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海のねこまんま

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その覚えてない事の続きを語っているわたしが此処にいる。

わたし、目覚めたんです。
しかも、ふかふかのあたたかなものの上に乗っけられて、体をなでなでされていたんです。
わたし、喉に詰まっていたものがとれたように 息をついたんです。
それとともに「にゃ!」と声らしきものが出ました。

にゃ…… これがわたしの言葉。

おかあさんを捜す時に、おなかが空いた時に、兄ちゃんに踏んづけられた時に 確かこんな声を出したことを思い出しました。

「良かったぁ。ちっこいけど おまえ強いなぁ。よく頑張ったなぁ」
そう言いながら ふかふかの所から持ち上げられたわたしへのなでなでが変わったのです。
ゆっくり、大きく、包まれるみたいにもっと優しく、そして ポツンと顔に落ちてきたもの あれ? 冷たくない…… 
よく見えなかったはずの目に その姿が映りました。

自分ってどんななのかは見たことなんてなく知らないけれど たぶんおかあさんや兄ちゃんと同じ姿。でも目の前の姿は 違いました。なのに 怖いって思わなかったのです。
わたしを乗せた手はあたたかくて大きくて すっぽり体を預けても不安になりませんでした。

体! わたし泥だらけじゃ? と毛を舐めてみました。変な味もしないし。少しだけおかあさんのミルクのような甘いにおいがしました。

「こんなんでいいかなぁ」
わたしの口に細い管を突っ込むと やや温かな液が流れ込みました。
おかあさんのおっぱいよりも少し甘くってぬるいけれど おなかが空いていたわたしは むしゃむしゃ舌で管を舐め回しそれを貰いました。
「慌てなくても ちゃんとあげるから。ほら、ゆっくり。いっぱい飲んでいいよ」
言葉の意味なんて よくわからないけれど そんな感じが伝わってきました。

「はい、もうおしまい。一度に飲んだらおなか壊すぞ」
『もうないのぉ? まだ飲めるのに』
「どこの猫かな? やっぱり野良猫なんだろうな」
『わたしに訊いてるの? わたし、猫? 猫なの? そっか 猫なのね』
わたしは、自分の事をわかってくれたこの相手に嬉しくって声をかけました。
にゃぁ。にゃーぁ。
その相手は… 助けてくれた相手は… 「彼」としよう。そう決めました。
その気持ちが伝わったのか、彼は わたしにも名前を付けてくれました。
『アトラ』
決め方は単純。わたしが 黒いマスのボタンを足でポン『@』のところを触ったのです。
「アットマークかぁ… それにトラ柄だから アットラ? 『アトラ』ってどう?」
にゃぁ。
「そっか。気にいったかぁ」
それから わたしを見ては『アトラ』と呼ぶようになりました。

作品名:海のねこまんま 作家名:甜茶