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海のねこまんま

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『バンチョウ。また此処に来てもいいですか?』
『来るな!』
『あんなに旨い《海のまんま》を食べさせておいて もう来るな!はないでしょ』
『ここじゃ おまえは生きていけない』
『バンチョウに教えてもらう。それならいいでしょ?』
わたしは、黒い大きな相手に向かっていきました。
体格は、わたしの倍ほど大きく、ややべっとりした黒い体毛が壁のように感じました。
それなのに あたたかい心臓が動いている。そんな音が聞こえてくるようでした。

『まったく母親に似たもんだ』
その言葉に わたしは驚きました。
『おかあさん? わたしのおかあさんを知っているの?』
『おまえの威勢がいいから つい口が滑った。 さ、帰れ!』
『何処にいるの? 教えて? 教えてください』
わたしは、体を離してお願いしてみました。
『会ってどうする?』
わたしは、こんなふうに彼といることを… 元気にしているから…と伝えたいと黒い大きな相手に言いました。
『わかった。会ったら伝えておいてやる』
『それじゃ おかあさんの元気な顔が見れない。甘えられない』
迫るわたしに黒い大きな相手は、言葉を零した。
『もう あの太陽の下だ』
わたしの前の赤い水溜まりに あまり覚えていないおかあさんの姿が映って見えました。
『おまえのかあちゃんは おまえを見失ってから他の縄張りに入っちまってボスの爪にやられた。向かったが間に合わなかった』
『……バンチョウのその傷って』
『情けねえこと 思い出してしまった。奴とやり合ってあいつを連れて帰ったが、傷が深かった。すまんな』
わたしは、訊けなかった。
訊けなかったけれど、この黒い大きな相手はおかあさんの……
そして、この黒い大きな相手はわたしの…… 

『ねえバンチョウ。もう暗いわ。わたしのこと途中まででいいの、送ってください』
『なに言ってんだ? 勝手に飛び出してきたんだろ?』
『そうよ。それがどう・・・』
『勇敢な雌が いまさら送れだぁ。笑わせるなぁ。仕方ない、今日だけだ』

わたしは、歩調を合わせるように寄り添ってくれる黒い大きな相手を ちらちら見ながら、来ただろう道を戻っていった。
『さあ、此処までだ。これ以上は、縄張り越えだからな』

作品名:海のねこまんま 作家名:甜茶