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海のねこまんま

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いつになっても彼は、わたしが居た場所には連れて行ってくれません。
でも、温かいミルクとふかふかな場所と爪をガリガリ、ひらひらと目の前に出しては遊ばせてくれました。

あれから何回眠ったかは忘れましたが、彼とわたしはいつも一緒。
お日様が見える前にわたしが彼の布団の上を歩くと、捕まえられて布団の中に押し込まれます。
あたたかい。
そのあたたかさにわたしは きゅんとして動けなくなってしまうのです。
おかあさんを思い出すから……

おかあさんは、わたしを捜しているのかなぁ…… 
もう忘れちゃっているのかなぁ……

それも この頃薄れてきたように思います。
彼のあたたかさがわたしには安心で 此処にいてもいいんだ、と思うようになりました。
でも、お日様が見えると、彼は見えなくなってしまうのです。急に不安で 壁の側にふわふわを引っ張っていき包まって震えました。そして 眠ってしまっているんです。

「アトラ。帰ったよ。アトラ」
彼の声がわたしを呼ぶと わたしはふわふわに足が絡まりながら急いで会いにいくのです。
「あ、アトラ。ただいま」
にゃぁ。
「お腹空いたね。今夜はこれ。まぐろだよ」
にゃぁ。
わたしは 少し大きくなったのでしょう。ミルクだけでなく、ぺろぺろと彼の挿しだす匙から違う味を貰うようになりました。
だんだんおかあさんのことも忘れていってしまいそうでした。
「すごいなぁ。全部食べたね」
彼の声は聞こえていましたが、わたしは体を床に横たえて 足先やわき腹など体じゅうを舐め回してくつろぎました。
「アトラは 大きくなったね。あ、このあいだ僕の机の上のケース倒しただろ? 困ったやつだな。でもまあいろいろ片付けないといけないから 部屋がきれいになったよ」

彼が笑うのがわかるようになりました。
わたしが いいことをするとなでなでをしてくれるし、失敗すると 声を出して笑う。
きっと彼が困ることをしたときでしょう……わたしは捕まって叱られたり、後ろから霧吹きをシューとされてしまいます。嫌なんです。
そして 彼が疲れてどんと帰ってくるときには わたしは近づかない。
そうやって彼は 自分の姿をいろいろ見せてくれるようになりました。
わたしは、すっかり彼と仲良しになりました。

作品名:海のねこまんま 作家名:甜茶