩名が夢で一人の男性を見たという記憶が残っている今、彩名の中で、今一度、思春期に感じた、あの時の感覚がよみがえってきているかのようだった。彩名は、今度こそ、自分を納得させることができるであろうか?
 彩名の夢は、彼氏ができる予感を匂わせるものだった。どんな内容だったのかまでは覚えていないのだが、夢から覚めた時、いつも感じるのは、
――もっと夢の中にいたい――
 という思いだった。
 夢の中にいたいということは、少なからず、自分の中に「現実逃避」が潜んでいるような気がする。普段から潜在意識の中にあるものなのだが、それを表に出すことを決してしてはいけないという思いが自分の中にあるのだ。
 彩名は、夢の中に自分の意識を隠そうとしている気持ちがあるのではないかという感覚を覚えることがあった。
――夢とは潜在意識が見せるもの――
 という思いが常にあるからで、夢が現実に繋がるというよりも、現実ではありえないようなことを夢の中で実現するという思いである。その思いの方が、発展性が強く、自分の中で普段は抑えている気持ちを夢の中であれば、開放して実現できるという思いが強いからだ。
 夢の中にいる彼は、彩名のことを一番分かっていてくれる。それは性格が似ているからではなく、似ているところはあるが、決して交わることのない平行線のような性格だからだ。だからこそ、一定の距離で見ることができ、一番相手は理解しやすいのだ。
 しかし、これが現実の世界であれば、交わることのない平行線が相手に自分のことを分からせるに至ることはない。一定の距離から近づくことができないのは、どちらかが、あるいは、お互いに結界のようなものを作っているからなのだろう。
 彩名は、自分には結界などないと思っているが、他の人から見ると、
――これ以上、あの人に近づくことはできない――
 と、感じさせるものを持っているようだ。
 もっとも、それは彩名にも同じことが言える。
 他の人を理解しようとすると、必ずどこかで見えない壁にぶち当たってしまう。それが結界のようなものだとはすぐに気付くわけではなかったが、近づけないということは、そこに一定の距離があることは理解できる。
――自分から近づこうとしないからだわ――
 彩名は、自分でも分かっている。一定の距離を保ってしまった相手に対しては、自分から近づくことはしない。それは、人と協調することの意味を理解していないからだ。
「人って、一人では生きていけないものだ」
 という理屈は、誰もが意識していることであり、理解できなくても、認めてしまうという数少ない理屈ではないだろうか。彩名は、その理屈に疑問を感じていて、
――自分に納得できないことを、どうして皆認めてしまう気持ちになれるのだろう?
 と思えてならなかった。
 だから、彩名は自分を納得させようという気持ちを強く持っている。ただ、その気持ちが強すぎると、現実逃避に走ってしまうのだ。行きつく先は夢の中であり、夢の中であれば、自分の意識以上の何かを見つけることができると、信じている。それが自分を納得させられることであれば、最高なのだろう。
 夢の中には、
――以前にも同じようなものを見たことがあったような気がする――
 というデジャブのような現象が潜んでいる。
 現実世界では、デジャブというと、
――そういうこともあるかも知れない――
 と思いながらも、そのほとんどを信じていない。しかし、夢の世界であれば十分にありえることだ。なぜなら、
――夢というのは、目が覚めるにしたがって、忘れていくものだ――
 という考えがあるからだ。
作品名:絶妙のタイミング 作家名:森本晃次