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詩集 言の葉のたから箱【紡ぎ詩Ⅴ】

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 つい最近も近隣のお宅の見事な桜が邸宅新築のため、伐採された。他人事ながら、心が痛んだ。幸いにも、我が家の桜は初代の桜を惜しんだ心ある方の尽力でまた別の形で生まれ変わることができた。移りゆく時代の中で、小さな苗木はすくすくと成長を遂げ、今では町内の老人会がこの桜の側で毎年お花見をされるほどだ。私も四人の子どもたちの入園、入学と成長の節目には、この桜の下で記念写真を撮ってきた。
 二代目の桜は、今日も人通りがない川辺にひっそりと佇んでいる。まさに、初代の桜からこの桜へと生命が繋がれてきたのだと思う。時の流れの中では手放さなければなないもの、変わりゆくものがあるが、革新もまた一歩先に進むために必要なものなのかもしれない。私もいずれ庭のどこかに桜を植えてみたいとひそかに考えている。気の遠くなるような年月の果てにも、桜たちは同じ場所で悠久の時を刻み続け続けるに違いない。

☆「週末には花を買って」

日用品の買い出しに出掛けたスーパーをいつものように歩く
ふと足が止まった
明るい色彩が温かな陽差しの渦のように溢れている一角
そこは小さな雑貨店の店先だった
白 蒼 黄 紅
それぞれの色が叫び出そうとする子どものように
自分の魅力を精一杯主張している

中でもひときわ目を引かれたのは蒼色の小さな花束だ
深みのある紫に近い薔薇は
例えれば月が輝く真夜中の空のよう
傍らの可憐な紫陽花は心もち色が薄い
まるで陽が落ちた直後の宵の空のような淡いやわらかな蒼
今 〝蒼い薔薇〟をモチーフにした新作小説を描いている
偶然見つけたこの蒼い薔薇のブーケに
何か運命的なものを感じた
ーなどと真顔で語りたくなってしまった

蒼でまとめられたこのブーケだけでも十分美しいけれど
少し淋しい
もう一度 陽気な楽団のように
楽しいハーモニーを奏でている花売り場コーナーを見ると
鮮やかな黄色ーミモザの数輪を手に取った
ミッドナイトブルーと眩しい黄色の対比の妙が映える
月が昇る真夜中と太陽が輝く真昼
見ているだけでうきうきとした気分になり
選んだ花たちを持ってレジへ急ぐ
ーいらっしゃいませ。
レジの向こうの女性のすがすがしい笑みに
いっそう心が弾む

たまには週末に花を買うのも良い
その日 小さな花束が
心に信じられないほどの大きな時めきと元気をくれた
蒼い薔薇の花言葉は〝奇跡、夢が叶う〟
ーいつか私のささやかな夢も叶いますように。
そっと心の中で呟き
店の女性から袋に入った蒼い花束を受け取った


☆「花笑み」

 初夏の陽射しを浴びて 
 すっくと伸びゆく花
 凛とした佇まいと純白にほのかに混じった淡い黄色は
 爽やかな匂いやかさを漂わせるお嬢様のよう
 人は誰も
 たおやかに風に揺れる彼女に振り返らずにはいられないだろう
 照りつける真昼の陽射しから
 身を隠すように
 ひっそりと開く花
 はんなりとしたピンク色と可愛い緑の葉は
 自分の境遇を受け入れてなお
 精一杯咲こうとする勤労少女を思わせる 
 もしかしたら彼女の存在に目を止める人は少ないかもしれない

 照りつける真昼の陽射しから
 身を隠すように
 ひっそりと開く花
 はんなりとしたピンク色と可愛い緑の葉は
 自分の境遇を受け入れてなお
 精一杯咲こうとする勤労少女を思わせる 
 もしかしたら彼女の存在に目を止める人は少ないかもしれない

