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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編

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瑞はわけがわからなかった。血と怨嗟にまみれた鬼に、伊吹が一歩一歩近づいていく。

「先輩!」
「いいから!」

振り向かずに伊吹が鋭く言い放つ。いいからまかせておけとでもいいたいのか?鉈を持った鬼を前に。何十人という人間を恨みの念だけで殺しつくしてきた女を前に。

しかし伊吹に言われれば、なぜか瑞は逆らうことができない。金縛りの様に、動くことができないのだ。さらに強烈な鬼の気配が、瑞の意識を覆い尽くしてくる。死霊の気配、思いが、意識をひきちぎろうとするかのようだ。

「颯馬…!」
「だめだ…なんか、頭われそう…」

颯馬も同じようだ。神聖な守護を持つ彼に、この血と恨みの念は猛毒なのだ。誰も動けない。伊吹を除いて。

「先輩…」

伊吹はゆらめく鬼に近づくと、静かに言葉を紡ぐ。

「…こどもを生みたかったんだな」

女が伊吹の目を覗き込んでいる。真っ赤に充血した目。焼けただれた顔。

「必ず償わせる。あなたと、あなたの子を弔い、幸福な場所へその魂を連れていくと約束する」

伊吹は、鬼女の様子にひるむことなく、ただ静かに、まるで詩を朗読するかのような落ち着いた声で、ただ紡ぐ。

(あの夢で彼女に深く同調している…気持ちが入りすぎているんだ…!)

ヒトガタを作られた時点で、伊吹はこの鬼との間に通路を作られたのだ。強制的に。通い路ができた。意思も感情も、通じ合うように。