そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
バン!大きな音とともに、辺りが漆黒に包まれた。停電だ。
「なに!?どうしたの!?」
「みんな動くな。落ち着け」
しん、と静まり返った一同の周りを、冷たい風が吹き抜けていく。気温が、感じ取れるくらい急速に下がっていく。そしてそのときはきた。狂ったように、時計が鳴りだしたのだ。
「なんで!時計は止まってたはず!」
ボーンボーンボーンボーン
時計が鳴り続ける。不吉な音と一緒に、異様な気配が忍び寄ってくる。瑞は周囲に視線をめぐらせる。なにかくる!そして、鐘の音がやんだ…。
「須丸!!潤子さんだ!!」
闇を裂いて伊吹の声がとどろく。同時に須美子の悲鳴。
「ひいいいいー!!」
「潤子さん!なにしてるの!?」
潤子が、須美子に掴みかかっている。獣のような唸り声をあげて。颯馬と伊吹が、渾身の力で引きはがす。畳に転がった潤子は、ぜえぜえと荒い息を繰り返して起き上がる。月明かりに浮かぶ潤子の獣じみた目。そしてその手には、大振りの出刃包丁が握られていた。
「憑依されてる、逃げるぞ!」
腰が抜けている郁の手を引く。
「縁側から外へ!」
一同は縁側から外を目指す。しかしガラス戸に手をかけた志帆が、悲鳴をあげて飛びのいた。
「開きません!」
扉がびくともしないという。体当たりしても、ものをぶつけても無駄だった。
「…逃げられない!」
青白い光の中で、包丁を携えた潤子がニタリと笑った。
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作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白