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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編

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*****

火の手があがる。闇夜を照らす禍々しい炎。熱さと、様々なものが燃えるような匂い。熱風が顔を、髪を、全身を焼き尽くすようだ。

「走って!」

伊吹は、誰かの手を引いて走っている。女の手を引いて、燃えさかる廊下を走っている。髪を振り乱した、すすだらけの、血まみれの女。汚れた着物のあちこちに、腕や足から流れた血がこびりついている。

「走って!逃げるんだ!」

伊吹は懸命に呼びかけ、女の手を引く。逃げなくては。殺される!しかし屋敷に火を放たれ、周囲はたくさんの人間に囲まれている。男、女、老人。そのすべてが、こちらに憎悪の瞳を向けている。逃げ道などない。わかっている。それでも伊吹は、このひとを死なせたくない。

「ううう…!」

女が呻いて、どうと転ぶ。下腹部を抑えながら、うめき声をあげて泣く。子どもがいるのだ。腹に。

「どうして…どうして…ああああ…死ぬのは嫌…いやだあっ!」
「立って!早く…!」

しかし、二人の背後にはたくさんの殺意が追いついてきた。

「下賤の女が忌々しい!!」

たくさんの家人を引き連れ、現れたのは豪華な着物に身を包んだ老女だった。鬼のような形相で、伊吹らを睨んでいる。すさまじい殺意を感じる。殺されるのだ、ここで…。

「お許しを!!」

倒れ伏した女が吼え、床に激しく頭を打ち付けて懇願している。

「お許しを!!この子だけはお助け下さい!!この子は、この子はご当主様の!!」
「黙れ!黙れ黙れ!!」

ヒステリックに老女が叫ぶ。