そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
「そんな汚らわしい子などいらぬ!!死んで詫びるがいい!!」
殺される。伊吹は女を無理やり立たせて手を引いた。
「殺される!逃げるんだ!さあ!」
女は足をもつれさせながら、なんとか立ち上がってよろめきながら歩き出す。
「逃がすものかッ!」
老女が吼えると、そばにいるたくさんの男たちが刃物を構えて突っ込んでくる。
「走るんだ!!早く!!」
このままでは殺される。女も、お腹の子どもも。
しかし伊吹の願いもむなしく、女は日本刀を構えた男に背中を切られ倒れ伏した。血が噴き出して、女は崩れ落ちた。廊下、が真っ赤に染まる。
「あ…ああ…そんな…どうして…」
女は倒れて動かない。その瞬間、炎も、老女も、周りの景色も消え失せた。暗い闇の中に、伊吹はいまにも息たえんとしている女と二人きりだった。
「…どうして……ご当主様……ひどい…こんな…」
口から血泡を吹いた女が、か細い声で繰り返す。瞳から溢れる血の涙。助けられなかった。伊吹は絶望的な気分で、彼女の最後の言葉に耳をすませる。
「…のろってやるぅ……」
呪詛の言葉とともに、女の顔がみるみるうちに歪んでいく。
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白