そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
郁は足を止め、ほんの数センチ開いた襖の向こうの闇を見つめる。誰かがそこから覗くのではないかという嫌な想像をして目をそらしたそのとき。
「え?」
サ、と微かに、本当に微かだが、何かが畳の上を過ぎたような音がした。聞き間違いだろうか。
「…誰か、いるの?」
客間には全員がいたはずだ。だからここに、こんな真っ暗な部屋に誰かがいるはずがないのだ。いるはずが…。
「誰…?」
ぱた、と郁の耳が再び音を捉えた。
「え?」
ぽつ、ぱた、ぱた
足元に、何か落ちてきた。
「なに…?」
床には薄闇にもわかる何か黒い液体が丸く弧を描いて落ちていた。ぽた、ぽた、と音をたて、それは天井から落ちてくる。
血だ。郁の頭がそれを理解するより前に、本能が恐怖を感じ取ってほとばしった。
「きゃああっ!!」
恐慌をきたし、郁は客間へ駆けだした。血が、天井から!
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白