孤独たちの水底 探偵奇談12
「帰ってくるよ…」
郁はきつく手を結び、自分に言い聞かせるように言った。
「いつも大丈夫だもん。怖い事件に巻き込まれても、伊吹先輩と須丸くんがいれば解決したもん。大丈夫、大丈夫…」
「そうだね。俺もそう思う」
なんとかするだろう、あの二人なら。何となく気持ちが楽になってくる。と、制服のポケットでスマホが鳴った。
「あちゃ、サユリちゃんからだ…祭りすっぽかしたから怒ってるのかなあ」
女の子からの着信だったが、今はそれどころではないのでポケットに仕舞う。
「…颯馬くんて、いつも彼女いるけど、ちゃんと好きで付き合ってるの?」
突然郁からそんなことを聞かれ、颯馬は面食らう。おそらく、非難とまではいかないが、遠回しに真面目な交際をした方がいいのではないかと一種の嫌悪感とともに警告をされているのだと思う。しかし颯馬は、ちゃんと好きで付き合っているのかと尋ねられれば、自信をもってイエスと言える。
「もちろんだよ」
「でもすぐ別れちゃうんでしょ?告白してくれる子なら、誰でもいいの?」
「俺は、ちゃんとその子のこと好きになれるって思うからOKしてるんだよ」
嘘じゃない。確かに交際期間はものすごく短いし、次の相手はすぐにできてしまう。しかしそれは不誠実だからでは決してないのだ、颯馬からすれば。
「だって自分のことを好きだって言ってくれるひとのこと、好きにならないわけないもん。俺みたいな人間を選んで告白してくれるなんて、それって相当嬉しいことじゃん。俺は絶対に好きになれる。だから付き合うんだけど」
作品名:孤独たちの水底 探偵奇談12 作家名:ひなた眞白