そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
瑞の呟きに目をすがめると、うすぼんやりと立つ血まみれの女の姿が見えた。伊吹が夢で見たあの女に間違いない。振り乱れた髪、すすけ、血にまみれた着物。おおぶりの鉈を持ち、生き物のようにとどろく髪の隙間から見える、目。
それはもう人間の目ではない。
世を憎み憎み憎しみ尽くし、光をうつさなくなった鬼の目である。
ユルサナイ…
地獄の底から響くような、低くおぞましき声。
ミナゴロシニスル…
「…ひどい姿だ」
伊吹は呟いていた。
「先輩、視えるの?」
「夢でつながりが生まれ、霊感なんてない俺にも視えるんだと思う」
流れ込んでくる感情。このひとの苦しみが、伊吹には自身で体験したことのようにわかるのだ。あの夢の中で、目の前でこときれた女。無念だったろう。つらかったろう。孤独に死に絶えた女。
「もう終わらせる」
伊吹は覚悟を持って、その一歩を踏み出した。
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作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白