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絶妙のタイミング

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――私はまわりの人と違って、優れている――
 というまわりに対しての優越感の裏返しでもあった。
 その優越感が、そのままストレスに繋がっていくことに気付かなかった。その感覚というのが、
――自分を殻に閉じ込めるだけになってしまう――
 ということに気付かせない要因でもあった。つまり、
――ストレスと、優越感というのは、どこまで行っても交わることのない平行線を描いているのだ――
 ということであった。
 しかも、その思いが夢に微妙な影響を与えていることに、気付くはずもないのだ。
 夢を見るということがどういうことなのか、中学時代くらいに考えたことがあった。それを友達と語り合ったこともあったが、
――そういえば、あの時に、それなりの結論って出たんだろうか?
 と、思い起してみたが、やはり思い出せない。ただ、友達の意見に対して、結構反発していたように思う。自分の意見だけは、何となく覚えている。そして、それが今でも変わっていないということや、友達の意見とでは、こちらも交わることのない平行線を描いているということも意識していた。
「夢というのは、目が覚めるにしたがって忘れていくものだ」
 ということ、そして、
「夢というのは、どんなに長いと思う夢であっても、目が覚める前の数秒の間にしか見ていないんだ」
 ということだけは、譲れなかった。
 友達も、最初の意見には賛成だったが、夢というのが目が覚める前の数秒でしかないという考えには難色を示していた。口では、
「反対だ」
 とは言わないが、決して受け入れられないというハッキリとした意志を感じたのだった。
 その友達とは今でも時々連絡を取っているが、学生時代から連絡を取っているのは彼女だけだった。
 元々、大学を卒業してからも、
「時々、皆連絡を取り合いましょうね」
 と言って、卒業したはずだった。
 彩名は、卒業してからも、何人かに連絡を取ってみたが、誰もがまるで他人行儀のような態度だったのだ。
 仕事も覚えることが多かったり、環境も変わったこともあって、学生時代の友人と話をするのが億劫になったのだろうが、そんな環境に彩名は耐えられなかった。一度でも他人行儀にされた相手には二度と連絡を取る気にもなれず、自然と友達が減っていくのを感じていた。
 それも自分の中にストレスを溜める大きな要因になったわけだが、ストレスがすぐに表に出てくるほど、彩名も他人に構っていられる状況ではなかった。
 仕事を覚えるのは、きっと、他の人に比べて早かったように思う。それでも、苦悩は他の人と変わりはなく、いや、むしろ覚えが早かっただけに、それだけ自分の中で無理をしていたのかも知れない。本人には意識はないが、そこがストレスに繋がってくるのだということに気付いたのは、本当に最近のことだった。
 その原因を作ったのは、夢に対しての意識だった。
「私は、夢を見ないんだ」
 と、思っていた。
 これは学生時代に思い、今も感じている、
「夢というのは、目が覚めるにしたがって忘れていくものだ」
 ということに対して、どこか矛盾を感じることでもあった。
 それを矛盾と感じないほど、夢というもの自体が自分には無縁だと思ったからだった。
 確かに中学時代も夢に対していろいろ考えてはいたが、それはどこか他人事だったからである。
――他人事だったからこそ、いろいろ夢に対して感じるものがあったのかも知れない――
 と、今なら自分を納得させることができる。
 彩名の夢に対しての基本は、
――夢は忘れてしまうものであって、忘れてしまったものに関して、思い出そうとするなどということはナンセンスだ――
 というものだった。
 もっとも、これは彩名だけが感じているものではなく、他にも同じことを考えている人も少なくないだろう。そして、もう一つ同じように、他の人も感じていると思っていることで、
――悪い夢ほど、覚えているものだ――
 という考えである。
 これは、夢を忘れてしまうということに、自分の意識が働いていないということを意味しているのかも知れない。だが、逆に考えると、
――覚えているということは、忘れたくないという気持ちの裏返しで、忘れてしまうことの方が、覚えていることよりも怖いということであり、その根拠は「自分が怖がりだ」ということではないか――
 と、思うようになっていた。
 彩名が怖いと思ってる夢は、実は二種類あった。
 一つは、
――もう一人の自分が出てくる夢――
 で、そしてもう一つが、
――前にも同じ夢を見たような気がする――
 という夢だった。
 もう一人の自分が出てくる夢というのは、実はハッキリとまでは行かないが、今でも彩名は覚えていた。元々夢というのは覚えていること自体が稀なので、いつ頃に見た夢なのかということも、意識の中でかなり幅のあるものだった。
 つい最近見た夢だと言われればそんな気もするし、子供の頃の夢だったのかと言われればそんな気もする。もう一人の自分が出てきた夢の背景は、明らかに自分が子供の頃のことだった。子供の意識で見たものなのか、それとも大人になってから、意識の回想が生んだ夢なのか判断がつかない。もし、回想が生んだものだとすれば、夢に限らず彩名の中でもう一人の自分という意識は今に始まったことではなく、ずっと以前から頭の中で渦巻いていたものだという思いがある。そこには堂々巡りを繰り返している意識と、忘れられないことが夢となって現れたのだという意識が、同居しているわけでもないのに、同じ意識の中でそれぞれに表になり裏になり、展開していったに違いない。
 ただ、それが、もう一つの怖いと意識している夢である、
――前にも同じ夢を見た――
 という意識にも繋がるものがあるのだということに気付くまでには、かなりの時間が掛かったのだ。
 彩名は夢の中で、もう一つ覚えているものがあった。
 それは別に怖い夢というわけではなく、どこか掴みどころのない夢だった。夢自体、掴みどころがないのだから、改めて感じることではないのだろうが、どうしてそう感じたかというと、
――覚えている夢でも、怖いわけではなく、心地よい夢もあるのだ――
 ということを知ったからだった。
 ただ、この夢はいつ見たのか分からないわけではなく、明らかに最近見た夢だった。心地よい夢ではあるが、自分としては、衝撃の夢だったことに変わりはなかった。
 今まで彩名が見てきた夢は、そのほとんどが女性が出てくるものだった。
 男性が出てくるなど、まるで一人暮らしの部屋に、見知らぬ男性を引き入れるような気がして気持ち悪い。今までに男性の夢など見たことがないというのが、彩名の中で一番確かなことだった。
 小学生の頃は、男子と一緒にいても意識していなかった。
――異性を意識するようになったから、男性を気持ち悪いと思うようになったのかしら――
 彩名の男性への気持ちは、「恐怖症」に近いものだった。完全な男性恐怖症でないことだけが救いだが、彩名は、どうして男性が気持ち悪いと思うようになったのか、思い出せなかった。
 小さい頃であれば、男性の裸を見てしまったりして、それが男性恐怖症に変わったという人の話を聞いたことがある。
作品名:絶妙のタイミング 作家名:森本晃次