孤独たちの水底 探偵奇談12
生まれて、生きて、死んでいく。その人生の中に、決して偶然ではない出会いというのが存在するのだとして。ひとはそれを、いつまで覚えていられるだろうか。忘れたとしても、思い出せなくなったとしても、それは悲しいことではない。自分の心に刻み込まれて思いは、そのまま自分という人間を成すのだと思うから。
いつか。もっと年をとって。自分の人生を振り返ると日がきたとして。
伊吹はきっと、もう一人の瑞のことを思い出すと思う。
間違いなく、自分の魂の一部を作った者のことを。
(瑞、ありがとう)
その日まで。
(さようなら…)
あの夏の夢は、もう二度と見ない。
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作品名:孤独たちの水底 探偵奇談12 作家名:ひなた眞白