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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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孤独たちの水底 探偵奇談12

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「…須丸だ!」

不思議そうにこちらを見つめている瑞とは、視線が合わない。伊吹の姿は見えていないようだった。どうやら一方通行のようだ。こちらは夜の森だが、あちらは晴れた昼間。昼夜の逆転した場所に、同じ時刻に存在しているとでも言うのだろうか。

「呼んでご覧」
「須丸!」

しかし伊吹の声はほんの少し水面に波紋を作っただけで、瑞の様子に変化はない。あたりを見回したり、不思議そうに水面を覗き込んだりするのを繰り返している。

「聞こえないのか?須丸!呼ばれたら返事ッ!!」

若干イラついてそう言うと、その言葉に反応するかのように、瑞の視線が驚いたようにこちらを向いた。

「おっ!」
「聞こえたようだ」
「須丸、おまえどこにいるんだ!帰ってこいって!」

水面に向けて手を伸ばす。瑞の顔に触れた瞬間、夏空は消え失せ、波紋の中には伊吹の必死の表情だけが残されていたのだった。消えた…。

「…だめか」
「でも、ここと彼のところは繋がっていることが分かった。彼を取り戻す手立てはある。きっと」

慰めるようにそう言って伊吹のそばに屈みこんだ作務衣の男は、水面には映っていない。そこにはぞっとしたように固まった伊吹の姿が、月とともに映り込んでいるだけだった。

(なんだ、こいつは…)

死者なのか。それとも沓薙の神様達のような存在なのか。水面に映らないその存在は不気味だったが、いまこの場所で伊吹が頼れる唯一の存在なのだ。

「…おまえは味方なのか」
「誰にとっての?」

質問に質問で返され、伊吹は言葉に詰まる。協力的で友好的ではあるのだが、信用していいものなのだろうか。伊吹のそんな心情をくみ取ったのか、男は静かに立ち上がってそばを離れた。