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絶妙のタイミング

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 中途半端に見えてしまうと、どうしても、相手の性格から、見えている先を先読みしてしまうことになる。しかし、見えてきたものに対して、絶対的な自信があるわけではない。絶対的な自信から出来上がったものであれば、それでもいいのだが、勝手な想像ほど、相手を見誤ってしまう。
 ただ、相手に自信を持っていることを、お互いに知っている場合はどうであろうか?
 相手が自分に対して自信を持っていないと思っていれば、自分の優位性は揺るぎないものだが、相手も自分に自信を持っているということが分かっていれば、まず考えることとして、
――果たして、どちらの方が相手に深い自信を持っているというのだろう?
 ということだ。
 それが競争心として頭に描いてしまえば、自分も負けまいとするだろう。
 だが、なかなか仲のいい相手に対し、お互いに絶対的な自信を持っている人というのはいないのではないかと思える。どちらか片方にでも絶対的な自信を持っている人がいるなどということすら珍しいことだと思える。それがお互いとなると、探すのは宝くじを引くようなものだろう。
 いや、それ以前にありえないような気もする。
――お互いに相手に対し、絶対的な自信を持った時点で、相手の限界を見切ってしまい、付き合って行く意味を失ってしまうんじゃないかしら?
 と彩名は考えた。
 お互いの限界が見えてしまうと、相手に対しての「期待」というものがなくなってしまう。
 もちろん、「不安」も一緒になくなってしまうかも知れないが、それがお互い長年付き添ってきた夫婦であるなら、別れる必然性はないが、まだ結婚もしていない、これから相手を自由に選べる身であれば、シラケてしまうのも必至であろう。
 それでも相手に執着するというのであれば、それは、自分ではどうすることもできないほど、相手のことを好きになってしまったということなのか、それとも、
――運命の人と出会った――
 と、信じて疑わない気持ちの方が強い人なのかのどちらかであろう。
 だが、交際というのは相手があって成立するもの、相手がいかに考えるかで決まると言ってもいい。特に、ガチガチの考え方で、頭の中に余裕のない人は、特に相手の考え一つで、その後は決まってしまうに違いない。
――それじゃあ、あまりにも寂しいじゃない――
 彩名は、自分が信二に対して、絶対的な自信を持っていないことにホッとしていた。裏を返せば、信二に期待していると言ってもいい。
 信二の方はどうなのだろう?
 彩名に対して絶対的な自信を持っていて、彩名に対して限界を見ることがないのだろうか?
――ひょっとして、中学の時に、信二が私から離れた時、平静でいられたのは、一度頭を冷やしたかったからなのかも知れないわ――
 と感じた。
 さらに、信二は言ったではないか。また会うことができるのだと……。
 しかし、その時に、予感めいたことを言っていたのも一緒に思い出した。彩名は、自分に対して絶対的な自信が持てるような男性に出会うと言っていたが、彩名の頭の中に浮かんできたのは、隼人のことだった。だが、隼人を思い浮かべてしまうと、必然的に、次郎も一緒に頭に浮かんでくる。
――私にとって、二人はセットなのかしら?
 というイメージが浮かんできた。
 信二が中学時代の彩名に何を見たというのだろう? 彩名は確かに単純な性格だと思っていたが、そんなに人に看破されやすい性格だというわけではなかったはずだ。
 人のことがよく分かる時と、相手が自分のことを分かる時というのは、同じ時期に共存しえないことだと以前は思っていた。しかし、次郎と隼人が現れたことで、その考えは間違っていたことに気付かされる。
 隼人は、彩名に優位性を持っているが、決してそれを表に出そうとはしない。しかし、彩名は次郎に対して持っている優位性を表に出している。次郎は、彩名に自分のことを分かってもらえたことが嬉しいと言っていた。今まで誰にも分かってもらえなかったようで、一人悶々としていたようだ。
 隼人の方が、次郎よりもしっかりしているように見えるが、隼人にもグレーな部分がいくつか見えてきた。
 特に、彩名の優位性を持ってしても、隼人の中のグレーな部分には入り込むことができない。隼人はそれを、
「自分でも分からないんだけど、好きな人ができると、必ず相手から、『あなたは何を考えているのか分からない』と言われて別れることになるんです。どうやら、僕の性格は女性に理解されにくいようで、自分でも悩んでいるんですよ」
 と言っていた。
 きっと、隼人には自分の中にグレーな部分が存在していることを理解していないのだろう。自覚症状がないことで、隼人は今まで自分が損をしてきたと思っているようだが、果たしてそうなのだろうか?
 隼人は一見控えめに見えるが、実際にはそうでもない。次郎と一緒にいる時は、結構饒舌である。
 隼人は次郎のことを親友のように思っているが、次郎の方では、そこまでは思っていない。
――たくさんいる知り合いの中の一人――
 という位置づけなのだろう。
 次郎にはたくさん友達がいるのは確かだ。中にはそれほど深い仲ではない人も結構含まれている。本当に友達と言えるのは、四、五人程度というところだろうか。それなら他の人とあまり変わりはない。
 そういう意味で行くと、彩名には友達と言える人は一人もいない。彩名は女性と話すことをあまりしない。自分から避けているところがある。理由については、自分でも分かっている。
 要するに、相手から見透かされるのが嫌なのだ。
 相手が男性であれば、別に構わないと思っている。同性だと、心の奥底までも土足で上がりこまれるような錯覚を覚えることで、自分の居場所が失われることに恐怖すら覚える。しかも女性は、男性に比べて限度というものを知らない。一度目を付けられると、果てしない恐怖が、ずっと続いて行くように思えて仕方がないのだ。
 そんな自分と同じような「匂い」を感じるのが、隼人だった。
 隼人は、まわりの人間を基本的に毛嫌いしている。友達がいるように見えるのも、隼人が女性でなく男性だからだ。もし隼人が女性であれば、まず友達は一人もいないに違いない。
 それにしても、そんなに友達がいないというのが珍しいことなのだろうか?
 彩名には友達がいないことの方が自由に行動できるから好きだった。下手にまわりに誰かがいると、好き勝手できない。しかも、少しでも自由を目指そうとすると、誰か一人から、
「団体行動を乱すような行動は控えてください」
 と言われかねない。
 言われても別に気にしなければいいのだが、それほどメンタル的に強いわけではない。それよりも、空気の密度が濃くなっていくことで、過呼吸になってしまう状態に耐えられないのだ。
 一度、一人の世界を知ってしまうと、そこから抜けられなくなる。
「一人は孤独で寂しいものだ」
 などというのは、
――嫌でも団体行動をしないと生きていけない――
作品名:絶妙のタイミング 作家名:森本晃次