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詩集 言の葉のたから箱【紡ぎ詩Ⅴ】

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また新たな一年の季が始まる


☆「星夜」

キンと張り詰めた真冬の大気を震わせるかすかな音
シャンシャンシャン
耳を澄ませば
天空の彼方から響いてくる鈴の音

今日というこの日
街を気紛れな夜の女王が漆黒のドレスですっぽりと包み込む頃
たくさんの家々の灯りが点る
それは煌めくダイヤモンドのネックレス
或いはケーキを飾る無数のキャンドルのよう
灯りの数だけ
人々の笑顔と温かな温もりがある
そう 一人一人を輝かせているその温もりこそが
最高のプレゼント

―わあ、サンタさんだ。
温かな家目指して家路を急ぐ私の耳に
無邪気な子どもの声が飛び込んできた
ふと空を仰げば
鮮やかな赤色の服のサンタクロースがソリに乗って駆けてゆく
光の粉をまき散らしながら
彼はあっという間にトナカイと共に消えていった
サンタがまいた星の粉はキラキラと輝きを放ち
ぬばたま色の空を彩る冬の星座になる
ハッと現に返れば
私はクリスマスイブの賑やかな街の雑踏に取り囲まれ
傍を忙しそうに通行人が行き交っている
男の子もいつしかいなくなっていた
私もまた我が家へと急ぐ足をいっそう速める

―世界中の人々が
  今日という一日を笑顔で過ごせますように
 メリークリスマス―

☆「令和元年の年の瀬~息子が高野山に還る日に~」

Ⅰ「餅つき」

ドーンという大きな音が耳に飛び込んできた
―よーいしょ。
ついで何かを打ち付けるような音に威勢の良い掛け声が重なる
ふと音のした方を見ると
近くのお家が餅つきをしていた
一家総出で お父さんとおじいさんが代わる代わる杵をふるい
奥さんたちが合間に餅をこねている
大人たちの周囲を子どもたちが飛び跳ねている
ふいに懐かしい記憶が浮かび上がった
幼い頃 我が家でも年末になると恒例行事として餅つきが行われていた
父と祖父が杵をふるい
母と祖母が餅をこねた
石臼の中でどんどんできあがる白い餅を
私は傍らで目を丸くして見つめていたものだった
つきたての餅が出来上がってゆくのは子どもの眼には
まるで魔法のように見えた
かなり長い間 餅つきは行われていたと思うのだが
いつしか我が家では見られなくなっていた

とうにたくさんの記憶の狭間に埋もれてしまった懐かしい想い出に
熱いものがこみ上げた
ふと空を振り仰げば
薄青い冬の空から透明な陽差しが地面に落ちて
境内の古い地蔵尊の祠の屋根を照らしている
今日は年に一度の祠の大掃除の日
静かなふるさとの町
穏やかな年の瀬の風景




Ⅱ「高野山」

かつて餅つきが行われていた時代から
気の遠くなるような歳月が流れ去った
今日 高野山で修行中の息子がいよいよ御山に戻る
どことなく朝から沈んでいる息子に
私は思うままを告げた
―時間は確実に前に向かって流れている。あなたは後3年、御山で自分の学ぶべきこと、やるべきことをきちんとやり遂げてきなさい。あなたが一人前になるのを家族全員が愉しみに待っていること、その日のために皆それぞれ頑張って待っているから。
たまの帰省が終わり故郷を離れがたく思う気持ちは
私自身 いやというほど判る
何を隠そう私もまた30年昔は親元を離れて大学に通っていたからだ
けれど 故郷を離れて積んだたくさんの経験は
今の私のまとたない得難い財産となっている
学生時代は一日も早く故郷に戻りたい一心だったけれど
離れて暮らした時代を懐かしく記憶に甦らせる日が必ず来る
今 自分が感じている想いを
かつての若かった自分に教えてあげたい
初めて我が子を手放した令和元年もあと二日で終わり
新しい年を迎える直前
息子はまた高野山に戻ってゆく
旅立つ前は親も子も辛いが
また次に逢える日を愉しみに頑張ろう

息子よ
確実に前に向かって時間は流れてゆくのです
今しかできないことはたくさんあります
あなたが好むと好まざると いずれ御山を離れる日も来ます
だから しっかりとお大師様のお膝元で学んできて下さい

☆「月」

紫紺の空にひそやかに息づく眉月
キンと音を立てそうなほど凍てついた大気の中で
白い息を吐きながら見上げる
今にも夜空に溶け込んでしまいそうに儚げでいながら
凜とした確かな存在感を淡い光と共に放っている
女人のほっそりとした眉のような月は
どこか ぬばたまの宵闇の中で咲く月下香を思わせる

昔 どこかで聞いた言い伝えでは
下限の月は「手放すこと」を意味するという
月は満ち欠けを日々繰り返しながら
再生と消滅を続けてゆく
それは太古の昔より
気の遠くなるほど長い年月の間
連綿と営まれてきた輪廻転生の物語
どれほど多くの人たちが人間の一生にも似た月の営みを見つめてきたことだろう

今 月下に佇み
銀灰色の細い月を仰ぐ
月はただ沈黙を纏い私だけを凝視(みつ)める
私も静かに月だけを見上げる
月はプラチナのように淡く清かな輝きで大地を照らす 
夜明け前のひととき
吹き抜けの廊下に立つ私の前にひろがる庭は
いまだ深い闇と眠りの底に沈んでいる
この月が姿を隠すまであと数日
〝誕生〟を表す新月から
また新たな月の一生が始まる
何かが始まりそうな予感をはらむ真冬の早朝
刻(とき)が私の側をゆっくりと過ぎてゆく

☆「一冊の古本に思うこと」

 子どもの頃から、古書を買う機会は滅多になかった。特に迷信深いわけではないが、本にしろ何にしろ、他の人が所有していた品には持ち主の精神(こころ)が宿るという言い伝もあり、母がその類いを信じているからだ。
 だが、その考えはあながちまったくの迷信とも言い切れないのではないかと思う。例えば、事故物件などの車などはできれば品質の割に格安で中古販売されていたとしても、買わない方が良いといわれている。また宝石類などは主に女性の持つ装飾品であり、特に前所有者の念が宿りやすい傾向にある。
 リサイクルでレアの石の指輪を購入した女性に何故か不幸が続き、とある知り合いのお寺の僧侶に相談したところ、前の持ち主の執着が指輪に宿っていて、その人自身が不幸な死に方をしたという。女性はすぐに指輪を手放したところ、不思議なことに不幸はぴたりと止まった。
 そんな眉唾物の話は信じないという方も多いだろう。考え方は人それぞれなので、否定するつもりはない。ただ、この世には科学で解明できない不思議な話があるのも事実なのではある。
 そんな自分がまさか古本を買うようになるとは想像もしていなかった。私は活字中毒といえるほどの本好きだ。読む本がないと落ち着かないといえば良いのか、とにかく自宅には常に読書用の本の在庫が何冊かあるようにしている。滅多にないけれど、面白い本のときはのめり込んで、数時間間から一日で読み終えるときもある。
勢い毎月の本代も馬鹿にならず、数人の子どもに出費がかさむ時期には特に厳しいときもあった。