 眩しい陽光の下
 少し離れた場所から
 まったく相反する二つの花を見る
 花もまた静かに風に揺れながら私を見る
 今日という日を精一杯咲く花たちに
 今の私はどんなふうに映じているのだろうか
 ふと訊いてみたくなる
 想いを込めて見つめたまなざしの先
 大輪の花と小さな花が
 声を合わせて笑い声を立てるように
 かすかに
 本当にかすかに身をくねらせる
 ひと刹那
 花たちの向こうに
 微笑む少女たちの楽しげな笑顔を見た

☆「師任堂の深紅の絹の包み」を読んで ~朝鮮王朝時代を真摯に生きた女性「サイムダン」のもう一つの物語~

 その本の最後の行を読み終え、かなりの厚みのある本を閉じた瞬間、終わったという想いが脳裡を掠め、深く静かな感動の余韻が私を包み込んだ。
 それはまるで深い湖のようでもあり、少しでも長くそこにたゆたっていたいーそんな気分であった。
 私がこの書物に興味を抱いたのは韓流時代劇「師任堂 サイムダン~色の日記」を観て、申・サイムダンという一人の女性を知ったからである。韓国ではお札にもなるほど有名な女性であり、朝鮮王朝時代の封建社会に生きながら、妻として芸術家として活躍した偉大な女性である。
 ドラマも素晴らしかったからこそ、更にサイムダンという女性について知りたいという欲求が湧き、彼女について書かれた文献を探していたところ、この小説にたまたま出逢った。ドラマのノベライズは別にあるようで、こちらはドラマとは関係ない独立した作品らしい。なので、ドラマと小説のサイムダンが混同しないよう、それぞれ独立した別個の作品一つ一つの魅力を堪能するためにも、ドラマを視聴後に小説を読み始めた。
 かなりの分厚い書籍のため、最初は最後まで読み終えられるかどうか、不安だった。少し固めの内容なのかと思いつつ読み始めたのだが、無用な心配だとすぐに判った。
 ドラマとはまったく相反した、もう一つの「サイムダン」の物語、人生がそこにはひろがっていた。
 まったく違う作品ではあるが、偉大な女性芸術家、妻、母としても完璧であった貞淑な女性として描かれるサイムダンに、実は秘密の恋人がいたという設定はドラマと酷似している。ただ、これはやはり、サイムダンという女性がいかに有名でありながらも謎を今なお秘めた人物であるか、その人生の多くの空白を埋めるには偉大な女性の「秘められたる若き日の情熱」をモチーフにした方が物語りになりやすいからではないかと思われる。
 今日に伝えられるサイムダン像が妻としても母としても、更に芸術家としても完璧であればあるほど、現代に生きる私たちは完全無欠な彼女の人生に、隠された「人間らしさ」を求めて止まないのかもしれない。
 ドラマも小説もまったく違う作品でありながら、サイムダンの若きの恋をテーマにしていたのは、やはりそのような理由からだと思う。
 ドラマでもサイムダンと秘められた恋の相手宜城君イ・ギョムの切ない恋と別離が描かれるが、やはり小説でも、サイムダンとチョン・ジュンソという両班の青年の恋が描かれる。ジュンソはチョン大監の側室の子であり、サイムダンとは幼なじみでもあった。
 ジュンソの妹チョロン、更に上流両班の息女であるカヨン、この三人の少女たちは幼なじみながら、各人が特有の個性を持っている。
 十五歳で都の領議政の息子に嫁いだカヨンは跡継ぎに恵まれず、夫の色狂いに悩まされ、ついには故郷で首をつって非業の最期を遂げた。
 妓生の娘チョロンは父が政変で失脚し、官奴となるも持ち前の踊りや美貌を活かして妓生となり、最後は右議政の側妾となり何不自由ない暮らしを手に入れた。
 サイムダンとジュンソは互いに烈しく惹かれ合い、将来をひそかに約束するも、ジュンソが庶子であるということが障害となり、結婚には至らなかった。