そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
「鬼になるって…言ってた」
伊吹がぽつんと呟く。
「恨みを残して死んだ者は、鬼になるって…。あのひとはもう悪霊ですらない。恨みを晴らすまで、長男が生まれる限り、永遠に殺し続ける鬼なんだ」
鬼…。お腹の子どもを守ろうとした母が、鬼…。それはひどく残酷な話だと思う。殺されることがなければ…母として我が子を抱くことができたろうに。鬼になって彷徨い続けるなんて。
「これは、古多賀家にかけられた長い長い呪いなんだよ」
長い、というより終わらない呪いだ。逃れられない呪い。家が存続する限り続く呪いだ。
「償わなくては…」
志帆は決意を固めたような瞳で呟いた。
「その話が本当なら、我が家はその女性に償わない限り、長男が死に続けます。一族が滅びないのは、男の子が生まれ続けるのは、殺して奪われる悲しみを思い知らせるため。この先もずっと続く」
憎しみを断ち切る方法があるとしたら、女性を手厚く供養することだ。そう主張する志帆に、無理だよと颯馬が首を振る。
「そんな表に出ていない歴史を、志帆ちゃんの一族が知るはずない。知っていたとしても、一族の古いひとたちは、それを罪だったと認めることもないだろう。隠したいことだろうからね」
供養もできないのか…?
「ひどいね…赤ちゃん、生みたかっただろうね…」
どうしようもない思いを抱えて、郁はうつむくことしかできない。
「問題はそれだけじゃない。供養しておしまい、では終われない。伊吹先輩が狙われた理由が、未だにわからない。向こうは名前を知ってるんだ」
確かに…。まだわからないことだらけだ。
「今日がここにいられる最後の日だ。今夜、決着をつけなくちゃならない…」
またあの女と対峙すると、伊吹はそう決意を固めているようだった。
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白