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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編

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悪夢の終わりに



朝までに、いろいろなことがあった。郁は眠らずに、それをすべて目に焼き付けた。

憑依を一時的に解かれた潤子が、警察に出頭すると言い、志帆がそれを全力で止めた。潤子自身に、殺意や呪術を行っていたという意識はまったくなかったが、刃物を持って家族同然の志帆を殺そうとしたことを激しく悔いていたのだ。

罪を犯した、もうこの家で働かせてもらうことはできない。そう言って泣き崩れる潤子を説得したのは、颯馬だった。

「呪いを裁く法律はない。あなたに罪はないけれど、これまで以上に志帆ちゃんを支えていく道はあるんじゃないですか?」

その言葉に、潤子は泣き崩れたのだった。殺された女に憑依されていた潤子が、女の血に連なるものであるというのは、瑞の憶測だけれど、きっとそうなのだろうと郁は思えた。いまとなっては知る由もないのだが、同じ女性であり、母であり、古多賀家に仕えてきたという事実。しかし、潤子ら歴代のお手伝いさんの罪を問うことは、やはりできない。それは真摯な思いで志帆を思う潤子を見ていれば、確信できるのだった。


すっかり意気消沈した志帆の大叔母、須美子は、すべてを知っていたわけではなかったが、自身の曾祖母から聞いたという昔話を語ってくれた。

明治のはじめ、一族がまだ事業を起こす以前のこと。御一新での功績を得た一族は、少しずつ力を蓄え始めた頃だったという。

一族の若き長男が、女中と関係を持った。
それが発覚し、女中は腹の子ともども惨殺され、闇に葬られた。

それ以降、長男の不審な死が続くこととなるが、そんなことは一族にとっては些事であったという。呪いなどと考えもしなかった。女中の無念などに気を配りもしなかった。一族の絶対的な血の力が守られていくことのほうが重要だったのだ。
須美子の曾祖母は母からそのような話を聞き、恐ろしかった、と語ったという。ひとひとりの怨念の恐ろしさと、そのような罪を犯してなお生き続ける一族の者たちの恐ろしさ。それをまざまざと語り、のちに一族の婚姻、繁栄について強大な権力を持つことになる須美子は、恐ろしさのあまり、その事実から目を逸らしてきたのだった。

「しっかりとご供養します。これで長男の死という連鎖が収まるかはわからないけれど…それでも、許されるまで償い続けることが、あのひとが安らかに眠れる日まで祈り続けることが、古多賀の家に課せられた義務だから」

志帆は、そう誓ってくれた。そして、すべてを明るみにできたことはみなさんのおかげですと、潤子とともに深く頭を下げたのだった。