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絶妙のタイミング

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 こんな時間を過ごさなければいけないことに、曲りなりにでも、何か自分が納得できるだけの理由を探してみようというのだ。
 彩名の中に、次郎に対して、何か後ろめたさを感じることで、甘んじて劣等感を受け入れているのではないかと感じていた。この感覚は、今初めて感じたものではなく、遠い過去に同じような感覚を覚えていたのを感じた。
――過去というのは、いつ頃の過去なのだろう?
 彩名は、過去を考える時、その時間の長さが、見つめる焦点がどこにあるかによって、違っていることに気が付いていた。
 近くの過去を覗く時は、そこまで結構遠くに感じられ、それ以前の過去は、時間の刻みの中では、もっと細かなもの、つまりは、同じ時間が経っていても、過去に遡るほど、短くなっているのだった。
 逆に、遠い過去を覗く時は、その時点まで、結構あっという間に届いていて、その周辺の過去や、それ以前の過去は、長く感じられるのだ。
 この思いが彩名だけのものなのか、普段からこんなことをイメージする人は少ないだろうが、イメージしている人のほとんどは、彩名と同じイメージを抱いているのではないかと思えた。
 だが、言われて改めて考えた人は、まったく逆をイメージするように思えた。
 それは普段から時間というものを意識している人が時間の流れに忠実に考えることができるからだというのと、あまり考えていない人は、今という瞬間からしか、時間を見ることができないからだ。それだけ錯覚や誤解も多く、普段から考えている人とは、まったく違った発想を思い浮かべるのは当たり前だと思っていた。
 彩名は自分が感じている、
――時間というものが持っている世界観――
 を、次郎も持っているのだと感じた。
 だが、世界観を持っていると言っても、同じ発想というわけではないようだ。もし似たような発想であっても、それこそ、決して交わることのない平行線であって、それが、お互いの中に、優劣を決定づける発想になってしまったのだろう。
 どちらかが、磁石のN極であり、どちらかが、S極である。お互いに同時に感じなければ、ここまでビッタリと嵌ったりはしないだろう。そういう意味では、彩名がまるで交通事故にでも遭ったかのように思ったとしても、それは無理もないことだろう。
 次郎は、彩名に対して高圧的ではあるが、優しかった。最初はそれが却って不気味に感じられた彩名だったが、慣れてくると、今度は優しさが心地よく感じられるようになった。
 苛められた後に優しくされると、それまでの恐怖で硬くなっていた身体から一気に力が抜けてくる。そして、救われた気がしてくるのだ。それが次郎の計算ずくのことなのか分からないが、そのおかげで、彩名は次郎から離れられなくなっている自分に気が付くことになるのだった。

                 第二章 信二と香織

 彩名が、中学時代のクラスメイトだった信二と再会したのは、次郎や隼人との関係を奇妙に感じ始めた頃のことだった。
 あれは、会社の用事で、出身中学校の近くまで来た時のことで、懐かしくなって、学校を覗いていると、そこに現れたのが、信二だった。
「彩名ちゃんじゃないのかい?」
「えっ」
 振り返ると、少し無精ひげを生やした、一瞬近寄りがたい男性が立っていた。思わず後ずさりしそうになったのを堪えた彩名は、相手の顔を凝視した。一見、野性的な雰囲気に見えたが、よく見ると、どこかあどけなさが感じられた。しかも、どこかで見たような気がして懐かしさすら感じた。相手がこちらを知っているのだから、懐かしさを感じても無理もないことだが、それでも、新鮮な気持ちになってくる自分がいるのを感じた。
「信二君?」
 両目の焦点を合わすかのように、左右から、ぼやけた顔が寄ってきて、そこで綺麗に重なったその顔は、中学時代に見覚えがある信二だったのだ。
――まるで、指紋照合のスクリーンを見ているようだわ――
 と、感じたのは、最近、二時間ドラマの見すぎだろうか?
 最近、テレビをよく見るようになった。それだけ表に出ることがなくなった証拠なのだが、家にいても何もすることがない。昨年までは、そんな毎日に嫌気が差して、休みの日でも、必ずどこかに出かけていた。そんな時に限って誰に会うこともない。それはそれでありがたいのだが、表に出たからと言って、何をするわけでもない。
 次郎や隼人と知り合ってから、少し自分の身辺が慌ただしくなってきたが、表に出ていても、結局何もすることなく、家にいるのを選んでしまうと、今度は表に出るのが億劫になってくる。
――時間にメリハリをつけないと――
 と思っているくせに、家にいる時は、結局テレビを見ていることが多い。
 彩名は、平日が休みの時が多い。昼下がりは二時間ドラマが多いこともあって、不安なことも、二時間ドラマに結びつけて考えてしまう自分に、苦笑いしてしまう。
 指紋照合のスライドのように、顔が一致することで信二を思い出した彩名だったが、中学時代の面影はかすかに残しているとはいえ、ここまで雰囲気が変わってしまうとは、ビックリした。
 無精ひげというと、彩名には、どうしても、野性的な男性のイメージがある。正直、野性的な男性が苦手だった。それならまだ、優男の方がよかった。ただし、同じ優男でも、自分に逆らう男性は、最初から相手にしない。
――私は、やっぱりSなのかしら?
 と思ったが、次郎や隼人を相手にする時に感じた優越感とはまた違うイメージのSである。
 単純に、
――相手が私にひれ伏してくれればそれでいいんだ――
 とは思いながら、相手が弱さばかりを表に出しているのであれば、我慢できない。彩名にだけ服従しているのだが、それ以外のまわりの人を従えるくらいの男性を求めている。
 もちろん、究極の相手に違いないが、決して探して見つからないことはないと思っている。
 基本はSであるが、彩名に対してだけはMになる男性。つまり、それだけ、彩名自身のS性が強いのではないかと思っていた。
――でも、どうしても、自分を納得させることができないわ――
 欠落している記憶があるから、そんな男性が存在するのだと思っているのかも知れないと、彩名は感じていた。
 彩名は自分が男性に絶対に服従しない性格であることを、自分で分かっている。もし、相手に優位性があっても、
――そんな人とは付き合わなければいいんだ――
 と、思うからだ。
 だが、そう簡単にも行かない。彩名は、自分がどんな男性に惹かれるのか、自分でもよく分かっていなかった。
 そういえば、中学時代の信二が、彩名に好意を持っているということを、気付いていたのを思い出した。中学時代の彩名は、男性から好かれるタイプではなかった。どちらかというと暗い性格で、いつも何を考えているのか分からないと思われていたに違いない。
「人を好きになるのって難しいのよ」
 友達の女の子が他の友達に話しているのを聞いていた。二人は別にまわりに隠れて話すこともなく、オープンに会話をしていた。聞こうとしなくても、聞こえてくるのだ。
「どうして? 誰に憚ることもなく好きになればいいことでしょう?」
作品名:絶妙のタイミング 作家名:森本晃次