そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
志帆は潤子、須美子を伴い、分家へ今後のことについて話をしに出かけていった。郁は颯馬とともに借りていた部屋の掃除をしたり、荷物の整理をしているところだった。
「無事に帰れるね」
郁はほっとしていた。昨夜隠れた押入れの中で、本当に生きた心地がしなかったのだ。震える志帆とともに、祈ることしかできなかった。
「無理言ってついてきてもらってごめんね。でも郁ちゃんがいてくれてよかった、志帆ちゃんが少しでも安心できるようにって思ってたんだけど、あの子をたくさん笑わせてくれてありがとうね」
颯馬が改まってそんなことを言うから、郁はなんだか気恥ずかしくなる。
「役に立てたならよかった。志帆ちゃんとも友だちになれたし」
また、事件抜きに会う機会があるだろう。自分の存在が少しでも、誰かの支えになれるなら。そんなことはおこがましいのかもしれないけれど、郁は誰かにとってそういう存在になりたい。瑞たちのような力がなくても、ないからこそ、自分にできることを精一杯頑張りたいと、強く思う。
「心配なのは、あの二人の方だよねえ。ほら」
颯馬が息をついてそう言ったとき、客間から瑞の大きな声が聞こえてきた。それは殆ど怒鳴り声であった。
「何考えてんの!?死ぬかもしれなかった!!」
あれは大丈夫じゃないケンカ。そう言って颯馬が客間に向かうので、郁もはらはらしながらその背中を追いかけた。
「…ああするしかなかった。あのひとの思いが、俺にも伝わってきたんだ」
客間では、瑞と伊吹が対峙していた。冷静さを欠いた様子で伊吹を責めている瑞と、それをただ真正面から静かに受け止めている伊吹の姿。
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白