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絶妙のタイミング

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 また、中にはすごい経験をした友達もいて、
「小学生の頃、近所の高校生のお兄ちゃんに悪戯されたことがあった」
 と言っていた子もいた。
 彼女は、見た目おどけながらあけっぴろげに話をしているが、本当は悪戯されたことをトラウマに思っているに違いない。それを認めたくないという気持ちから、友達は敢えてまわりに話していたのだ。
 だが、彼女は一つだけ大きな勘違いをしていた。それは、
――こんな経験は、大なり小なり、誰にでもあることだ――
 という意識を持っていることだった。
「そんな経験、稀にしかないに決まっているじゃない」
 と、言いたいのは山々だったが、それを口にしてしまうと、友達を一人失うのは確実だが、そのために、まわりを敵に回す可能性もある。
「人のことは放っておけばいいのに」
 と、人の傷をほじくり返したように思われるのではないだろうか。それを思うと、彩名は、余計なことを口に出さないように心掛けていた。
 それは、今でこそ、余計なことを口にしなくなったが、子供の頃は、よく余計なことを言ってしまって、まわりからひんしゅくを買ったものだ。
 その都度まわりの雰囲気がおかしいのを見て、
――どうして、私がまた何か余計なことをしたのかしら?
 余計なことをしたことには気付いても、どんな余計なことなのかは、すぐには思いつかなかった。
 彩名は、特に相手が男の子であれば、あまり気を遣わなかったような気がする。男性のこともよく分からないのに、どういう気を遣うというのだろうか?
 夢を気にするようになったのは、「あいつ」が夢に出てきてからだった。
 その人が夢に出てきたのは、一度きりだったはずだ。知り合いでもない人が自分の夢の中に何度も出てきたのであれば、
――気にする――
 という程度で終わるということはない。
――何か自分に関係のある人を夢に見た――
 と感じ、予知夢ではなかったかと思うことだろう。
 予知夢というものの存在を、彩名は否定する気はない。ただ、予知夢を見ることができる人は限られた特定の人だけのものだという思いしかない。予知夢を一種の予知能力として考えているからだ。
 確かに、予知能力のような特殊能力は、人間なら誰でも持っているという話を聞いたことがあった。誰もが持っている潜在意識の中に含まれているのだが、それを表に出せるかどうかということは、その人それぞれで違っているのではないかと思うからだ。
 彩名は、夢の中に出てきたその人を、「あいつ」と自分の中で表現している。理由としては二つあるのだが、一つは、
「以前に見た夢の中で、その人が出てきたような気がした」
 というのと、もう一つは、
「自分の知っている人に、どこか似ているような気がする」
 というものだった。
 ただ、後者は最初それが誰だかどう考えても分からなかったが、一つ見方を変えて見てみると、
――なんだ――
 と感じる人だった。
 その人は、
――一番知っているはずなのに、一番気付きにくい人である――
 つまりは、自分自身だったのだ。相手は男性なので、外観や雰囲気が似ているというわけではない。性格的なものが似ているに他ならなかった。
 前者の、以前の夢がいつだったのかは分からないが、会ったことがあるような気がしたのは、やはり、前に夢で見た相手だと思うと、かなりの確率で、信憑性があった。思い出そうとすればするほど思い出せそうな気がするのだが、ある程度のところまで来ると、そこからは思い出せない。何か夢の中に壁のようなものが存在しているような気がしてならない。
 自分に似ているという思いは、その人が夢の中で彩名に対して、かなりの溜口をきいていたからだ。いくら夢の中でも、いや、夢の中だからこそ、自分に対して溜口をきく相手がいることは、許せない気持ちになっていた。その思いを込めて、その人のことを「あいつ」と表現しているのだった。
 彩名は、その人のことを、夢の中でどのように思ったのだろう?
 溜口をきく人は、少なくとも心が通じ合えた相手でなければ、嫌いなタイプであることに間違いない。だから、「あいつ」と表現するのだが、夢の中で、そんなに嫌だったというイメージはない。
 むしろ、
――慕っていたのではないか?
 と、自分の中で容認できるはずもないような思いが頭の中を巡る。それは思い出せば思い出すほどに感じることだった。
 彩名が今までに慕ったことがある相手というと、小学生の低学年の頃に近くに住んでいたお兄さんが最初だった。だが、
――慕う――
 という意味では、それ以降、誰にも感じたことがなかったような気がする。それは、自分が慕いたいという気持ちよりも、
――慕うことを怖がっている――
 という思いの方が強かったからだ。
 なぜ、慕うのが怖いのかということは思い出そうとしても思い出せない過去に影響している気がする。その頃から彩名は、
――自分のまわりにいる人は、皆自分よりも優れている――
 と感じるようになった。その思いは、自分の知っている人に限られていて、逆に自分が知らない人は、
――自分よりも劣っている――
 と思うようになっていた。
 しかし、その思いを表に出すことなどできるはずもなく、極端な性格は、自分の中に封印するように心掛けていた。
――この思いも、記憶が欠落していることと何か関係あるのかも知れないわね――
 と感じる彩名だった。
 まわりを極端に見るというのは、自分が、
――二重人格なのではないか?
 と感じさせるところがあったからだ。
 本当なら、
「他人には優しく、自分には厳正に」
 というのが理想なのは分かっているが、どうしてもそう感じることができない。それはまわりの知っている人は自分よりも優れていて、知らない人は劣っているという考え方が基本になっているのではないだろうか。極端ではあるが、潔さも感じられることが自分の中で疑問は感じながらも正当化できることで、余計にその思いを強くさせられるのではないかと思った。
「他人に厳しく、自分には甘く」
 この思いが自分の性格の原点を作っているところだと思っている。ただこれも極端な考え方で、自分を大切にするという考えが、自分に甘いという思いに繋がっているのだとすれば、子供の頃から考えていたことが錯覚だったということになるだろう。
――自分を大切にできない人が、まわりのことに気を遣うなど、できるはずもない――
 という考えも持っている。
 ここで言う「大切」というのは、「納得」という言葉に置き換えることもできる。
――自分を納得させられない人が、まわりの人を納得させることなど、できるはずもない――
 というのが、本音となっているに違いない。
 二重人格というのは、あまりいい意味では使われないが、自分の中にある性格を、
「自分に対してのものと、他人に対してのもの」
 というように分けることができるのだとすれば、二重人格というのも、まんざらでもないのかも知れない。
 彩名は、自分の性格をハッキリと意識したことはないが、夢の中で自分と同じような性格の男性を見つけたと思っているということは、夢の中でなら、自分の性格を把握することができると考えているに違いない。
 彩名は自分を、
作品名:絶妙のタイミング 作家名:森本晃次