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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編

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「がんばるって…向こうはこっちを殺しにきてるんだよ?なんか力抜けるなあ」
「おまえのありったけの神社の子の力で、潤子さんからあの女を引きはがして憑依を解く。それしか方法はない」

緊迫した状況の中でも、冷静に言葉を紡ぐ瑞を、伊吹もまた同じくらい冷静に見つめる。全身に冷たい汗をかき、口のなかは乾いている。相手は刃物をもち、こちらを問答無用で殺そうとしている。それでも。

(なんだろう、俺すごく落ち着いている…)

それはポケットにしのばせた、あの櫛の力のような気がする。きっと大丈夫だという、まったく根拠のない思いがあった。それは、昨日から自分を色濃く取り巻く、あの夏の懐かしい匂いと気配のせいかもしれない。夢で見た瑞の気配を、ものすごく近く感じるのだ。

ギィー、ギィー、と。
不吉な足音をたて、それは伊吹らの前にゆっくりと現れた。


「来た」

潤子の身体を借りた、夜叉。
両手をだらりとさげ、首をがくりと落としたまま、それは伊吹らの前に現れた。そこに佇む凶悪な憎悪の塊は、およそひとの声とは思えない声で笑い声のような咆哮をあげている。それが聴覚を通り越して心臓を掴む。ずっと聞いていれば、正気を失うような哄笑だった。

「水でひるんだところを押さえてね」

颯馬がペットボトルの蓋を開け、御神水をかける準備をする。

「潤子さん、目を覚まして!」

瑞が、呼びかける。ぴたりと笑い声がやんだ。
そして獣のような唸り声をあげ、それは素早く畳を踏み込んで突っ込んでくる。構えた包丁の先が、確実に伊吹らに殺意を向けていた。

「!」

三人がそれぞれに飛び散り、凶刃を躱す。体制を整えた颯馬が、背後から御神水を潤子にかける。盛大な悲鳴が響き渡り、のたうちまわるその女に、伊吹と瑞はとびかかった。暴れる女をなんとか押さえつけ、伊吹は腕から包丁をもぎ取った。