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川はきらめく

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 今日もいつものように岡島幸雄は搬入口に車を止めて、施設に食材を運び入れた。そして、確認の印をもらいに事務室の窓を開け、奈美に声をかけた。
「奈美ちゃん、春田のおやじさんの具合はどうだい?」
「ええ、もう熱は下がったので大丈夫みたいよ。あの弘子さんがついているんだから心配ないわ」
「そうだった、弘子さんがいたんだもんな」
 ここのところ寝込んでいると聞いた健吉を心配していたが、幸雄はそれを聞いて安心した。
 幸雄と奈美、そして弘子。三人は健吉を介して、親しく言葉を交わすようになっていた。
 
 この施設の配送担当になったばかりの頃、まだ勝手がわからない幸雄は、なま物の置き場を間違え腐らせてしまったことがあった。たまたま通りかかってそれに気づいた健吉は、わざとその上に転んで、自分のせいで食材がダメになったことにして庇ってくれた。
 それ以来、休みの日などに幸雄は春田老人を訪ね、世間話をするようになった。人を包み込むような健吉といると、時に父親ができたような錯覚にとらわれることさえあった。
 
 
 次の休日、幸雄は母親の一周忌の法要のため、墓へ向かった。墓前にはすでに別れた妻直子が二人の娘を連れて立っていた。
 数日前に直子から出席したいという連絡があったのでわかっていたのだが、高校の制服を着た長女琴美の姿を目の当たりにして、一年の間にすっかり大人びた娘の成長ぶりに幸雄は驚かされた。
 無事法要を済ませ、揃って昼食をとった後、直子は娘たちを先に帰して、幸雄と二人の時間を作った。幸雄も法事にまで気を配ってくれた元妻に感謝し、娘たちを立派に育ててくれていることにも礼を述べた。
 すると、直子は意外なことを言い出した。復縁してはくれないかと――幸雄は全く頭になかったことなので、何とも答えようがなかった。
 
   * * * * * * * *
 
 母が認知症になるまでは確かに全てがうまくいっていた。父の介護をしてくれた直子への感謝を忘れたわけでもない。
 しかし、琴美の受験と時期が重なったとはいえ、母を見捨てたようなあの時の直子の振る舞いは忘れられない。
 そしてあの火事騒ぎ。母を失ったばかりか人様に怪我までさせてしまったあの地獄の時を、共に支えあうべき伴侶のはずが、氷のように冷えた空気の中で淡々と事をこなしていった日々――
 
   * * * * * * * *
 
 決して直子が悪いのではない。すべて間が悪かったのだ。しかし、水に流してやり直そうという気にはどうしてもなれない。
 今まで通り、養育費を送るということで直子には納得してもらった。娘たちにも申し訳ないがそうするしかなかった。

作品名:川はきらめく 作家名:鏡湖